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「ダンスならダンスだけでいいじゃないですか⁉︎ なんで踊ってる間じゅう、ずっと喋ってないといけないんですか⁉︎」

「実際のダンスでも楽しく会話できるように、でございますよ」

「じゃあなんでその会話の練習が「あそこの町で最近起こった事件はなんでしょう?」とか「この家の親戚を三つ答えましょう?」とかのクイズなんですか⁉︎」

「この程度の雑学は覚えていて損はありませんし、会話を盛り上げるきっかけにもなる場合が多いんですよ」

「ビアンカやゼクス様からは、言質とられないように笑ってごまかそうねって言われてますもんっ!」

「――いまはまだ、でございましょう? ゆくゆくは出来なくてはいけません。 お嬢様はラッフィナート男爵家の奥方様となられるのですから」

「そ、れは……」


(だから、たった今この瞬間にも、そうならない可能性が芽生えようとしているんだよなぁってことを考えてたのっ! ――絶対こっちの問題に対する心構えや、そもそも言質を取られない訓練した方が将来の役に立つと思いますけれどーっ⁉︎)


 そう心の中では絶叫するリアーヌだったが、目の前のメイドにそう主張してみせるわけにもいかず、ぐぬぬ……と押し黙るしかなかった。

 そしてそのまま促されるままにダンスレッスンを再開させた――


(――あの日の私。 ……もしもこの声が届くのならザームから『身体強化』をコピーしてはいけません……――こんなに汗だくになっても『強化をかけているのですから……』って一日中ダンスレッスンをさせられます……! ――いいですか、あの日の私! なにがあってもコピーしないでください……――頼むから届いて! 私に身体強化を使わせないでっ‼︎)


 ◇


 雪もちらつき始め、クリスマスパーティまであと数日、となった頃――

 パーティーのためのドレスが出来上がったとの知らせを受けたリアーヌは、母リエンヌと共に仕立て屋を訪れていた。


「――あら素敵に仕上がったわねぇ? リアーヌあなた、私よりセンスが良いみたい」


 リエンヌは出来上がってきたドレスを前に、満足そうに頷きながら笑顔を浮かべた。

 そんなリエンヌの反応に仕立て屋のおかみさんも上機嫌で二人に話しかける。


「まぁまぁ! お嬢様のセンスの良さは奥様譲りでございますとも! しかし本当にお嬢様の見立ては素晴らしく、うちとしましてもご要望通りの出来栄えと自負しておりますわっ!」


 これ以上ないほど上機嫌な仕立て屋を横目に、リアーヌは目の前のドレスを見つめ、ヒクヒクと頬を引きつらせていた。


(やべぇよ……どうすんだよこのドレス――え、私? 私がこれを着るの⁇ クリスマスパーティだよ? ハロウィンじゃ無いんだよ⁇ なのに私がこれを着てパーティに出席するって話を今していらっしゃる⁇)


 リアーヌの目の前に飾られているのは、光沢のある薄い水色のドレス。

 シンプルなAラインシルエットのドレスで足首まで隠れるものだ。

 袖はシアー素材のパフスリーで、ウエストを飾る装飾もこの布で作られている。

 そして、同時注文した手袋は真っ白なロングで二の腕まであり、繊細なティアラと銀色の靴もよく見えるように飾られていた。


(――今となってはガラスの靴じゃないだけマシだとしか……『それはちょっと……危険ですので……』って拒否ってくれた仕立て屋さん、グッジョブ過ぎですっ!)


 リアーヌはもう一度そのシンデレラのようなドレスを上から下まで眺め回し、心の中で盛大なため息をついた。


(――やりすぎたんだと今は反省しています……――決めてる時はめちゃくちゃ楽しかったけど……)


 ドレスに遠い視線を送りながらそっと息をついてため息を噛み殺す。


(――あの時はレッスン、授業、レッスンにレッスンでヘロヘロになってて……クリスマスパーティのドレス決めてる時間がものすごく楽しく感じちゃって……でも仕立て屋さんにドレスの要望とか希望なんか聞かれてもチンプンカンプンで……――今まで色の希望や、この形のドレスはイヤ。 ぐらい意見しか言ってこなかったからさ……? ――けど、あの時はレッスンじゃない予定にテンションMAXで……私だってこの話し合いに参加したい! って気持ちのままに探し当てたのがこの布だったのよ……で(あっシンデレラ!)って思っちゃって……――気がついたらこのドレスが目の前に飾られてたってわけ――どっかで正気に戻れよ私っ!)


 リアーヌは、ニコニコと感想をたずねてくる仕立て屋に愛想笑いで返しながら、紅茶に手を伸ばした。


(……ついこの間やった仮合わせの段階で、なんとか修正を試みたんだけど……変えられたことといったらティアラの石を透明から水色に変えたことと、ドレスに銀色の刺繍を追加して貰ったことぐらい……――コスプレから概念コーデになったぐらいかなぁ……? )


 ちびちびと紅茶を飲み込みながら、仕立て屋からの賛辞を笑顔で交わしてゆく。


(アンナさん達に聞いてみたら、この世界にシンデレラみたいな話は無いようだけど……――どこぞの島国から輸入されちゃう危険も大いにあるわけで……――まぁシンデレラとコラボはしなさそうだけど……ーてわもだからといってコレって許されるんだろうか……? ――あ、どうしよう。 もうパーティー出たくない……だってこのドレス着るならむしろクリスマスっていうより、この間終わったハロウィンだん……)


 リアーヌのそんな思いとは裏腹に、リアーヌが意見を出したドレスは使用人たちから大絶賛され、そのままパーティ当日を迎えるのだった――

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