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成り上がり令嬢暴走日記!  作者: 笹乃笹世
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「それは――……」


 リアーヌの意見にパトリックは言いづらそうにおずおずと口を開く。

 「さすがに……」と否定の言葉を口にするために。

 しかしリアーヌはそんなパトリックに気が付かず、思いつくままに説明を続けていく。


「フィリップ様がちょっとボロボロになって、くたびれた花を一輪の差し出しながら「急いで来たつもりだったけれど、こんな時間になってしまって、花もこんなものしか用意できなかった……」とか、申し訳なさそうに跪かれたら、キュンってなると思います」


 リアーヌのその意見に顔を見合わせる男性陣に対し、ビアンカだけはクスリと笑いながら「レジアンナならばイチコロね?」と、同意の言葉を口にした。


「だよねー!」

「イチコロ……とまで?」


 そんなリアーヌたちの会話にフィリップが困惑した声を上げ、パトリックは確認するようにビアンカに話しかけた。


「本気でそう思っているのかい……?」

「レジアンナ()好きだと思いますわ?」

「ドラマチックなの好きだよねー?」


 女性、そしてレジアンナの友人という立場の二人の意見に、フィリップは友人たちに相談を持ちかける。


「……例えば、実際にそれを実現させることは可能だろうか?」

「――レジアンナ様にだけ内密にするのであれば……?」


 たずねられたパトリックが首を傾げながら自信なさげに答える。

 しかしその心の中は、先に話を通したとしてもミストラル家がそんな無礼を許す可能性があるのだろうか……? という不安で埋め尽くされていた。


「レジアンナのみ、か……」

「ええ。 ミストラル家に話を通さずにそんな無礼は……――レジアンナ様に取り次いでいただけない可能性まで……」

「――充分に考えられるな……?」

「少なくとも公爵夫人には事前にお話しして、お味方になっていただいていたほうが……万が一噂になってしまったとしても、すぐにかき消せるはずです」


 どことなく不満げな様子を見せるフィリップに、説得するように言葉を重ねるパトリック。


「……しかしそれでは、その真実がレジアンナに伝わった時、また怒らせてしまうのでは無いか?」


 その疑問にパトリックは答えることが出来ず、たずねるような視線をリアーヌに投げかけた。

 それに釣られるようにフィリップや他の友人たち、そしてビアンカまでもがリアーヌの意見をたずねるように視線を向ける。

 いきなり多くの人に見つめられ、リアーヌはドギマギしながらも、感じたままを言葉にしていく。


「――でもレジアンナなら、冷静になって考えた時、もし本当にいきなり押しかけてた場合のリスクには気が付きますよね? だったら大丈夫なんじゃないかと……」


(私だったら絶対に気が付かないんだろうけどー……)


「――公爵夫人に連絡を」

「かしこまりました」


 フィリップの言葉にラルフが小さく頷いて、足早にこの場を立ち去る。


 その背中を視線で追っていたリアーヌはこちらに視線を送っていたビアンカと目が合う。

 そして二人は無言で見つめ合うと、唇の端だけを引き上げ、眉や肩の少しの動きで話し合う。


『フィリップ様やる気だねぇ?』

『スカーレット物語が盛り上がるわね?』


 少しの仕草からお互いがお互いになんと言っているのかを理解し、ニヤリと笑い合う。


(レジアンナがスカーレット物語にかける情熱ももの凄いのよ。 作家の人なんか、もう何回も何回も原稿の書き直しをさせられているらしい――レジアンナたちの話を聞く限りじゃ、レジアンナとレジアンナのお母様、フィリップのお母様の三人を中心に、古くからの使用人や友人たちまで加わって、寄ってたかって要求と注文を突きつけられ続けているんだとか。 ――作家さん、絶対泣いてるでしょ……)


 呆れたようにクスリと笑い、ビアンカと肩をすくめ合いながら、リアーヌはすっかり冷めてしまった紅茶を飲み干すのだった――


 ◇


 学園主催のクリスマスパーティに向けて猛特訓が行われている、ボスハウト邸のダンスホール。

 リアーヌはその少しの休憩時間にソファーにかけ窓の外を眺めながら、ため息を噛み殺すようにゆっくりと息をついた。


(もうすぐクリスマス……――つまりは年末……主人公は確実に来年入学してくる――まだ噂にも聞かないけど、でも主人公がギフトを授かるのは間違いなくて……――主人公は誰と恋愛するんだろう……――それがゼクスだったとしたら……どうなっちゃうのかな……? いやまぁ、ゼクスルートに入ったら間違いなく破談になるとは思うんですけど……でもこの家には絶対迷惑かけないようにしなきゃ……――私は絶対に悪役令嬢になんかならないんだからっ! わりとそこそこの条件で円満破談受け入れるから、そうなったらちゃんと相談してねっ⁉︎)


「お嬢様、休憩はこのあたりで……」


 リアーヌのダンスの練習に付き合っているメイドが静かに、しかし有無を言わせない圧を放ちながら話しかける。

 そんなメイドの言葉に、いまだに汗の引かないリアーヌは、キュッと唇を噛み締めながら悪あがきをするようにゆるく首を振りながら口を開いた。


「や、まだ未来について考えることがたくさんありますので……」


 そんなリアーヌにメイドはニコリと笑いながら言葉を重ねる。


「ええ。 未来の為に大切なレッスンでございますよ」


 笑顔のメイドにリアーヌは顔を思い切りしかめる。

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