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「えっと……サンプル? 使用例⁇ この台紙とこのインクでこんな風になるよ! とか、押し花はこうやって飾り付けたら可愛いよね! とか格好良いよね! とか……? そういうのをいくつか貼っておけば目立ちますし、へー……やってみよ。 って買ってもらえるかも……?」
「――それ良いね⁉︎ 凄いよリアーヌ! 君ってば本当に天才だ‼︎」
画期的な宣伝方法を教えられたゼクスは輝くような満面の笑みでリアーヌを誉めそやした。
その声はゼクスが自覚しているよりも大きく店内に響き渡り、買い物中の客や仕事中の店員たちの視線を多く集めることになった。
そんな状況にリアーヌは頬を染め恥ずかしがりながらも、その自尊心は多いにくすぐられていた。
「そ、そんな……言い過ぎですよぉー」
「まさか! まだ言い足りないぐらいだ……それでそのポップなんだけどさ?」
そう言いながらゼクスはギラつく瞳でリアーヌをロックオンするが、くねくねと嬉しそうに照れるリアーヌは、その視線にはいまだに気がつかないままだった。
「……あー、でもそれならいっそのこと、こういうのをまとめたビラを配るってのはどうですか? ――ポップなんかよりずっと見やすいかも……?」
「配る、かぁ……」
リアーヌが頭の中に思い描いている装飾方法は、知っていれば知っているだけ商品の売上に繋がると理解したゼクス。
すぐさま売り場を拡張してでも、数多くのポップを飾るつもりだったのだが……当のリアーヌ自身が、その案にはあまり乗り気ではなかった。
(そんなに大量のポップ設置は、このおしゃれ雑貨屋! 的な雰囲気ぶち壊し案件だと思いますけど⁉︎ ゲーム開始前にそんなことになったら私責任取れないよ? 万が一にもゲームに影響出たら、ラッフィナート商会の中身がドンキみたいになってるってことで……いや、あそこはあそこで楽しいけど……――だからってここがドンキ化しちゃダメでしょー……ここは未来永劫おしゃれ雑貨屋であるべきなの!)
「……たとえば、対象商品5点お買い上げの方とか、いくら以上お買い上げの方限定とかで配布すれば、売り上げアップにつながる……かも?」
この店の雰囲気を守りたいリアーヌは、なんとかゼクスの考えを変えようと必死に言葉を重ねていく。
「あ、ノベルティーにするなら、男性用と女性用は分けた方が良さそうですよね? 誰だって相手にセンスないなーって思われたくはないですけど、それでもこの店のノベルティーまんまのことしかしてこない、ってのも不要ないさかいを呼びそうです……」
「……――いっそ手引き書として売り出すのはどうかな? もちろん男女別で」
「それは……」
「……イヤかい?」
「なんかお得感が……――それにノベルティーの内容が変わったらまた買いにきても良いかも? とか、次もまたここで買お! ってなりません?」
「――それは……なるね⁇」
「ですよね⁉︎」
どうやらリアーヌの言葉は、ゼクスの考えを改めさせることに成功したようだった。
――実際このノベルティーをきっかけにラッフィナート商店には、シールや紙テープを買いにおとずれるレーシェンド学院の生徒たちが爆発的に増えた。
それをきっかけに、ラッフィナートは決して少なくない、今まではやりとりのなかった貴族とのつてを手に入れることに成功し――……さらには王都の外れに位置するラッフィナート商店のある店舗には、パラディール家の従者が、人目を忍んで買い物におとずれる姿が度々目撃されることとなるのだった――
そして、それからも新商品をたくさんプレゼントされ、それを使い思いつくがままにスクラップブックを飾り付けるリアーヌの方法が、それとは分からないように工夫されながらもノベルティーの更新に役立つことになっていく――
家に帰り着いたリアーヌは、夕飯や風呂を済ませると、自分の部屋でお礼してもらった大量のリボンやレースをテーブルの上に取り出しながら、真新しいスクラップブックを広げていた。
(私は好き勝手言っただけなのにこんなにたくさん貰ってしまった……――売り場でちらっと見たけど、レースとか結構なお値段のもたくさんありましたぜ……? 早速このお礼をスクラップしようと思うんだけど……――『気前がいい』とか『太っ腹』って意味の花言葉持ってる花ってあるのかなぁ……? ヴァルムさんかアンナさんに頼んだら用意してくれたり……? ――詩のほうが探しやすかな?)
ビクビクしながらたどり着いた自宅で、リアーヌはお小言さえ貰わなかった事実にホッとしながらも、それはそれで居心地の悪い思いをすることになっていた。
(みんなが私と顔を合わせるたびに、ものすごく気の毒そうな顔をするんだもの……そして、泣いてる子供をあやすみたいに「明日からは全力でサポートいたしますからね……? 一緒に頑張りましょう……ね? ね⁇」って……これ以上ないほどに気を使われてて……絶対にオリバーさんが大袈裟に告げ口したんだ……――でも、心が痛くなるので哀れむのだけ止めて下さい……これならいつもみたいに「お嬢様っ‼︎」って叱られたほうが、どれだけ気が楽だったか……――明日から勉強がんばろう……せめて叱ってもらえる程度の実力は付けるんだ……)




