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 そんなゼクスに気が付かずリアーヌは話を続けた。


「だって押し花ってそもそも大量に必要になるじゃないですか? 手紙や招待状にちょっとしたメッセージにも添える人多いですし、招待状とかになると最高の状態のものを使いますよね⁇」

「各家、力の入れどころだね」

「そんなところにスクラップブックの大流行ですよ」

「あー……」

「一回や二回ならともかく週に何回も交換されて、そのつど押し花使われたら予定が狂っちゃいますよ?」

「確かに……」

「それに……正直私は自作の押し花にこだわって、返ってくるのがだいぶ先になってもイヤです。 ……失敗しない補償もないですし、後から見返してカビが生えちゃってたとかもちょっと……」

「それは確かに頂けないね……? そっか、意外に需要は高いのか……――そもそも家族に押し花を都合してもらうのが気恥ずかしいと感じる人も一定数いそうだし……」

「……押し花用意してもらうのって恥ずかしいですか?」

「……ザーム様がスクラップブック用にバラの押し花が欲しいって言い出したら、リアーヌどうする?」

「……――あの子の場合で言うなら、そんな気づかいが出来る子に成長した! って家族でお祝いすると思います」

「……例えが悪かったかぁ……」


 そう言いながらゼクスは天井を仰ぎ見る。


「でも一般的には冷やかされたり、なにかと口出しされて煩わしいって感じちゃうのかなって、想像はつきました」

「なにも言われなくても、親からの生ぬるい視線とか鬱陶しいだけだからねぇ……――押し花は理解したけど、詩は? やっぱり手書きの方が良くないかな⁇」

「――ゼクス様には必要ないと思いますけど、父やザームみたいな方々には必要だと……」

「あー……――豪快だよね……?」


 ゼクスは二人の書く力強い文字を思い出しながら苦笑いを浮かべた。


「なにごとにも元気良く! が、いいんだそうです」

「……元気は大切だと思うけどね……?」


(元気が良いのと枠からはみ出すのは違うと思うけど……――絶対に枠からはみ出さないと気が済まないんだもんな、あの人たち……)


「……あの文字で恋の詩とか……――雰囲気ぶち壊し?」

「言いたいことは理解したよ。 ……それに文字に自信のない方もまぁまぁいらっしゃるし……――うん、悪くないね? ……あとはカラフルな厚紙、だっけ?」

「それとスタンプや色インクも欲しいです」

「スタンプ?」

「はい。 数字やアルファベットの少し小さめのやつが欲しいです」

「……手で描く方が楽じゃない?」

「……でもスタンプの方が格好良くないですか⁇ 日付とかちょっとしたメッセージとか」

「ええっと……」


 ゼクスはリアーヌの意見に、戸惑うように首をかしげた。


「変……ですかね?」


 リアーヌはそんなゼクスの反応に、シュン……と肩を落としながら目を伏せた。


「あ、いや……多分、俺がイメージしきれてないだけなんだ――もし良かったら、リアーヌ少しだけ作ってみてくれないかな……?」

「えっと……紙とかいただけるなら……?」


 リアーヌがそう首を傾げたところでタイミング良く「――坊ちゃん、もしよろしければあちらで……」という店員の声がかけられた。


「ああ、ありがとう」


 そう答えたゼクスにエスコートされ、リアーヌが連れて来られたのはこの店のレジカウンターの端だった。

 そこにはすでにシンプルで高い椅子が置かれ、紅茶とお菓子が用意されていた。

 そのそばには可愛らしい花まで飾られている。


「本当なら中で――って話になるんだろうけど……――正直、ココが一番綺麗だから……」


 ゼクスは困ったように苦笑を浮かべながら肩をすくめた。


「……そうなんですか?」

「本店ならともかく支店はねぇ……? どこも、出来るだけ売り場を広く! 倉庫を広く! の精神で立ててるから……王都にある支店で商談なんかしないし……――だからこんなとこになっちゃうんだけど、今日は大目に見て?」

「――お菓子があるなら、全然気にしません!」

「……うん。 たくさんお食べ……?」


 キラキラと瞳を輝かせながらクッキーを見つめるリアーヌに、ゼクスは必死にため息を吐きそうになる自分を押さえつけた。


(堪えろ! 今は商談の真っ最中と言っても過言ではないっ! 気を悪くさせるな‼︎ 毎回毎回必ず食べ物に釣られてくれる律儀でいい子じゃないかっ!)




「――こんな風に黒い紙に白いインクで文字を書いたり、スタンプしてもいいですし……さりげなさを装うならここに普通のインクで愛の言葉なんか添えちゃったりして……」


 リアーヌはそう言いながら台紙にペンを走らせる。


「わぁ……ソレとんでもなく流行りそう……」


 隣から見ていたゼクスは、一見すると分からない文字が、光の反射によって簡単に読み取れてしまう事実に驚愕しつつも、好きそうなヤツがわんさかいるわ……と、もはや天敵とも言えるクラスメイトの顔までもを思い出し、思わず眉をひそめた。

 そして続いて気がついてしまった事実にひそめた眉をさらに引き寄せる。


「……流行るとまずいですかね……?」


 ゼクスの言葉と表情が合っていないこと気がついリアーヌは戸惑いながら首をかしげる。


「――これは絶対流行るのに……これを実際に見ていない人には、この技術が伝わらない……」


 そう言いながら大きく肩を落とすゼクスにリアーヌは、今度は反対側に大きく首をかたむける。


「――あの売り場にポップとか置いたら良いんじゃ……?」

「……ポップ?」


 ――この世界は中世ヨーロッパ相当の世界観で成り立っている。

 当然、現代日本のようなポップで商品の説明をする店も無ければ――そもそも“ポップ”と呼ばれる看板など、この国では存在すらしていなかった――

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