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(えっと……戦争、アグスティンとウルキオラ……――あれ? これって二カ国間戦争のことだったりする⁇ だったら――)


「……物価の上昇、失業率が過去最大、大規模な市民権の不法売買の摘発……あ、ベネディートから姫君が入内(じゅだい)なさって王子が生まれました!」


(これだけ言えれば十分じゃない⁉︎ やっぱり私、座学はできる子なんだ……!)


 やり切った……と満足げな表情を浮かべるリアーヌだったが、オリバーたちは到底満足など出来そうにも無いようだった。


「――……リアーヌ、単語でしか歴史を覚えてないんだね……?」


 沈痛な面持ちでそう話しかけたゼクスは、軽く首を振りながらため息をついた。


「……そうですけど――でもみんなそうでしょう⁉︎」


 あからさまにため息をつかれ、リアーヌはムッとしたように言い返すが、それに間髪入れずに言葉を返したのはオリバーだった。


「いいえ違います。 断じてそのようなことはございません」

「え、あの……――すみません……?」


 キッパリと無表情で言い放つオリバーに、リアーヌは急に不安を感じ、勢いを無くしながらモゴモゴと答えた。


「……――いいえ。 ……これはボスハウト家の過失にございます……」

「え、過失……?」


 オリバーの答えにギョッと目を剥くリアーヌだったが、オリバーは目を伏せたままリアーヌと視線を合わせようとはしなかった。

 そしてそのままゼクスに向かって深々と頭を下げる。


「私の質問は以上でございます。 お時間を頂いてしまい申し訳ございませんでした。 ――どうかお嬢様をよろしくお願いいたします」

「えっ……?」


 質問の答えすら知らされないとは思ってもみなかったリアーヌは、少々抜けた顔をオリバーに向けるが、何かにジッと堪えるようにしているオリバーと、視線が合うことは無いようだった。


「あの……?」


 リアーヌは訳がわからず、助けを求めるようにゼクスを見つめる。

 困ったように肩をすくめたゼクスは、リアーヌには曖昧な笑顔を浮かべ、オリバーのほうに向き直った。


「――お預かりいたします。 夕飯までには必ず」

「よろしくお願いいたします。」

「え、や……あの……?」


 戸惑いの声を上げ、チラチラとオリバーに視線を送るリアーヌの背中を軽く押しながら、ゼクスは部屋をですように促した。


「――オリバーさん……」


 リアーヌが不安そうに、その名前を小さく呟くように呼んで、ようやくオリバーはリアーヌに視線を向けた。

 その表情は困ったように歪んではいたが、はっきりと笑顔を浮かべていて、リアーヌは知らずに詰めていた息を吐き出した。


「――そんな顔しないでくださいよー。 お嬢様、ピペーズ通りでのデートお好きじゃないですかー?」


 オリバーは困っていることをごまかすように、どこかわざとらしく、からかうような口調で話しかける。


 ピペーズ通りには、数多くの見目麗しいスイーツを置く店や、可愛らしい菓子やパンなどが看板メニューとなっている飲食店などが数多く出店されていて、流行に敏感な若者たち、ことさら女性たちの間で絶大な人気を誇っていた。

 

 流行にアマを敏感ではなかったが、可愛いくて美味しいものが大好きなリアーヌもこの通りがお気に入りで、デートのたびに必ずと言っていいほど、この通りで休憩をしたり、立ち寄ってから、帰路についたりして土産を持ち帰っていた。

 だからボスハウト家の人間たちの間でも、リアーヌのピペーズ通り贔屓はよく知られる事実だった。


「それは、そうなんですけど……」


(――ちょっと行きにくいといいますか……なんかこうモヤモヤするといいますか……)


 口ごもるリアーヌに、オリバーは少し諦めたように軽いため息をつけながら「それにーー」と続けた。


「……それに?」

「……私の見立てでは、おそらく明日からのスケジュールは、全て埋まってしまうと思われます。 なので今日を逃すと次の機会はなかなかやってこないかと……」


 そういいながら恭しく頭を下げるオリバー。


「……え、いや――でも、私今でも割とマナーとか立ち振る舞いとか……」


(家帰ってから、ずっとやってますよ? 毎日のように頑張ってますよ⁇)


「はい。 (さいわ)いにしてそちらはお嬢様の努力が実り、お力を付けていているとみなが褒めております」

「だったら――」

「ですので。 ――明日からは一般教養、そして座学にも力を入れましょう」

「…………テストの点は」

「点が取れているからと言って、理解していないものをそのままにはしておけません」


 ピシャリとはねつけるようにそう言ったオリバーの瞳は、凍りついたかのように冷たかった――



「……今日はやめとく……?」


 オリバーとの会話でガックリと項垂れてしまったリアーヌに、ゼクスは気を使うように静かに話しかける。

 リアーヌはそんなゼクスをジッと見つめ返すと、縋り付くような声色で呟いた。


「――今日からラッフィナートの子にしてください……」

「うん。 密室とはいえ人聞きが悪すぎるからやめてもらえるかな?」

「……今夜は帰りたく無いの」

「こんな状況で言われたくなかったなぁ……?」


 死んだ魚のような目で、淡々と言い募るリアーヌに、ゼクスは盛大に頬をひきつらせるのだった――

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