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成り上がり令嬢暴走日記!  作者: 笹乃笹世
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「――有力貴族なんか、個人が好んでるってだけで周りが使うのを控えてしまうくらいだからね……」

「あー……」


(レジアンナのグランツァのことですね、分かります……――もはや社交界ではレジアンナが使ってるポプリ、彼女専用って言っても過言じゃ無いし……まぁ、他にもグランツァのポプリは沢山あるし、平民には関係ないし、貴族階級の人だって、社交以外なら普通に使ってるみたいだけど……それでもだよねぇ……? ――今度、グランツァとオレンジ合わせたポプリ作って、フィリップ経由でレジアンナ専用ポプリ作ったよ! ってしたら変えてくれるかなぁ……?)


「――またサンドバルに行って探してみようか?」

「……え、私が探すんです……?」


(うちが報酬を支払う側なのに、私に働け、と……?)


 訝しげなリアーヌの表情に、ゼクスはバツが悪そうにこめかみ辺りをかくと、ため息混じりに口を開いた。


「あー……その――村のみんなから冬の長期休暇の予定を聞かれていてね? ――リアーヌ楽しそうだったし……旅行がてらどうかなーと思って……⁇」


 決まりが悪そうに言うゼクス。

 この言葉にウソなど存在しなかったが、実際のところは少々違っていた。


 ゼクスが冬休暇中に数日間の滞在を村側に伝えた途端、村からリアーヌの同行をうかがう手紙やらリアーヌ宛の贈り物などが大量に届くようになったのだ。

 贈り物に関してはオリバーやヴァルムを通してボスハウト家に届けているはいるが、ボスハウト家はリアーヌにこの事実を伝えない決定を出した。

 ――理由がサンドバルに向かうまでに立ち寄る、セハの港にあることは明白だったので、ゼクスとしてはあまり強くも出られなかったのだが――

 この決定に頭を抱えてしまったのはゼクスだった。

 村の者たちがリアーヌにもう一度訪れてほしいと思っていることは明白で、ここまでされて同行しないとなると、村の者たちから確実に失望されてしまうだろう。

 国から任された事業が動き出そうとしている今、少しでも村人たちの心を掴んでおきたいゼクスにとって、そんな事態は避けたいことだった。


「旅行ですかぁー……」


 そこまで特別興味があるようには見えないリアーヌに、ゼクスは慌てて言葉を重ねる。


「ほらパール商のおっちゃんにたこ焼き食べさせてもらうついでにさ⁉︎」

「たこ焼き……!」

「それに夕日も星も冬の方が空が澄んでて綺麗だって言うし……ほら焚き火とか囲んでさ、きっと楽しいよ⁉︎」

「……それは楽しそう」

「だろ⁉︎ それにショートケーキもあるしね!」

「――ですね⁉︎」


(それに旅行中だったら、マナーとかのレッスン無しだよね⁉︎ 普通、旅行中とかは宿題やらないもんね⁉︎ しかもセハの港に行けばまたお刺身が食べられるかも⁉︎)


「――旅行、行きたいです‼︎」


 リアーヌのその言葉に、ゼクスはグッと右手を握りしめ、小さなガッツポーズを作る。


「よしっ! じゃあボスハウト家には俺からお伺い立てとくから、ヴァルムさんに旅行行きたいって伝えといてね?」

「はいっ!」


 ゼクスとおしゃべりをしながら、ゆっくり歩いていたリアーヌたち。

 ようやく騎士科の校舎前にたどり着く。


「あ、ちょうどエドガーも来たところみたいだよ――あれ? サンドラ嬢も一緒みたいだ」

「あ、本当ですね」


 二人の視線の先にいるエドガーたちは、お互いにどこかぎこちない様子でスクラップブックのやりとりをしている真っ最中だった。


「普通科のほうでも流行ってるんだ……」


 リアーヌはそんな光景を見て感心したように呟く。


「――……リアーヌは俺になにか頼み事っていうか……して欲しいことあったりしないの……?」


 ゼクスは頭をかきながら、チラチラとリアーヌに視線を送りながら、少し恥ずかしそうな伺うような態度でたずねる。

 そんなゼクスの様子に、リアーヌはハッと瞳を見開き、ゼクスの顔を期待のこもった瞳で見つめ返した。


(それってつまりー―― きっとそういうことよね⁉︎ えっ本当にいいの⁉︎ え、いいってことだよね⁉︎)


「――なにか、ある⁇」


 照れ臭そうにはにかむゼクスに、リアーヌはさらに瞳を輝かせ期待に胸を膨らませながら口を開いた。


「今度はお刺身食べたいです‼︎」

「――――却下」

「ええー……」

「ええー、じゃないよ! いくら新鮮でも生はダメ、普通に火を通して食べるの!」

「……美味しいのに」

「美味しいからって、なんでもかんでも口に入れちゃいけないでしょ⁉︎ あの後俺がどれだけヴァルム殿にイヤミ言われたか!」

「……――ヴァルムさん、あの後そこまで怒って無かったですよ? ――まぁ、万が一があるのでもう口にしてはいけませんよ、とは言われましたけど……」

「……あの時は俺が全ての安全を保証しますって言ってお預かりしたわけだから――俺にはその落ち度もプラスされてるんだよ。 ――リアーヌが注意だけで済んだのは……多分結果論で、なんの問題も起きなかったから……じゃないかな?」

「――黙ってれば……」

「ヴァルム殿にウソは通用しないだろ……?」

「……やっぱり確認されますかね?」

「確実にされるだろうね⁇」


 呆れたように肩をすくめるゼクスに、リアーヌはぷうっと頬を膨らませて、不機嫌であることを全力で表した。


(なんだよー。 結局お刺身食べられないとか……――じゃあ俺にお願い云々ってなんの話だったわけ……⁇)


 リアーヌは唇を尖らせながらジロリッとゼクスに胡乱(うろん)げな視線をゼクスに向けた。

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