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そんなリアーヌの願いが通じたのか、ただ単にレジアンナとの顔つなぎがしたいだけなのか、二人しか座っていなかったテーブルには、ニ人の同席者が現れていた。
それによりレジアンナにも会話に対する配慮が少しは芽生えたようで、エンドレスでフィリップの話をするのは控えていた。
それを確認したビアンカもようやくリアーヌたちと同じテーブルについて、少女たちと共にケーキに手を伸ばす。
「――あら、本当に美味しい……」
「でしょう⁉︎」
ビアンカに、今回用意されたお菓子の中でも一推しの桃のショートケーキを褒められたリアーヌは、満面の笑みを浮かべる。
「フワフワしていますのね?」
「真っ白でフワフワで……まるで雪のようですわ⁇」
同席を願い出た少女たちも、その会話でショートケーキに惹かれたのか、一口食べると瞳を輝かせながら言葉を交わし合う。
(なにその表現⁉︎ めっちゃ素敵なんですけど! ……私も使おう)
「――本当! まるで雪みたいっ」
「……あなたはさんざん食べてるでしょう?」
「……日々新しい発見があるのは良いことだと思うの」
目をそらしたリアーヌが震える声で言う。
呆れたように目をぐるりと大きく回してため息をついたビアンカは、軽く首を振りながら、リアーヌの言葉など聞こえなかったかのように再びケーキを口に運んだのだった。
レジアンナも大人しくショートケーキを食べながら、小さく頷いている。
(すごい。 あのレジアンナが黙ってケーキを食べてる……――ショートケーキってば偉大過ぎる……)
「……でもやっぱりイチゴのが食べたかったなぁ……」
自分でもショートケーキを食べながら、そこに乗るフルーツがイチゴではなく桃なことを残念に思ったリアーヌは、ポソリと、そう口に出していた。
「確かに合いそうではあるけど……――このケーキだって相当美味しいわよ?」
ビアンカの言葉に、同席している少女たちも同意を示すようにコクコクと頷く。
「美味しいけど……このケーキには甘酸っぱいイチゴが一番合う気がしない⁉︎」
「……食べたことがないから、今のところは桃が一番ですわね?」
苦笑いを浮かべるビアンカの答えに、リアーヌもそれはそうだろうな……? と納得し、小さな声で「ですよねー……?」とだけ返した。
「機会があれば、イチゴのケーキもいただいてみたいですわ」
「そうですね。 一番合うだなんて……気になってしまいますわ?」
そう言いながらニコニコと笑いながら顔を見合わせる二人の少女に、リアーヌは愛想笑いを浮かべて「機会がありましたら是非」と答えていた。
(あっ……すごい! 今の返事めっちゃスムーズに出てきた‼︎ 私成長してるっ‼︎)
「――私の一番はミルクレープですわ」
リアーヌが自分の成長に一人静かに喜んでいると、レジアンナが少し恥ずかしそうにポソポソと小声で言った。
「……はいはい。 スカーレットスカーレット」
本当、隙があったらその話ぶっ込んでくるよねぇー……と、生ぬるい視線を美しく整えられたら庭の花々に投げつけながら、リアーヌはケーキを頬張った。
「グランツァのものでなくともよ⁉︎」
リアーヌの反応にレジアンナは珍しくムッとしたように顔をしかめながら抗議するように言った。
「……そうなの?」
「――その、フォークで切る時の感触が面白いから……こんなこと言うと子供っぽいと思われそうですが……」
レジアンナは家族からそう笑われたことを思い返しながら、恥ずかしそうに説明する。
「――確かに、独特の感触がしますわね?」
「ええ、フォークから伝わってきます」
少女たちがコクコクと頷きながら同意すると、レジアンナはホッとしたように微笑む。
「そうなんですの! あの感触が好きなんですの」
(……ケーキを切る時の感触かぁ……――一刻も早く口に入れたいって願望しか無かったなぁ……? やっぱり生粋のお嬢様は、物事に対する感じかたからすでに違うもんなんだ……)
リアーヌは感心したように話を聞きながら、もぐもぐとケーキを食べすすめていると、少女たちの視線がリアーヌのほうに向く。
「――リアーヌ様は凄いですわねぇ?」
「本当に! カフェ・サンドバルといえば、今王都で一番人気ですもの! リアーヌ様の発案だとお聞きしましたわ」
リアーヌはいきなり話しかけられて、慌てている内心を隠すかのように、口の中のケーキを紅茶で流し込む。
しかし謙遜する言葉を発する前に少女たちはさらにリアーヌを持ちかげる言葉を続けた。
「ベアトリス花園の鐘やグランツァもリアーヌ様の発案なんですって」
「まぁ! 素晴らしいですわ‼︎」
(……あれ? この話の流れは……――この子たちが顔を繋ぎたいの、レジアンナじゃなくて私……⁇)
「あー……アイデアだけなんですけどね?」
「まぁ、ご謙遜が過ぎますわ? アイデア無しではどれも実現など致しておりませんのに……」
(……どうしよう。 ここまで褒められる想定なんかしてなかったんですけど⁉︎ 一回謙遜したら、そこで会話を終わらせてもらわないと私が困ってしまいますが⁉︎ ……え、これもう一回謙遜して良いよね? するよ⁇)
ビアンカからのフォローが入らないことを、かなり不安に感じながらも、リアーヌは再び謙遜の言葉を口にする――
この会話にビアンカがフォローを入れなかったのには明確な理由があったからだった。




