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成り上がり令嬢暴走日記!  作者: 笹乃笹世
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「――おや、それはいけないね? もしや傲慢なエスコートをして、傷付けているんじゃ無いだろうね⁇」


 フィリップは真面目な顔つきでそう言ったが、その言動は芝居めいたものだった。


「これはこれは……なんとも重みのあるお言葉で……」


 パトリックが神妙な態度でそう答え――友人たちはお互いがお互いに顔を見合わせ合うと、同時にプッと吹き出し、ケラケラと楽しそうな笑い声をサロン内に響かせたのだった。




 ひとしきり笑い合ったフィリップは、喉を潤すように紅茶を少し口に含む。

 そしてそのカップに視線を落としたままポツリと呟いた。


「――しかし、リアーヌ嬢のような方であれば、レジアンナにとって良き友人になるのだろうな……」

「諸刃……と言う部分もありそうですが……」


 パトリックもカップを手に取りながら困ったように肩をすくめた。


「……だがいずれ必要になる。 気を抜いて言葉を交わしあえる者が……家や立場――利害が一致せずとも信頼しあえる者たちがな……」


 フィリップは少し照れ臭そうに唇を歪めながらも、パトリックたちの顔を一人一人見渡しながら言う。

 言外に「この関係のように……」と伝えながら……――友人たちと目が合うと、考えていた以上の照れ臭さがフィリップを襲ったが、今の自分達には、きちんと言葉にして伝えることが大切なのだと感じての行動だった。

 ――そしてその思いを正しく受け取った友人たちも、少しくすぐったそうに笑いながら目配せしあって頷き合った。


「……――リアーヌ嬢のお言葉を借りるならば『私たち大親友なんで!』……でしょうか?」


 ラルフはクスクスと笑いながら言った。

 その言葉を受け、イザークも肩をすくめながら答える。


「――その言葉は……少々恥ずかしいな?」

「ええ。 イヤな気分にはなりませんが……――なんだか居た堪れなくなりますね?」


 パトリックがそう話を向けると、フィリップも苦笑を浮かべながら、同意するように小さく肩をすくめた。


 そして――

 利害など一致せずとも信頼しあえる大親友たちは、クスクスと笑いながら、このサロンで交わされるにしては珍しく、年相応に狩りの話や噂話、女性の話などに興じたのであった――



「ビアンカ様のお持ちになったボンボン、なんて素敵なのかしら……」


 一人の少女が、目の前に置かれたばかりの、宝石のようにきらめくお菓子を見つめ、うっとりとため息をもらした。


 今日はレジアンナに招かれ、参加することになった勉強会の日。

 ミストラル侯爵家のレジアンナの自室に集まった少々たちの前には“勉強会”と言う名目とは裏腹に、色とりどりのお菓子と芳しい香りを放つ紅茶しか置かれていなかった。


「数少ない自慢の一品ですの」


 褒められたビアンカは嫌味にならない程度に謙遜しつつも、胸を張って答える。

 そんな態度に周りも「またまたー」「謙虚ですわね」とお決まりの言葉を返した。


「リアーヌ様のお持ちになったこのケーキもとっても素敵!」

「ええ! それにとってもいい香り」


 今度は別の少女たちが瞳をキラキラと輝かせながらリアーヌに笑顔を向ける。


「――もしかしてグランツァなのでは……?」


 レジアンナのすぐ隣に座っていた少女が、どこかからかうようにチラチラとレジアンナに視線を送りながらたずねる。

 レジアンナがフィリップから送られたグラツァのポプリを香水代わりに愛用していることはもはや周知の事実であった。


 その質問にリアーヌはグッと拳を握りしめながら、気合を入れ、口角を上げながらレッスンの成果を披露する。


「はい。 今週末にオープンする『カフェ・サンドバル』の商品でミルクレープと言う名前のケーキです」


 リアーヌ乗り換え言葉に少女たちは顔を見合わせながら頷き合う。


「ああ、ラッフィナート男爵家の……」

「確かピペーズ通りに出来ますのよね?」


 少女たちがすでに出店する事実だけではなく、場所まで知っていることに嬉しくなったリアーヌは満面の笑顔を浮かべながら大きく頷いた。


「そうです! あ、でもこのケーキは特別なんですよ」

「あら、そうなの?」

「はい。 せっかくレジアンナ様にお誘いいただいたんで……店に出すものはクリームの色が一色なんですけど、今回のは色の濃さを変えてグラデーションにしてもらったんです!」


 リアーヌが持ってきたケーキの断面は一番上がピンクで、そこからどんどん色が濃くなって一番下の段はとても濃いピンク色になっている。


(クリームと混ぜるから、どうしたって真っ赤な色は出なかったけど……――個人的にミルクレープの断面はパステルなほうが美味しく見える派だから、この色合いで正解だと思ってるよ)


「色合いが美しいですわ」

「あ、ほんのりですけれど、ちゃんとグランツァの香りもしますのね?」


 リアーヌの説明にケーキの断面に顔を近づけていた少女たちは、ケーキから香る甘い匂いに目を細めてお上品に息を吸い込む。


「――こちらのケーキをレジアンナ様にご献上いたします」


 リアーヌはそう言いながらゆっくり優雅にレジアンナに向かって頭を下げた。


「……よろしいの? 今カフェの商品だと……」


 リアーヌの言葉にレジアンナは戸惑いの声を上げた。


「はい。 ですがこのケーキは“特別に”作ってもらったものなので……――クリームが一色のものや、グランツァを使っていないものは多めに見ていただければと……」


 リアーヌは事前に練習していた通りの言葉を口にしながら、速度や角度に気をつけて練習通りに礼の姿勢をとる。

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