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成り上がり令嬢暴走日記!  作者: 笹乃笹世
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「さて……今回はどうだったかな?」


 リアーヌたちが退出し、レジアンナを馬車まで送り届けたフィリップは、鼻歌すら歌い出しそうなほどに上機嫌な様子で戻ってくるとそのまま席につき、イザークに向かって話を振った。

 しかし話しかけられたイザークは、だいぶご機嫌な様子のフィリップにもあまり反応を示さず、硬い表情のまま報告を始める。


 すぐさまその様子に気がついた友人たちは、互いに目配せし合うが、結局誰も原因を知るものはおらず、仕方なく今は大人しくその報告を聞くことにしようと、話に耳を傾ける。


「――お三方ともにウソらしいウソは……リアーヌ嬢の発言で数回ひっかかりを覚えましたが――その……」


 そこまで言ったイザークは、言いにくそうに言葉を詰まらせる。

 その態度に心当たりのあったフィリップは苦笑を浮かべながら肩をすくめた。


「――心優しいリアーヌ嬢と言えど、すぐさま“水に流す”ことは難しいようですね?」

「仕方がないことかと……」


 話を向けられたパトリックも、同じように苦笑を浮かべながら、控えめに肩をすくめ、さらに言葉を続ける。


「……けれどあの方であれば、これからいくらでも関係を築いて行けるのでは?」

「――そう願いたいな」


 フィリップは、リアーヌたちを見つめるレジアンナの羨望の眼差しを思い返し、心からそう願った。


「――その……」


 そんなフィリップたちに、イザークが言いにくそうに声をかける。

 二人はイザークを見つめ返し、視線や仕草でどうしたのかとたずねる。


「その……冗談などを除いてしまえば、本心ではないと判断するほどの大きな引っ掛かりは“いたずら”と発言した時程度のものでして……」

「……では水に流すと発言した時も本心だった、と――?」

「……正確には、引っ掛かりはあったのですが、本心で無いとまでは……」


 その答えに大きな違和感を感じたフィリップとパトリックは、次の瞬間とても縁起の悪い考えが頭に浮かんでしまい顔をこわばらせる。

 そして先ほどまでのイザークの態度に、少し納得してしまった。

 ――おそらくはイザークが一番先に、その不吉な考えを思い浮かべてしまったからこそ、こんなにも答えに歯切れがないのだろう……と。


「……あのさ? 水に流すとなかなか言い出さなかったのも、本心からだったりするの⁇」


 ラルフは声をひそめながらも、どこかワクワクとしながらイザークにたずねた。

 この部屋の中で唯一、イザークのギフトをいまだに心から信じている様子だ。


「――本心というか……あの引っ掛かりはおそらく、本気で言葉を忘れていただけだと思う」

「やっぱり⁉︎ ――だと思ったんだよねぇー」


 苦笑を浮かべるイザークの言葉に、ラルフは嬉しそうに微笑みをこぼしながらうんうんと大きく頷いてみせる。

 ――どうも彼は、リアーヌの人並外れた言動を楽しみにしている、ファンの一人のようだった。




「――……なあ、なにかウソをついてくれないか?」


 楽しそうなラルフにイザークはゴクリと喉を鳴らしながら語りかける。

 そしてフィリップたちは息を呑みながらそんな二人を見つめていて――


「……いいけど? ――僕は騎士科に所属している」


 ラルフの言葉を聞いた瞬間、イザークは大きく息を吐き出しながら「良かった……」と安堵した様子で言葉を漏らした。

 そんなイザークに、頭の周りにはてなマークを沢山飛ばしながら首を傾げるラルフ。

 フィリップたちはイザークの言葉にホッと胸を撫で下ろしながらも、口は開かずにイザークを見つめ、きちんとした説明を待った。


「――はっきりと分かります。 今のはウソです」

「……問題ないんだな?」

「はい……!」


 フィリップが念を押すようにたずね、その言葉にイザークは胸を張って笑顔で答えた。


「――安心したよ……私はてっきり……」


 パトリックはそう言いながら、言いにくそうに鼻をかいて、言葉を濁す。


「……私も、あまりに引っ掛かりが薄くて、力が無くなる前兆ではないのかと……」

「思い過ごして何よりだ……」


 自分が濁した言葉をこともなげにイザーク自身が発言したことに、パトリックは苦笑しながらも、改めてホッと胸を撫で下ろしていた。

 自分からその言葉を言えるのであれば、本当にもう、なんの憂いも感じていない証拠なのだろうと思えたからだ。


 イザークのことが杞憂だったと分かり、友人たちの間にホッとした、安心した空気が流れた頃、ふとパトリックが思いついた疑問をそのまま口にする。


「――つまり、そうなるとリアーヌ嬢の懐は相当……――ラッフィナートでやっていけるんでしょうか……?」


 パトリックの発言に、フィリップは忌々しそうに顔を歪め鼻を鳴らしながら答えた。


「ヤツに手放すつもりがないんだから、どうとでもするんだろう?」


 急に態度の悪くなったフィリップに苦笑しながらもパトリックは納得するように頷いた。


「先日のお茶会での際も必死にフォローしておいででしたね?」

「――……まぁ、あの件は結果的にこちらの借りだ。 悔しいが問題にはしにくい……実際多少の感謝の気持ちはあるし――レジアンナがだいぶ気に入ったからな」


 困ったように笑いながらフィリップは言った。

 その言葉を聴きながらパトリックは手元に視線を移し、ビアンカとリアーヌの稀有な関係性を思いだしていた。


「女性の社交は男性よりも家の意見に左右されるもの……あのように言い合える友人はなかなか……――実を言うと、我が婚約者殿は、私と会話をしている時よりリアーヌ嬢と喋っている時のほうが、表情豊かなんじゃ無いかと……」


 パトリックは声をひそめ、芝居がかった様子で告げる。

 友人たちはその言い方や言葉にニヤニヤ、クスクスと笑い声を漏らした。

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