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成り上がり令嬢暴走日記!  作者: 笹乃笹世
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 そんなゼクスの苛立ちもフィリップの真意も、その全てを理解していないリアーヌは、ただただ言葉通りに受け取り、どうするべきかと頭を悩ませていた。


(やられたことに対しては今だって腹は立ってるけど……――私の態度も相当あり得なかったことは事実なんだよなぁ……まぁ、ここまでラブラブになってる以上、ビアンカの未来の上司の奥様な確率ものすごく高いし……――少しぐらい仲良くしとくべき? 今は私もゼクスの婚約者なわけだから、取り巻きにはされないだろうし……)


「その……あの時の私は、お誘いの返事に手順やマナーがあるとは思っていなくて……――レジアンナ様が腹を立ててしまうのも当然だったと……」


 リアーヌはそう言いながら当時の自分を恥じるように、視線を揺らしながら答えた。


「――(わたくし)もその時の話を後から聞きましたが、そこまでの態度を取られてあの程度の意趣返しですませたレジアンナ様がご立派なのですわ?」


 ビアンカがフォローを入れるようにフィリップやレジアンナに話しかけ時間を稼ぐ(・・・・・)――


 なにごとにも手順やマナーがある社交界においては、トラブルになった際の解決方法にまで手順やマナーが存在していた。

 ――つまり、フィリップから「水に流して欲しい」と要望を受けているリアーヌは、それに対する正しいマナーや手順で答えることを求められているのだったが……


(――このおバカ、絶対に忘れてるわ⁉︎ 今、自分で『手順やマナーがある』と言ったばかりですのにっ!)


 ビアンカはそんな内心を完璧に隠し切りながら、リアーヌに向かって美しい笑顔でアイコンタクトを送ろうとするが、リアーヌは目を伏せアゴや頬に手を当てながら、困ったように首を左右に傾けている。


(……今の会話の中で困るような要素がどこにありましたのよ⁉︎)


 そんな二人を眺めながら内心でほくそ笑むゼクス。

 ――人の心を読み解くことに長けているゼクスには、ビアンカの動揺が手に取るように読み取れていた。

 あいにくとリアーヌの内心を読み解くことはいまだに難しいようだったが、この状況下ですビアンカが焦っているのだから、答えは自ずと理解できると言うものだ。


(ナイス、リアーヌ! 多分本気で返す言葉を忘れてるんだろうけど、返しとしては百点満点の対応だよっ‼︎ 初めにボスハウトを舐めてきたのは向こうなんだから多少の意趣返しは許されて然るべきだよねっ‼︎)


 その心の内で焦っているであろうビアンカを少し気の毒に思いながらも、ゼクスは全力でリアーヌがしばらく手順を思い出さないことを全力で応援していた。


(“無知とは罪なり”とか上手いこと言ったもんだよねぇー? 知らないって恐ろしいことだよ本当に……――あの時の返事なんか口頭で「あー……そういう堅苦しいの苦手なんで……」だけだったもんなぁ……しかも封筒にレジアンナの名前見つけてからのお断りだったから、私ってば多分、招待状の差出人見た瞬間に顔しかめてる説まで浮上してて……――知らないって、本当に恐ろしい……)


「――あの程度で済ませてもらったんだから、むしろリアーヌがお礼を言う側なのではなくて?」


 このままでは会話が止まってしまうと判断したビアンカは、冗談めかして言いながらリアーヌに少々露骨なアイコンタクトを送る。


「えー? ……ビアンカがそういうなら? ――レジアンナ様、ありがとうございました」


 ビアンカのアイコンタクトには気が付かずにクスクスと笑いながら頭を下げるリアーヌ。

 そんなリアーヌの態度に、眉間に皺を寄せ口を開きかけるフィリップ。

 しかしフィリップが言葉を発する前に、その腕をレジアンナが引いて小さく首を横に振った。

 そしてリアーヌたちに向かって控えめな笑顔で話しかける。


「――ウワサ通りお二人は仲がよろしいのね?」

「そんなことは……」


 ビアンカは、レジアンナの言葉に口元を隠しながら謙遜するように否定して見せるが、リアーヌは満面の笑みを作って大きく頷いた。


「大親友だもんね!」

「……あなたはそうやって……」


 ビアンカが呆れたように返すと、ゼクスやパトリックがクスリと微笑みを漏らし、サロン内の空気が柔らかく変化していく。


 その空気を感じ取ったビアンカはリアーヌの足に自分の足をコツリとぶつけ、目があった瞬間、視線や仕草でレジアンナを指し示した。

 ――これでどうか思い出して欲しいと願いながら……


「……ぇ?」


 ようやく、これは自分がレジアンナに対してなにか声をかけなくてはいけない状況のだと理解したリアーヌだったが……

 未だに手順やマナーを思い出せてはいないようだった。


(――なんだっけ? 確かフィリップがなんかしてやれよって言ってた気がする! ……ええと――あ、水に流せとか言ってた‼︎ ――はいはいはい! 水ね水‼︎ なんかあったよね、教わった記憶はあるよっ! ……答えは覚えてないけど)


 自分の中に答えが存在しないことを自覚したリアーヌは、申し訳なさそうに体を小さくくしながらヘラリ……と愛想笑いを浮かべビアンカをジッと見つめた。


 そんなリアーヌの様子に思わず舌打ちをしそうになるビアンカだったが、奥歯を噛み締めなんとか堪えると、少々威圧的な笑顔を浮かべてみせる。

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