表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
186/524

186

(――王城での騎士志望なエドガーが、ザーム卒業までって……一年開いちゃうんだけどねー……本人はすぐ了承したって話だけど……――エドガールートどころかエドガーの人生しっちゃかめっちゃかのお知らせだよ……)


「――ボスハウト家の執事のお眼鏡に叶うとは、さすがは実力者と言ったところかな?」

「相当に厳しい審査をなさると評判ですからねぇ?」


 フィリップの冗談めいた言葉に、パトリックががクスリと笑顔をうかべながら相槌を打つ。


 リアーヌも愛想笑いを浮かべ、肯定するようなそぶりを見せてはいたが、その心の中は(はたしてそれは評判なんですかねぇ……?)という疑問でいっぱいだった。


「ザーム様のご友人になる方だと、少々甘い採点になったりしたのかしら?」


 ビアンカが首を傾げながら発した言葉に、リアーヌは何も考えずいつものように返していた。


「いやぁ……? 相変わらずキッツイ質問したみたいだよ⁇」

「――キツいと言うかエグいと言うか……」


 エドガー本人からその時の話を聞いていたリアーヌとゼクスは、肩をすくめ合い苦笑を浮かべながら顔を見合わせ合う。


 ――ゼクスはリアーヌの口調が乱れたまま戻っていないことに気がついていたが、リアーヌとビアンカの会話であればフィリップが多めに見ているというのをいいことに、自分もその会話に混じりフィリップの前でわざと言葉を崩してみせる。

 フィリップのほうも、その程度のこと他の誰であっても腹も立たない些細なことだったが、唯一の例外であるゼクス。

 その彼が実に楽しそうにニヤニヤとだらしない顔を浮かべながら嬉々として会話に加わった瞬間、ビキリとひたいに青筋が浮かんだのが自覚できた。


「……と言いますと?」


 その全てを見透かしていたビアンカだったが、個人的趣向により素知らぬ態度を貫いて二人に話の続きを促した。


「自分のことや家族のこと、将来の夢なんかを聞いて――最後の最後に聞かれた質問が『いざという時は、主人の命と自分の命どちらを守る?』だったらしいよ……?」


 リアーヌの答えにビアンカは細く長い息を吐きながら目を細めた。

 そしてなにかに気がつくと、眉間にシワを寄せながら口を開いた。


「……確かあなたの家の執事って……?」

「うん……ウソが分かっちゃうんだ……?」

「それはまた……――いえ、一応護衛扱いでの雇用ですものね……?」

「――でも護衛だって、命までは……って思っちゃうと思わない?」

「……まぁね⁇ ――つまり、彼は嘘偽り無く主人の命だと答えたの?」


 目を大きく見開いて驚きながらビアンカは言った。

 出会って数日の、しかもまだ学生という若さでそこまで腹を括れる人物がいるとは信じられなかった。


「あ、違くって……――えっと……『死ぬのはイヤだし、ケガだってできればしたくないけど、盾になる覚悟はある』……って答えたんだって」

「あのヴァルム殿にそう言い返せるんだから――主席候補ともなると器のデカさから違うよねー?」


 リアーヌの言葉にゼクスが続く。


(――そうだね……ゲームの中では最後の最後にようやく掴み取った首席の座だったけど、今のエドガーは順調に成績第一位への道を順調に進んでいってるね……?)


「そのようですわね……?」


 ビアンカも感心したように頷きながら同意した。


「……でもね? オリバーさんの意見だと、及第点ギリギリなんだってさ」

「そうなんですの⁇」


 ビアンカが驚いたように目を丸め、ゼクスも言葉にはしなかったが、初めて聞く話に軽く目を見開いてリアーヌを見つめていた。


「うん。 エドガーって騎士志望でしょ? だから「護衛騎士が盾となるのは当たり前のこと。 しかしその上で最後まで主人を守り切らなければ面目躍如とはならない」んだって」


(つまり、騎士になるつもりなら肉壁になるのは当たり前。 その上で脅威が去るまで主人をしっかり守りきれってことらしい……――しかもその後「任務の最中に命を落とすなんて、護衛としては恥ずべき行為ですねぇ?」とまで言ってたんだよあの人……)


「それはまた……」


 リアーヌと同じようにその覚悟に絶句してしまったビアンカは、ため息を漏らすように短い言葉を吐き出した。


「……うちの人たちってば、見る目が厳しいよね……?」

「そのようね……?」


 困ったように肩をすくめある二人。

 その会話をすぐそばで聞いていたゼクスや、静かに見守るように聞いていたフィリップたちも、同じような感想を抱いたようだった。




 その話題の後は、主にテストの話やクラス分けの話などに移っていった。

 いつもと変わらずビアンカが見事な采配をし、ささやかな話題でも見事に盛り上げて見せていたのだが――


 リアーヌいつもとは違う様子を見せている人物の存在に気がついていた。

 ――その人物とはフィリップで、いつもはゆったりどっしりと、余裕があり落ち着いた印象のフィリップだったが、今日はソワソワと落ち着きなく入口のほうへと、何度も視線を走らせている。


「――レジアンナ様がお見えになられました」


 そんな時、部屋の入り口で控えていた侍従が新たな客人の到着を知らせた。


(……えっ? レジアンナって……あのレジアンナ⁇ ちょっと前に妹扱いしてますよね? ってフィリップに自覚させちゃった系のレジアンナで合ってる⁇ ……――どうしよう。 私の胃が罪悪感で破裂するかもしれない……)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ