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人脈作りのため、そのずば抜けた教育の質の高さから、国中の貴族たちがこぞって通いたがるレーシェンド学院。
どの学科においてもそのクラス分けには明確な線引きがあり、成績上位者からSクラスに割り振られていく。
そしてその対極に位置するのがDクラスとなっていた。
貴族階級にある者たちには特に重要視されるクラス分け。 その中でも、どのクラスで卒業したかによりその後の人生での肩身の狭さが決まるため……ビアンカのように授業中に手助けをしてくれるような生徒は、今後現れないと断言できた。
「――ひどい⁉︎ 私を捨てるのね⁉︎」
「人聞の悪いことを言わないで⁉︎」
リアーヌのとんでもない発言に目を剥きながらビアンカは答えた。
「私たち大親友なのにっ!」
「大親友だって言うなら私の幸せを願いなさい⁉︎」
「Aクラスだって十分幸せだよっ」
なおも言い募るリアーヌにビアンカはフンッと鼻を鳴らすと、腕を組みながらソッポを向いて答える。
「クラスが離れるのが嫌ならあなたもクラスを上げなさい!」
「そんなぁ……」
そう嘆きながらガックリと脱力するように背中を丸めるリアーヌ。
ゼクスは苦笑いを浮かべながらその背中を優しく叩き、オリバーも困ったように笑いながら口を開いた。
「微力ながら私も、出来うる限りのお手伝いさせていただきますので……」
リアーヌはそんなオリバーに向かい、スン……と小さく鼻を鳴らすと、おずおずと口を開いた。
「……じゃあ、試験会場のカーテン増やしてください」
「それ、は……」
答えを言い淀むオリバーをよそに、ビアンカは呆れたように首を横に振る。
「――むしろすべて撤去されるでしょうよ……」
「あー……ありそうですねー……?」
ビアンカの言葉にゼクスも乾いた笑いを漏らしながら同意する。
「そんな⁉︎ 私のオアシスが⁉︎」
「試験官にとっては悪夢そのものでしてよ……」
そんなビアンカの呟きに、ゼクスどころかオリバーまでもが思わず頷いていたのだった――
(……せっかく超難関と言われる教養学科に合格したっていうのに、入学してからのほうが家でのレッスンが厳しくなってるんですけど⁉︎ ――……それもこれも全部オリバーさんのせいだ……)
◇
全学科のテスト週間も終わり、ようやく平和な日常が戻ってきた頃――
リアーヌは再びビアンカからフィリップ主催のお茶会の招待状を手渡されていた。
「……え、本当に前回の暴言に対するイヤミをネチネチ聞かされる会じゃないの?」
リアーヌは眉間に皺を寄せ、貰ったばかりの招待状を観察しながら念を押すようにたずねる。
「お茶会をなんだと思ってますのよ……」
「……――嫌いな娘招いて、服装から動作、やることなすことネチネチ言われるお茶会もあると聞いている……」
(正確に言うと、被害を受けたのは私が操作していた主人公なわけですが……――私が第二王子ルート苦手な理由はそれだし……)
「……無くはないでしょうけど……――そんなに心配なら、誰かに注意される前に私が指摘してあげるわよ」
「……それはそれで心が痛いよ……?」
リアーヌは最近特に厳しくなった家でのレッスンを思い出し、顔を引きつらせる。
その後、合流したゼクスにも「絶対にそんなことにはならないよ」と言われ、リアーヌはようやくお茶会に出席することに同意したのだった。
(――同意って言っても、多分これ半強制で参加決定なお茶会なんだけどさ……)
――リアーヌが心の中で毒づいていたことはおおむね正解だった。
ビアンカはパトリックの婚約者という立場上、フィリップからの「リアーヌを誘って欲しい」と言う言葉は“連れてこい”と言われているも同然であり、ゼクスとしても本人の好みはどうあれ、パラディール家の私的なお茶会に定期的に招かれる事実がある種のステータスとなり得ていると理解しているため、断るような愚策は取らない。
しかし、どちらもリアーヌが本気で嫌がるのであれば強制したりはしないと心に決めてはいるようだった。
……授業などでの貸しを前面に押し出したり、甘いスイーツなどのご褒美で意見を変えさせる用意はあるようだったが――
◇
「――なるほど。 そのような縁でボスハウト家が雇うことになったんですか……」
やってきたパラディール家のお茶会。
挨拶を終わらせ席に着いた途端、フィリップは騎士科のクラス分けのトーナメント戦にて、突如として頭角を表したエドガーについてたずねていた。
あの後、結局エドガーはリアーヌに専属になってもらうという選択肢を諦めきれず、かなりの好条件をオリバーに提示し、オリバーはヴァルムに相談を持ちかけた。
元々ザームの友人候補だったことや、トーナメント戦で優勝したエドガーは二年からSクラス入り確実ということもあり、ヴァルムはエドガーがボスハウト家と雇用関係を結び、きちんとした口止めが出来るのであれば自分がラッフィナート家に掛け合うという判断を下した。
そして、エドガーは雇用関係を結ぶため、王城務めの経験がある者たちすら、そう簡単には突破出来ないヴァルムとの面接を行い、見事に突破して見せたのだった。
「雇うといっても、相手は男爵家のご嫡男ですので、雇用期間は弟が卒業するまでの間、なんですけれど……」
強化レッスンの成果なのか、リアーヌは少々ゆっくりとした口調ではあったが、質問に対する回答を無難に答えて見せる。




