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「その上、体調管理まで成績に含まれる――ともなれば、余計に厳しいものになりますね?」
(あー……そっか。 ケガで欠場ってことは、それによる救済処置はなにもなかった、ってことなんだ。 でも――)
「……でも彼って今年卒業ってわけでもないんだし、他の試験とかでも挽回出来たりしない……?」
リアーヌは首を傾げながら言った。
確かに年一回の試験をケガで受けられない、追試すらも許してもらえない――というのは厳しいと思うが、彼にはあと一回はチャンスがあり、最終学年のクラスがSやAでなくても最終トーナメント優勝という肩書きは、決して軽くはないと思えた。
なおかつ未来の英雄であるエドガーならば、他の試験でその実力を充分に示せるはず――そう考えていた。
「……クラス分けを決める試験を欠場したってことは、確実にクラスはDクラスになるのよ? そりゃ、腐らずに来年返り咲くと気持ちを切り替えられれば良いんでしょうけど……」
ビアンカはその言葉の端々に「そんなものは理想論でしかない」と滲ませながら言った。
「……クラス分けってそんなに重要?」
納得がいかなそうにリアーヌが唇を尖らせながら言った言葉に、その言葉を聞いていたすべての者たちの動きが止まる。
そして、その言葉を発したリアーヌを信じられないものを見るような目つきで見つめた。
「…………」
「…………」
「…………」
「……――冗談だし!」
周りの反応から自分が失言をしてしまったということを瞬時に察知したリアーヌは、すぐさま言い訳の言葉を口にする。
が――
「ウソおっしゃい!」
すぐさまビアンカに一蹴され、唇をキュッと引き結んだ。
「リアーヌ……」
「お嬢様……」
ため息混じりに吐き出された言葉に、リアーヌはさらに慌てて必死に言い募る。
「冗談ですからっ! クラス分け超重要ですからっ‼︎」
その言葉の大半は主にオリバーに向けられていた――
(もうちゃんと理解したから、言い付けるのとか良くないよ⁉︎ 本当良くないんだからねっ⁉︎)
しかしオリバーは困ったように微笑むばかりで、リアーヌの願いを叶えてくれそうには見えなかった。
「ううう……」
悲しそうに鼻を鳴らす子犬のようなうめき声を上げたリアーヌに、ビアンカは腰に手を当てながら口を開いた。
「――良いことリアーヌ。 三年間Sクラス在学と、三年でようやくSクラスに昇級した――じゃ天と地ほど違うし、当然、社交界での発言力だって変わってきますのよ?」
「えっ⁉︎ ……そこまで変わってきちゃうの……?」
(学校でのクラス分けが社交界にまで影響を……⁇)
「だからこそ、皆さま必死になって学業に励んでいらっしゃるでしょう?」
「……そう、ですね?」
(……正直、学校ってそういうもんだとしか……)
(でもそっか……――考えてみれば王族や大貴族なんかのエラいところの子たちなんか、そういうシステムでもなきゃまともに授業受けるメリットとかそこまでないもんね……? いざ社交界に出たとしても、立ち振る舞いさえしっかりしてれば、あとは周りの人たちがこっそり耳打ちしてくれるんだろうし……)
「――ちなみに。 当然ですけれど私だって来年はSクラス入りを目指しているわ?」
「えー……クラス離れちゃうじゃん……――来年もAクラスで仲良くしようよぉー」
そんなリアーヌの情けない声に、オリバーはこめかみを抑え、ゼクスは困ったように苦笑を浮かべる。
「あなたねぇ……? ――いくら友人からの頼みでも、これは私の今後に関わることですもの。 来年も同じクラスになりたいと願うならあなたがSクラスにお入りなさいな」
「それはムリじゃん……」
(マナーも立ち振る舞いも完全に要注意人物として目をつけられているんですよ⁉︎ どうやって先生がたの目をだまくらかせと⁉︎)
「……頑張ろうとぐらい、したらどうなの?」
「だって……――やっぱりSクラスだと研究学科に進みやすいものなの?」
リアーヌからの質問に、ビアンカはピクリと小さな反応を返すと、軽く息をついて小さく肩をすくめながら答えた。
「そこも否定はしないけれど……――パトリック様のお母様がSクラスのご卒業なのよ……――もちろん逆らうつもりがあるわけでは無いけれど、嫁ぎ先のお義母様に侮られたってやりにくいでしょう?」
「それは、大変そう……――ちなみにゼクス様のお婆様って……?」
ビアンカの言葉に納得したリアーヌは、伺うような視線をゼクスに向けながらたずねた。
「――まぁ、Sかな……?」
リアーヌのクラスが上がってくれたほうがゼクスにとっても都合がいいので、頬をかきながら視線を逸らしつつ、主に平民たちがたちが通う学校の、という事実だけを伏せて伝えた。
その言葉にリアーヌは、あちゃぁー……という表情を浮かべると、覚悟を決めたように口を開く。
「――今から侮られる覚悟は決めておきます……!」
「いやそこは頑張ろう⁉︎」
「ムリですよー……マナー、立ち振る舞いで躓かないわけないじゃないですかぁ……――今だってビアンカ大先生におんぶに抱っこで、かろうじての“可”評価なんですよ?」
「――つまり……?」
そう言いながら、ビアンカはアゴに手を当てておっとりと首を傾げながら続ける。
「私がSクラスに上がって、リアーヌとクラスが別れてしまったら……――貴女、Dクラスまで転がり落ちるんじゃなくて……?」




