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成り上がり令嬢暴走日記!  作者: 笹乃笹世
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 そんな中、呆れたような声で婚約者たちの会話に入っていったのは、コンラートだった。


「あははー。 青春してるねぇ? 若いっていいなぁー」


(そうそう! この空気読まない感じ! 読めないんじゃないのよあえて(・・・)! あえて読まない感じ! 助かるわぁ……)


「あ、や……あの、そんなんじゃ……」


 頬を赤くして否定しようとするサンドラに、クスクス笑いながら肩をすくめたコンラートはエドガーに向かって口を開いた。


「治療の記録を取らなきゃいけないから、このまま保健室に来てもらえるかい? ……歩く程度なら問題ないと思うけど、不安なようなら人を呼ぶよ?」

「平気です」


 長椅子の上で、恐る恐る足首を曲げたり伸ばしたりしていたエドガー、ほとんど違和感がないことを確認したのか、その質問に手を振りながら答える。


「そう? じゃあ……君が荷物を持ってあげてくれるかな?」


 長椅子の側に置いてあったエドガーの荷物を視線で示しながら、コンラートはサンドラに話しかけた。

 エドガーが辞退する言葉を発する前に「分かりました!」とその荷物に飛びつくサンドラ。

 エドガーはそんな彼女に、言うべき言葉を失ってしまったのか、視線をうろつかせながら口をパクつかせていた。


「じゃ移動しようか――……あ、そういえば彼に応急手当てした人は誰なのかな?」


 コンラートはニッコリと美しく笑うと、瞳をキラキラと輝かせてゼクスたちに質問した。


(推しが楽しそうで目が幸せ……――って言ってる場合じゃないな……? 的確に隠し事の気配を察知して突いてきてるし)


「――急いでいたようでついさっき出て行ったんですが、すれ違いませんでしたか? ……反対方向に行ったのかな?」


 オリバーが一歩前に進み出ながらにこやかに答える。

 そんなオリバーの出現にコンラートは一瞬つまらなそうに顔をしかめたが、すぐさま笑顔を取り繕うと再び笑顔で口を開いた。


「えー? 見なかったけどなー……困ったなー、人物を特定できるようなこと、何か覚えてない?」

「いやぁ……男性だったことぐらいしか……――いや、もしかしたら大柄な女性だったかも……?」


 オリバーはアゴに手を当て、思い出すような仕草をしながら、のらりくらりとウソ八百を並べていく。


「えー? そこも分からないの⁇」

「なにせ我々も動揺していて……」

「あー、動揺ねぇ……? まぁ、気持ちが分からなくもないのかなー⁇」


 コンラートはオリバーをからかうようにクスクスと笑いながら答える。


「――なにか手続きがあるのであれば、どうぞミヒャエリス様の良きように……」

「――そう? じゃ私のお手柄ってことにしちゃおっかなぁ⁇」

「それがよろしいかと……」


 恭しく頭を下げるオリバーの態度にニンマリと唇に弧を描き、その瞳をギラリと輝かせた。


「――もし誰だったのか思い出せたら、見事な対応でしたって伝えておいて?」


 そう言いながらコンラートはチラリとリアーヌに視線を走らせる。

 バチッと目が合い、ビクリと肩を震わせるリアーヌ。


「……必ず」


 その視線だけで回復をかけたのがリアーヌだとバレた、と確信したオリバーは歪む表情を隠すように、さらに大きく(こうべ)を垂れて見せた。


(……ミヒャエリス先生ってば、ウソを見抜くギフトでも持ってるのかってぐらい鋭いんだよねぇ……――人が隠してる秘密をうっかりを装って大勢の前で暴露するって趣味を持ってるからこその特技なんだけど……――あなたのことは大好きだけど、その対象に自分がなると、あんまり喜べません……至らないオタクでごめんなさい)


 顔をひきつらせたリアーヌは、無理やり愛想笑いを貼り付けながら、コンラートたちが部屋から退出していくのを静かに見送る。

 途中エドガーが、リアーヌたちに向かってお礼を言うそぶりを見せたが、オリバーが「俺たちはただ居合わせただけだ、礼は助けてくれた人にしとけってー」と、笑顔の圧をかけられ無言で会釈するだけに留めていた。


「あ……あの私……ご迷惑をおかけしてしまって……」


 扉まで歩いていったサンドラはその向こうにビアンカの姿を見つけ、申し訳なさそうに頭を下げる。


「お気になさらないで? 何事もないようで安心致しましたわ」

「すみませんでした」

「ご迷惑おかけしました」


 ビアンカの言葉にサンドラもエドガーも、ビアンカだけではなくリアーヌやゼクスにも向けてペコペコと頭を下げながら立ち去っていく。


 入れ違いにビアンカが部屋へ入ると、ゼクスが大きく伸びをしながらオリバーに向けて口を開いた。


「んー……ミヒャエリス先生への口止めは何がいいですかねぇ……?」

「確かワインを好まれていたはずです」


(ロゼのスパークリングですよね! 私ちょっと詳しいですよ!)


「見繕っておきます」

「よろしくお願いいたします」


 どこか後処理をするような空気の二人に、少し不安を感じたリアーヌは伺うようにたずねた。


「――黙ってて、くれますかね?」


(あの人本当に愉快犯で……その瞬間が面白いならなんでもありな人ですよ……?)


「養護教諭とはいえ、学園の職員です。 生徒のプライバシーをペラペラ喋るようなおかたいらっしゃらないかと」

「そう信じたいですよねー?」


(……わりとペラペラ喋っちゃうんだよなぁ……? ――いやでも、ちゃんと人を選んで暴露してるって意見も多かった……? だったら、うちはともかくラッフィナートは敵に回さないかな……?)


「――問題なのはエドガーの方ですね」


 言いにくそうに紡がれたオリバーの言葉に、皆の視線が集中した。

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