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「――どちら様かしらねー……」
頭を抱え、疲れたような声をで、それでもとぼけて見せるビアンカの思いやりに気がつけないリアーヌはビシリともう一度フィリップに人差し指を突きつけた。
「だからそれダメだって……」
疲れたような声で言いながら、もう一度リアーヌの手を下げさせるゼクス。
「これが原因で花園に不吉な噂が立ち始めたらどう責任取ってくれるんです⁉︎ 私の耳に「あの花園でデートすると破局するらしい」なんてウワサが聞こえてきたら本気で慰謝料請しますからね⁉︎」
(うちの母さんがどれだけ頭を悩ませて準備したと思ってるの⁉︎ まだ納得しないの⁉︎ って娘の私がビビるぐらいには節約に節約を重ねて経費削減してたんだからっ! 口では「これは母さんの趣味みたいなものなのよー」とか笑ってたけど、夜遅くまで帳簿と睨めっこしてたの知ってるし!)
「……さすがに暴論が過ぎるのではないかな……?」
未だにこの事態をうまく飲み込めておらず視線を揺らし続けているフィリップ。
そんな彼を庇うように、パトリックがリアーヌに向かい、嗜めるように言った。
しかしその声色は優しく、極力リアーヌをこれ以上刺激しないよう気を使っている様子だった。
しかしその努力も虚しく、リアーヌははその言葉にギョロリとパトリックを睨みつけると、ハッ! と吐き捨てから感情のままに反論する。
「暴論なのは、アーンが庶民のすることだって言い切ったコイツ――」
「お方だよねー⁉︎」
再び指を突きつけようとしたリアーヌを阻止したゼクスが引きつった笑顔で懇願するようにその言葉を遮る。
そんなゼクスの様子を見たリアーヌは、不本意そうに唇を尖らせると、渋々といった態度を前面に押し出しながら言い直した。
「お方のほうですぅー! うちの両親だってやったし、弟も婚約者と周りに止められるまでやり続けてましたけどー‼︎」
「……弟君はプチシューが食べたかっただけのような気もするけどね?」
「……――でもやりましたもん!」
内心ではゼクスの意見に全面的に同意しつつも、軽く頬を膨らませながらフィリップを睨みつけた。
「……ちなみに王家の方々も、面白い趣向だと楽しまれて帰ったそうですよ? ……まぁ、さすがに貸切にして、ですけどねー」
リアーヌはゼクスの援護射撃を受けながら、フィリップに向かって、どうだっ⁉︎ と言わんばかりに胸を張って見せた。
まさか王族たちまでやっていたとは予想もしていなかったフィリップは、ゼクスの言葉に苦々しい表情を浮かべると、大きく息をつきながら口を開く。
「その……――私の考えが些か偏っていたことは認めよう……」
そう言ってフィリップはチラリとリアーヌに視線を走らせ、その眉がピクリと跳ね上がったのを確認すると、さらに大きなため息をついて不本意そうに言葉を続けた。
「……――今思えば、エスコートも傲慢な部分があったように感じる……」
大変不本意そうに、ではあったが、フィリップが自らの非を認めたことに、ゼクスやビアンカの目が大きく見開かれた。
2人ともフィリップが、こんなにもあっさりと自分の非を認めるような人物だとは、思ってもいないようだった。
「――分かりゃいいんですよ」
フンスッと鼻息も荒く言い捨てたリアーヌは、強い喉の渇きを覚えて目の前のカップに手を伸ばした。
(ったく……レジアンナってばコイツのどこが好きで主人公を殺そうとまでしたわけ⁉︎ むしろ主人公にくれてやればいいんだよこんな男っ!)
カップを口に運びながら盗み見たフィリップが、まるで被害者であるかのような雰囲気を漂わせていることが鼻についたリアーヌは、さらになにか物申してやろうと、思いつくがままにフィリップに向けて言葉を言い放った。
「――大体、婚約者がドレスや化粧をを変えてきたなら、ちょっとくらい似合ってなくても褒めてあげるのが甲斐性だと思いますけどね?」
「……似合ってもいないものをどう褒めろと? あんな格好でをし続けていたら彼女の名誉に関わる。 部外者が知ったような口を聞くものではないよ」
ピクリと眉を跳ね上げたフィリップは、攻撃的な笑顔をリアーヌに向けると苛立ちのままに言い放つ。
エスコートに関して言えばリアーヌの意見に思うところのあったフィリップだったが、レジアンナがどんな格好をしてきたのか知りもしないリアーヌに「褒めろ」だなどと無責任なことは言われたくなかった。
「部外者だって分かることぐらいありますけどぉー⁉︎」
(なんなら私、お前よりレジアンナとやり合ってんだからな⁉︎ ……ゲームの中のあの子とだけどっ! 大体お前なんか主人公がお前ルートに入った途端『これは恋ではなく家族愛だったんだね……――君がそれを教えてくれた……』とか言ってレジアンナのことポイ捨てするくせにっ‼︎)
「へぇ⁉︎ それは興味深いね、一体君にはなにが分かってるって言うんだい? 婚約者の私に教えてくれないかな⁇」
(その(自分の方がわかってます感)心底腹が立つ! 全部分かってないから婚約者をポイ捨てするのアンタは! しかもそれを家族愛とか言い繕って自分の浮気を正当化する最低男のくせにっ!)
お互いに相手に対して完全に腹を立ててしまっているリアーヌとフィリップ。
リアーヌはこれでもかと目をつり上げながら、思いつくがままに言葉を口から吐き出していた。
「だったら教えて差し上げますけど! いい加減妹扱いしてないで、ちゃんと一人の女性として扱って差し上げたらどうなんですか⁉︎ ドレスだって化粧だって私は子供じゃないって意思表示でしょ⁉︎」