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成り上がり令嬢暴走日記!  作者: 笹乃笹世
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(フィリップルートの悪役令嬢はレジアンナ・ミストラル。 ミストラル公爵家の末っ子長女で、艶やかにウェーブする黒い髪とぷっくりした真っ赤な唇が特徴的で――……なんといっても、入学当初の私にイタズラ(・・・・)をしかけてくれやがった主犯格だ。 ……もう1人の悪役令嬢にもやらかしてたからちょっかいかけられてたみたいだけど、そっちはまだご令嬢ご本人が入学してないから、多分そこまでじゃなかったと思ってる……ってか、どれがどっちの嫌がらせかとか、いじめられてるほうは分かりようがないからね! ……――やっぱりおかしい。 だってフィリップとその婚約者って、幼馴染同士で小さい頃から仲良しだったはずなんだよ。 ……でもフィリップは主人公に出会い、レジアンナへの気持ちが恋ではなく、家族に対するものなのだと気がついて――っていう……まぁ、レジアンナ側からすれば「は? あと数年で結婚だって時に、今更なに寝言言ってんの⁇」なストーリーだったはず……――でもそれを基準に考えると、まだ問題なく仲良しな時期なはずで……――ってことは)


「ケンカ、とか……?」


 ボソリ……とリアーヌの口から漏れ出てしまった言葉に、フィリップがアゴに当てていた手にグッと力が込められる。

 真向かいに座っていたリアーヌからはその様子が良く見えた。

 

(あー……図星なんだ……)


 自分の呟きに対する反応で、二人の間で(いかさ)いがあったことを察したリアーヌは、指先で前髪の流れを直しながらそっと顔を背ける。

 しかし迂闊なことを言った事実は変わらず、リアーヌの足先にはビアンカからの教育的指導が入った。


(ごめんなさい! だって気がついたらポロッと口から出ちゃってたんだもんっ!)


 ビアンカがリアーヌのフォローのために話題を変えようと口を開きかけた時、無言を貫き通すと思われていたフィリップ本人が、困ったようにため息をつきながらぽそり……とリアーヌを見つめて口を開いた。


「……お恥ずかしい話だが、その通りでね――乙女心とは難解なものだよ」

「……――好みとかもありますもんねー?」


 リアーヌはまさか自分が話しかけられるとは考えてもいなかったため、キョドキョドと視線を左右に揺らし動揺ながらも、無難であろうと思われる相槌を打った。


「好み……――あーその……例えば……」


(話が続いてしまいましたが⁉︎)


 チラチラとリアーヌを見つめ、自分で自分の手を弄びながら話し始めたフィリップに、リアーヌどころかゼクスやビアンカ、パトリックたちすらも予想外だったのか驚きに目を見開いていた。

 しかし誰もその会話に口を挟むつもりは無いようで、全員が極力気配を殺しながらことの成り行きを見守っていた。


「行きたいと提案したのが先方で、やりたいと言ったことにも付き合っているというのに、その先方が気分を害するというのをどう回避したものかと悩んでいてね……? ――彼女は……元々、少し気分屋なところがあるんだ」

「なる、ほど……?」


 リアーヌは相槌を打ちながらも、その言葉の端々から感じる、パトリックのデートに対する態度のほうに引っ掛かりを覚えていた。


(……どう考えたって付き合って(・・・・・)やってる(・・・・)なんて態度の婚約者とのデートなんか楽しく無い気もするけど……――でもまぁ、レジアンナがとっても行動的で気が強いってのは身をもって知ってるからな……)


「それに、最近の彼女は少し様子が……」

「……え?」


(様子が……? ――その後に続く言葉なんか「おかしくて……」以外あります……?)


 戸惑うような視線をフィリップに向けると、フィリップは「どうか内密に……」と前置きをしてから事情を説明し始めた。


「突然――まるで……舞台女優のようなドレスを好むようになったり、およそ年齢にそぐわないような化粧にしてみたり……」


 リアーヌはフィリップの貴族言葉を脳内で普通の言葉に翻訳していく。


(――“舞台女優のようなドレス”を言い淀んだってことは、多分娼婦みたいな胸も背中もドーンと開いてるドレスってことかな? ……ってことは“年齢にそぐわない化粧”ってのは、ケバい化粧って意味になる⁇)


「――かと思えば、今度は庶民がやるような行為をしてみたいと言ってみたり……――理解に苦しんでいてね」


 そう言いながらガックリと肩を落とし項垂れてしまうフィリップのつむじを眺めながら、リアーヌはあからさまに動揺していた。


(……え、庶民がやるようなことってなに? 範囲が広すぎるんですけど⁉︎)


 項垂れているフィリップがまだ顔を上げないことを祈りながら隣の大先生に視線を送るが、ビアンカも眉をひそめながら首を横に振って「分からない」と伝える。

 そんなビアンカにギョッと目を剥いたリアーヌは、すがるようにゼクスに視線を移し肩をすくめられ、パトリックやラルフ、イザークに視線を走らせるがスッと視線を外されてしまった。


(全滅とかある⁉︎ あなたちちお貴族様ですよね⁉︎ 私よりもずっと長い間、貴族やってらっしゃるんですよね⁉︎ ……――いや、待って? これだけの人数が意味分かんないって言ってるんだったら、今のって隠語とかじゃない? ――ってことは、詳しいことを聞くのって別にマナー違反にならない……?)


 そう心を決めたリアーヌは、覚悟を決め――……しかし足先はビアンカから極力遠ざけながら、伺うようにたずねた。


「あの、庶民のような……というのは……?」

「――……その、まともな給仕もいないような場所で食べ物を食べたいと言い張ってみたり、しかもその食べ物を買うために列に並ぶとまで言い始め……挙句の果てには、私に食べさせて欲しいとまで……」


 フィリップは少し言いにくそうにしながらも、大きなため息と共に言葉を吐き出した。

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