表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
成り上がり令嬢暴走日記!  作者: 笹乃笹世
170/269

170

「――そう、なんだね……?」


 ビアンカからの言葉にフィリップは観念したかのようにため息をつきながら頷き、ゆっくりとうつむいた。


(……なんかへこんじゃった……?)


「――俺たちも今度デートしに行こうねー?」

「……鐘の丘ですか?」


 リアーヌは伺うような、期待するような視線をゼクスに向けながら首をかしげた。

 その仕草からリアーヌがなにをねだっているのかすぐに理解したゼクスは、呆れたように笑いながら肩をすくめ口を開く。


「――そこからグランツァ並木の方まで足を伸ばそっか?」

「ぜひっ!」


 リアーヌは顔を輝かせながら両手を胸の前で組み合わせて嬉しそうに答える。


 サンドバル村があるモンドラゴ山から移植したグランツァの木は、その真っ赤な花も芳しい香りも一切損なうことなく、花園の新たな目玉となっていた。

 広い通路の両脇にグランツァの木々をズラリと並べた見応えのある並木道を作り、来場者たちの目と鼻を楽しませている。

 そして、その先にはサンドバル村の住人たちが作ったおみやげものを売るスペースと、外の美しい景色を眺めながら、ここでしか食べられないと評判の、真っ白でふわふわのクリームで美しくデコレーションされたショートケーキが自慢のカフェが併設された店も無事にオープンしていたのだ。


(やった! ショートケーキだっ‼︎ ショートケーキが食べられるっ!)


「……リアーヌの乙女心は独特だよね……?」


 満面の笑みを浮かべているリアーヌが、ケーキが食べられることに大喜びしていると、疑いようもないほどに理解しているゼクスは、苦笑いを浮かべながらもう少しデート自体を楽しんでくれないものか……? と少しだけやさぐれながら、その言葉にほんのりとした苦言を混ぜ込んだ。

 その言葉をどう理解したのか、照れたように首をすくめながらはにかんで見せるリアーヌ。

 そんなリアーヌの仕草に(褒めてはいないよー……)とツッコミを入れつつ、毒気を抜かれてしまったゼクスは、大きく息をつきながら微笑みを浮かべた。


「――リアーヌ嬢は鐘よりもグランツァが好みなのかい?」


 不思議そうな顔をしたフィリップからの問いかけにリアーヌは、さすがに(プチシューよりもショートケーキが好きなんで!)と答えることが出来ずに、震える声で「……はい」と小さな声で答えたのだった。


「……ええと?」


 それまで少々様子のおかしいフィリップの隣で、静かに話を聞いていたパトリックだったが、戸惑うような声を上げると、助けを求めるように隣に座るビアンカの顔をジッと見つめた。


 その視線だけですぐさま、パトリックのたずねたいことを理解したビアンカは、軽く頷きながら口を開いた。


「グランツァとは、真っ赤な花をたくさんつける香りの強い木で、それがずらりと並んだ道はそれは見応えがありましたわ。 その(あで)やかな見た目や甘い香りで……多くの女性に好まれそうだなと感じました」


 ビアンカかの説明にパトリックは大きく頷きながらも笑顔を浮かべて「今度、僕ともご一緒に……」とビアンカに声をかけていて、同席していたイザークとラルフもビアンカの説明を聞き、納得したように頷き合っていた。


「女性が好む……」


 そんな中、フィリップだけが腕を組み、アゴに手を当て、何事かを考え込みながらジッと一点を見つめていた。


「……えっと?」


 リアーヌが経験した、模擬も含めた全てのお茶会において、こんなふうに周りを無視したまま考え事を始めた者などいなかったため、どうすれば良いのか分からなくなったリアーヌは、助けを求めて隣に座る大先生(ビアンカ)を見つめた。

 フィリップがなにについて考え込んでいるのか、確証はなかったが少しの心当たりがあったので、ビアンカはどう声をかけるべきか、そもそも声をかけるべきなのかを迷う。


 ――そんな中フィリップに声をかけたのはゼクスだった。


「――らいしですよー? あ、パラディール様もご婚約者様をお誘いすれば喜ばれるんじゃないですかねぇ?」


 ニコニコとやけに愛想の良いゼクスがそう声をかけた途端、ピキンッ! という幻聴が聞こえてくるほど、一瞬にして空気が凍りついた――


(……――座の空気を読む、笑顔に隠された本心や意図を読み取る能力に(いちじる)しく欠けていると評判の(わたくし)ではございますが……今のは分かったぞぉ? ゼクスの言葉で空気が凍った! そして粉々に砕け散った‼︎)


 そんなことを考えつつも、リアーヌはやらかしてしまったゼクスの顔をチラリと盗み見る。

(ゼクスにしては珍しい……)と考えながら。

 しかし、リアーヌの視線の先にあったのは、ニコニコとそれは楽しそうに笑ってフィリップを見つめているゼクスの姿だった。


(――あ、確信犯だわこれ。 わざとだわ……――なんでケンカ売りに行ったし⁉︎ ――……え? ケンカ売りに行ったってことになる……のか⁇ 確かにフィリップは攻略対象だけど、まだ主人公は入学してないから認識すらされてなくて、だとしたらフィリップと婚約者って普通の関係なんじゃ……? なのに「デートに誘ってみたら?」って提案されて、あんなに空気が凍る……⁇)


 リアーヌはゼクスから自分の手元に視線を落としながら、フィリップとその婚約者について頭を捻った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ