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成り上がり令嬢暴走日記!  作者: 笹乃笹世
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「オリバー殿の実力は確かだと確信してはいますが……――以前の職場だけでその方の実力を測るのは……――あぁ、別にパラディール家のやりかた(・・・・)揶揄(・・)している訳では……」


 ゼクスは言外に「揶揄しているのはお前の考えのほうだからな?」とにじませながら、それら全てを笑顔で覆い隠して見せた。

 ――もちろんこの場にいる者で、その隠された言葉に気がつけなかったのはリアーヌだけだったのだが……


(だからこの二人は混ぜるな危険なんだって……)


 理解していないリアーヌではあったが、二人から醸し出される不穏な空気を敏感に感じ取り、キュッと唇を固く引き結ぶのだった。


(――余計なことは言わない。 私はホストじゃないから空気なんか読まない。 絶対に関わり合いにならないっ!)


 それは、自分は絶対に介入しないという意思表示でもあったようだった。



 ゼクスとフィリップがお話し合い(・・・・・)を繰り広げ、そしてお互いに引き際を見極め、ようやく静かになったところで、ポツリポツリと再びおしゃべりに花が咲き始める。

 そんな中、話題は再びボスハウト家の使用人たちのことになり、そこでボスハウト家が新しく雇った使用人はオリバーだけであり、その他の者たちは、いわゆるお試し期間として母家への立ち入りを厳しく管理されている状態なのだと、リアーヌが話したことがきっかけだった。


「あら、じゃあまだ正式な使用人というわけでは無いのね?」

「うん。 ヴァ……執事の目が厳しくて……母屋で自由に過ごさせるほど信頼出来ないからって――それでも妥協して、候補を絞り込んでるみたいなんだけど……私から見たらみんな優秀で凄い人たちばっかりなんだけどねー?」

「結局、家のことは執事に任せるのが一番だと思うわ?」

「あ、それ父さんたちも言ってた」


 そう言いながらビシッと人差し指を立てるリアーヌ。

 そしてお互いに見つめあった二人は、クスクスと笑いながら肩がぶつかるほどに顔を寄せ合った。

 仲の良いそんな様子に、互いの婚約者たちも思わずクスリ……と笑顔を漏らした。


 しかしそんな和やかな時間は長くは続かず――


「それはお困りでしょう?」


 と、ニンマリと笑うフィリップがリアーヌに向かって話しかけたのだった。

 

(まだケンカしたりないのかアンタは……)


 そう思ったリアーヌがヒクリ……と頬を引きつらせる。


「もしよろしければ、パラディールの使用人をお貸しいたしましょう。 なに、ボスハウト家とパラディールは共に王家に連なる家――いわば親戚のようなものです。 ですから……」

「結構でーす」


 フィリップの言葉を遮るように満面の笑みを浮かべたゼクスが声を上げた。


 話している最中に割り込むという、分かりやすくもあからさまなゼクスのマナー違反にに、フィリップの鉄壁とも思えた笑顔が歪む。

 しかしゼクスはそんなことはお構いなしに言葉を続ける。

 ――まるでフィリップが不機嫌になったことなど、どうでもいいとでも言うように。


「いざとなったらうちで用意するからねー? なんたって婚約者なんだからー。 だからヴァルム殿には納得がいくまで吟味していただこうねー⁇」

「……そッスね?」


 口の端をヒクつかせながら、そう答えたリアーヌは次の瞬間、足先に痛みを覚えた。

 その痛みは、リアーヌにとってもはや馴染み深いものとなっていたので、すぐさま口元に手を添え「そうですわね?」と、口角を引き上げ首を傾げて見せた。


「それは残念だ……しかし我々は元を辿れば同じ血筋――いつでも気軽に声をかけてください」

「……うふふふふ?」


 ニコニコ笑いながら、冗談とも本気ともつかない言葉をかけてくるフィリップに、リアーヌも肯定とも否定とも取れないような微笑みを返した。


(……この人たち、よく毎回毎回飽きもせずに毎回バチバチしてられるよ……もうそろそろ、お互いに居ないものとして、お互いにシカトしてれば良いのに……――いや、それをしたら社交にならないってのは分かるけど……でも社交って結局のところ、表面上では仲良くして「お互いに持ちつ持たれつで行きましょうね!」って意思の確認をし合うのが基本でしょ? パワーバランスとかで違いは出てくるんだろうけど――ここまでバチバチにやり合っといて、社交になんかなってないでしょ……⁇ ……仲悪く見せる社交……絶対無いな。 こんな小さなお茶会でそんなんされても困るし……――本当、なんでこんな気まずい会を開こうと思ったのか……そういえばビアンカはフィリップたちがなにかを企んでるって言ってたけど……――それはまだ仕掛けて来てないのかな? ……それともゼクス同伴だったから仕掛けるのをやめたとか⁇)


 ニコニコと笑顔を貼り付けたまま考え事を続けるリアーヌの耳がビアンカの小さな咳払いを拾う。

 これを聞き逃すと、再び足先に痛みが走ることを嫌というほど知っているリアーヌは、すぐさまビアンカのほうに視線を走らせた。


「――そういえば、この間家族で花園に行きましてよ?」


 分かりやすい話題提供も兼ねてビアンカはリアーヌに話かける。

 しかし、その他の者たちには話を振らず、そのまま話を続けようとしているところを見ると、どんなに話を盛り上げてもゼクスに突っかかって、台無しにしてしまうフィリップに対するビアンカなりのささやかな意趣返しが含まれているようだった。

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