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「まぁ、つまりは「やるな」ってこと。 万が一、それでも抜けるってお金用意してくるんだったら、どーぞどーぞって笑顔で送り出せるでしょ?」

「そういうもんか……?」

「だって、みんなで100G山分けだよ?」

「……――笑顔で送り出せるわ」


 リアーヌの問いかけに、青年は神妙な面持ちで力強く頷いた。


「――んでこの他に、お裁縫が得意な人たち作った団体で、ポプリ用の袋作ったり、ハンカチにグランツァの刺繍とかしても売れるかも?」


 リアーヌは青年にそう話ながら、メモ用紙に説明を書き加えていく。


「ーーどっちも不得意だったらどうなる?」

「ポプリ作りか、材料のかき集めかなぁ?」

「かき集め……?」

「このおみやげ物作りって、グランツァがなきゃ始まらないんだから、それを取ってくる人が必要になるでしょ?」

「……と思う」


 青年はリアーヌの問いかけに、首を傾げながら自信なさげに同意する。


「……多くの場合必要になるのよ。 花だったり葉っぱだったり実だったりの材料がね?」

「おう」

「それを集めて売るとかもできる」

「……それだけで売りもんになんのか?」

「え? ああ、ゼクス様は買い取ってくれないよ」

「なら――」

「売る相手は村のみんな」


 その言葉を聞いていた周りの村人たちは、ざわりっと一際大きくざわめくと、小声で周りの人間と意見を交わし合う。


「――買ってもらえんのか……?」


 青年はざわつく周りの村人たちをチラチラと気にしながらたずねる。


「んー……あんまり高くしたら買ってもらえないと思うけど……お金を出せば集めに行かなくていいって、結構よくない?」

「……でも自分で集めに行けばタダだろ?」

「……毎朝早起きできるとは限らないし、雨の日とか外出るのやだなぁ……とか思うでしょ?」

「そりゃ、まぁ……」


 なにかしらでそんなことを思った経験があるのか、青年は苦笑いを浮かべながら同意する。


「それを代わりにやってくれるんだから、対価をもらって当たり前。 でも、あんまりやりすぎると村の人たちとギクシャクしちゃうから気をつけて?」

「……どう気をつける?」

「んー……基本は自分たちで使い切れる分、って考えとけばいいと思う」

「自分たちで……」

「お菓子や裁縫じゃない人はポプリ作るでしょ?」

「ああ」

「自分たちで乾かしきれない量の花は取らないのがいい」

「なるほど……」


 うむうむと、納得したように何度も頷く青年に、小さく微笑みをこぼしたリアーヌは、そのままメモ用紙に視線を落として、今言ったことをもう少し細かく説明した文をコピーしていく。


「――はい、これ。 これ見ながら他のみんなにもちゃんと説明してあげてね」

「おう! ……なぁ、嬢、これどうやって書いたんだ?」


 青年は渡されたメモ用紙を受け取り、ジッと見つめてみたり、裏返してみたり、匂いを嗅いでみたりしながら、しきりに首をかしげている。


「ーー私のギフトすっごいでしょ?」


 褒められたリアーヌは、ツンっと鼻を高くしながら胸を張り得意げに答える。

 青年はそんなリアーヌをポカン……と見つめていたが、やがてヘラリ……と顔を崩した。

 そして、再びメモ用紙に視線を移すと「ああ……――嬢はすげぇなぁ……」と、眩しそうに目を細めながらしみじみと呟いた。




「――そろそろお開きにしようか?」


 ゼクスのその一言で、村人たちとの話し合いは終了した。

 集まっていた村人たちもゼクスも、始まった時よりもだいぶ明るい表情で集会所を後にするのになったのだった――


 ◇


 それから数日後、サンドバル村の元代官の屋敷前、そこの開けた場所にラッフィナート家の馬車が数台と護衛たちが乗る馬が並べられている。

 そしてこれから王都に向け出発するラッフィナート家の馬車に、次々と運び込まれる木箱――その中にはフルーツや野菜がこれでもかと詰められていて――その光景をリアーヌは目を丸めて眺めていた。


「え、まだあるの……?」


(――あれ? これって前領主と同じ搾取(・・)に分類される……?)


 リアーヌは不安げな瞳でゼクスを振り返った。

 そんなリアーヌに、ゼクスはリアーヌがなにを考えているのか瞬時に理解して、プッと吹き出しながら口を開いた。


「きっとリアーヌがたくさん頑張ってくれたから、そのお礼なんだと思うよ? ――ほら、おっちゃんやおばちゃんって、色々ものくれるもんだろ⁇」

「ーー多すぎでは……?」


(馬車一台じゃ収まり切らなくて、二台目突入しちゃってるじゃん……)


「リアーヌ、ここの人たちと凄い仲良くなっただろ? みんな喜んで欲しいんだよ」


(……そういう建前で渡された、ゼクスへの賄賂(ワイロ)説……)


 リアーヌはゼクスの説明を聞いてもなお、その言葉が信じられていなかった。


 しかしこのゼクスの言葉は正しく、今馬車に乗せられている品物たちはリアーヌへの贈り物であり、感謝の印でもあった。


「――僭越ながら、お嬢様がここの人々に心を砕き、手を差し伸べられた結果なのではないかと……」


 そう声をかけてきたのはアンナで――答えを求められていなかったにも関わらず、迷うことなくリアーヌに助言を発していた。

 ――こちらも、この数日間で柔軟な対応を取ることに慣れた様子だ。


「……手を?」


 アンナの言葉にぐるりと視線をを斜め上に引き上げ、リアーヌはここ数日の自分の行動を思い返していた。


(……――え? ここ数日って……私、好き勝手にこの村を散策しながら遊んでただけなのでは……⁇)

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