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「――お姉さんが本当に、売れるポプリ入れ作れるならもう少し増えるかも?」


 これ以上男性にかける言葉が見つからず、リアーヌは冗談めかした視線を仕立て屋に向け肩をすくめて見せた。


「……言うねぇ? やってやろうじゃないか!」


 そんなリアーヌからの挑戦めいた言葉に、ニヤリと笑いながら答える仕立て屋。

 

「袋なんか、もっと種類が必要になるよー?」

「……もっと?」

「――だって女の子って“あの子と一緒”が以外に嫌いじゃん?」

「……あたしが子供の頃は“あの子とお揃い”が流行ってた気がするけどねぇ……?」

「それって好きな友達と、でしょ? 気に入らないあの子とお揃いで「ちょっとマネしないでよー」とかのイチャモンひたすらウザくなかった⁇」

「あー……あったねぇ? ――そうか……そうなってくると本気で種類が必要になるね……⁇」

「――腕の見せ所ですねぇ?」


 口元をおさえ、ニヤニヤっと人の悪い笑みを仕立て屋に向けたリアーヌは、からかうようにそう言った。

 そんなリアーヌに仕立て屋は、ぐぬぬ……と、盛大に顔をしかめて見せる。


「――ジャムや砂糖漬けもそのくらいの種類を置いてもらえるのかい?」


 仕立て屋との会話がひと段落したところで、パン屋が再びリアーヌに声をかけた。


「あー……――どうなんでしょう?」


 その質問を受けたリアーヌは、そのまま顔をゼクスに向けて、首をかしげた。


(……どうなんだろう? おみやげ屋と考えると……多くても三種類くらい……⁇)


「――申し訳ないが、一種類ずつになると思って欲しい。 そして毎回味が変わるような品質であれば、買い取るに値しないと考えているよ」

「一種類……」


 ゼクスの答えに深刻そうな顔つきになったパン屋にリアーヌは(あれ……?)と疑問を感じ首を捻った。

 

「……でもさ? おっちゃんはパン作るんじゃないの⁇」


(だったら、ジャムが売り物になってもならなくても問題無いような……?)


「そのつもりだが……」

「なら、別にジャムが売り物に選ばれなくても良くない?」

「――うん?」


 首をかしげながら言ったリアーヌの言葉に、パン屋も釣られるように首をかしげながら応える。


「パンに使うジャムや砂糖漬けは、おっちゃんが作ったやつを絶対に使えるんだから、そこまで気にしなくても……そりゃジャムとかも卸せたらたくさん儲けられるんだろうけど……」

「――待ってくれ、使えるのか?」

「そりゃ使えるでしょ。 パン屋がパン用に作ったジャムを、おみやげ屋に置くジャムとは違う? なら使わないでくれ、とか誰かが言い出したら意味不明じゃん」


 眉をひそめながらたずねてくるパン屋に、リアーヌ肩をすくめて呆れたように答えた。


 その周りでは、村人たちが顔を見合わせながら、そしてゼクスが目をギラつかせながらその会話に聞き耳を立てていた。


「……けどそしたら、菓子のも違うことになって……なんなら菓子の数だけ違うことに……」

「まぁ……そうなるんじゃない?」

「一種類じゃ無いのかい……?」

「おみやげ屋さんに瓶詰めとかで置く分は、って話だよ」

「瓶詰めで置く分……」

「おっちゃんは、パンを作ってそれを置いてもらうつもりなんだから、自分で好き勝手にパンに合うジャムや砂糖漬け――なんなら塩漬けだって煮ただけのだっていいわけ」

「――パンを作るから?」


 リアーヌの言葉にパン屋は呆然とした表情を浮かべながら答える。


「そう。 条件はグランツァを使ってることと、その商品がゼクス様の合格が貰えるレベルに達してること、この二つ」


 パン屋の前に指を一本ずつ立てながら説明し、その手に持っていたメモ用紙に手をかざして、『パンになって美味しいなら塩漬けや煮ただけのものでも可。 条件はグランツァを使い合格がもらえる美味しさであること』という文字を付け加える。


「――グランツァであれば実でもいいのか?」


 いつの間にか近くに来ていた、ずいぶんと大柄な男性が静かにたずねてきた。


「――実、ですか……?」


 グランツァの実など見たこともなかったリアーヌは、なんと答えるべきなのか判断に困り、助けを求めるように周囲を――パン屋や仕立て屋たちに視線を送る。


「――確かに実からも良い匂いがするよねぇ?」

「花とはまた違うが、あれも匂いが強いな」


 仕立て屋がおでこの広い男性に声をかけ、男性は同意するように大きく頷きながら答える。


「匂いは違うんだ……?」


 そう呟きながら、うーん……と考え込み始めたリアーヌにパン屋がさらに説明を重ねた。


「もっと甘ったるい、お菓子のような香りになるんだ」

「――え、さらに?」


 その可能性には気が付いていなかったのか、リアーヌは驚きに目を大きく見開きながらたずね返す。


「ふふっ、あんまり美味しそうな匂いなもんだから、ここで育った連中のほとんどが、あの実をかじったことがあるね! ――んで、その後そろって顔をしかめるんだ」


 仕立て屋はケラケラと笑いながら楽しそうにそう言うと、最後には「こんな風にね!」と言いながら、ギュッと顔をしかめて見せた。


「……美味しく無いんだ?」


 仕立て屋に釣られるように、顔をしかめながらたずね返した。


「一応……甘いよね?」


 仕立て屋は肩をすくめながら、おでこの広い男性に向かって質問を投げかけた。


「一応な?」


 男性は少し迷うように答えた。


「匂いもいいしね⁇」


 仕立て屋は次にパン屋に向かって質問し、パン屋は苦笑い混じりに口を開く。


「思わず口に入れてみたくなってしまうほどにはね?」

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