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「ポプリ……菓子……パン……」


 最初に手を上げた気弱そうな男性が、指を折りながらブツブツと呟き、その考えを頭に叩き込もうとしているのがリアーヌの目に入った。


(なんで話し合いの場に筆記用具を持ってこようとしないのか……)


 リアーヌは呆れたような笑みを浮かべると、アンナを振り返りメモ用紙を一枚手渡してもらう。


(……――あ、これ厳密に言ったら私も用意してない側の人間だな……?)


 そんなことを考えながら、繰り返し覚えている男性近づいていく。

 そんなリアーヌの行動に、周りの村人どころか、護衛たちまでざわついていたが、アンナがなにも言わず、オリバーがその背後にピタリと張り付いたことで、一応の落ち着きを取り戻した。

 村人たちは依然としてざわざわとリアーヌの動向を見つめていたのだが――


「おっちゃん、次からは筆記用具持って来なね?」


 そう声をかけながら、空いていた近くの椅子を引き寄せ男性の側に座ると、リアーヌは持ってきたメモに手をかざしながら、頭の中で文字を思い描いていく。

 そしてギフトを発動させ、メモ用紙に文字をコピーしていった。


「ポプリにお菓子にパン――それからジャムに砂糖漬け……」

「あ、それだそれ! なかなか思い出せなくて……」

「危ないところだったねー? 納得のいくジャムや砂糖漬けがあれば、色んなお菓子やパンが作れちゃうもんねー⁇」

「――そうなのかい?」

「……違う? ジャムパンみたいに中に入れて焼いてもいいし、生地味混ぜ込んでマーブルパンにしてもいい、普通のパンに砂糖漬けを乗せただけのシンプルなパンだって意外に売れるのかも――でも美味しくないと次に繋がらないから、やっぱりある程度納得できるものじゃ無いとねー。 ……それにこれ、お土産屋さんに置く商品の話してるんだよ?」

「おう……?」

「美味しいジャムや砂糖漬けが出来たらそれビンに詰めるだけで立派な商品だよ⁇」

「……確かに?」

「――そういえばおっちゃんはなに屋さん?」


 リアーヌは首を傾げながらたずねた。


「おっちゃんはパン屋さんだ」

「パン! あー、じゃあ余計に優先してジャムか砂糖漬け作って欲しいかも」

「……なんでだい?」

「……だって、料理の基本知らない人が作るジャムって結構恐ろしいんだよ? まず花の下処理なんてしないし、水洗いもせずに鍋にぶち込むんだよ。 手すら洗わない人もいるかも……」

「……食いもんを扱うんだ、そこまでの奴らばかりじゃないだろう……?」

「混じった時点でやばいんだって。 うちの花園、元々は王家の持ち物だったわけ、そこで売られてたものが原因で食中毒が起こしましたーとか……疑われるだけならともかく証拠なんか押さえられたら激ヤバでしょー?」


「……うちも手を引きたくなってきたかな……?」


 パン屋の男性はリアーヌの言葉に青ざめた顔をさらにひきつらせながら答える。


「あ、その辺りは平気だと思う。 そうなっちゃったら父さんも無事じゃないから。 うちにはねーそうならないように手助けしてくれる凄い執事さんがいるんだー。 花園で売るものだし、実質うちのお抱えみたいなもんだから、きっと助けてもらえるよ! ……――あ、ラッフィナート男爵家のお抱えでしたね……?」

 

 流石に勘違いだと言い張るには言葉が過ぎた……と思ったリアーヌは口元を押さえ、へちょり……と眉を下げながら申し訳なさそうにゼクスを見つめる。

 しかし、その視線の先にいたゼクスも少々顔色を悪くしながら顔をひきつらせていた。

 リアーヌの話を聞いて顔色変えるハメになったのはパン屋の男性だけではなかったらしい。


 しかし、ゼクスはリアーヌの視線に気がつくと無理やりな愛想笑いをその顔に貼り付けながら答える。


「……真実を追求するというならヴァルム殿に勝る味方はいないだろ? 万が一にもそうなったら真っ先に頼らせてもらうよ……――絶対に」

「ふふっ うちのヴァルムさんは最強ですからね! ――だから心配しないで? ヴァルムさんの目を見て「おかしなものなんか売ってない!」って言えるなら絶対守ってみせるから」


 リアーヌの言葉にパン屋はしばらくなにかを考え、そして少し迷いながらも、しっかりと頷いてから答えた。


「――……そうなると、やっぱり食べ物系は食べ物屋が扱うべき……なんだろうな?」

「絶対じゃないけどね。 あとは主婦歴長い人とかでも平気そう? ――食中毒って怖いよね、って理解してる人にお願いしたいかな?」

「――俺からも頼めるかなー……?」


 少し離れたところからかけられた、ゼクスの言葉にパン屋は「は、はい!」と、条件反射のようにうわずった声で返事を返し、ペコリと頭を下げた。


 リアーヌがそんなパン屋の様子を見て、苦笑いを浮かべていると、すぐそばに座っていた女性が、小さく声をひそめながらたずねてきた。


「――ポプリは食中毒になんてならないわよね?」


 そちらに視線を移すと、二十代後半のように見える女性が、口元に手を添えながら身を小さくしてリアーヌに話しかけていた。


「――料理はしない感じですか? 簡単なものでも毎日やってるなら、基本は出来てると思いますけど……?」


 リアーヌはそう答えながらも、心の中で(いや、出来ていないの人もいるのか……?)と自問自答し首を傾げる。


「やらないわけじゃないけど、職業柄料理より裁縫のほうが得意なの」


 苦笑いを浮かべながら、ごまかすように手をパタつかせながら女性は答えた。

 そんな女性の答えに、リアーヌは不思議そうな顔をして今度は逆方向に首を傾げながら質問を重ねる。

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