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「――花園に恋人たち鐘を置いたようなエリアをグランツァでも作るってことだね?」
ゼクスは目をギラッと光らせながらたずねる。
「はい。 決めるのは両親ですけど……グランツァがたくさん咲き誇ってたら見栄えもしますし、匂いって行かなきゃ分からないから、いい人寄せになると思うんですけど……」
「――うん。 リアーヌのにいう通りだと思うよ」
笑顔で相槌を打ちながら、ゼクスはこの案が採用される確率は極めて高いだろう……と考えていた。
(リアーヌの言う通りあの木は見栄えもするし、香りだって強い――風に乗ればかなり遠くまで匂いを飛ばすから人の気を引くなんて簡単だ。 そこにみやげ屋ってアイデアも悪くない――いやむしろいい! ――いいからこそ……――商品を卸す以外でも、この話に食い込みたいんですけど⁉︎)
「賛成してもらえますかねぇ?」
「んー……懸念があるとすればお菓子とパンかな? ボスハウト家お抱えの店があるだろうから……」
「あー……」
ゼクスの言葉にリアーヌは眉を下げながら納得した。
そして残念そうに肩を落とす。
(頼んだらグランツァのお菓子作ってくれるかなぁ……? あのいい匂いのお菓子食べてみたいなぁー……)
そんなリアーヌの様子を見てゼクスの脳内に、とあるアイデアが思い浮かんだ。
そのアイデアにゼクスはニヤリ……と頬を引き上げるが、すぐさまリアーヌに向かい同情的な表情を貼り付けると、気の毒そうな眼差しを向けて口を開いた。
「そんなに落ち込まないで……――そうだ! さっき言っていたカフェをそのみやげ屋にも作ったらどうかな⁉︎」
「カフェ……ショートケーキの?」
「それも置いていいと思うけど、メインはグランツァを使ったお菓子やパンだよ」
「……え、でも」
リアーヌは戸惑いの表情を浮かべながらゼクスを見つめ返す。
(――ついさっきお抱えのお店との兼ね合いがあるから難しいかも? みたいなこと言い出したのはあなたでは……?)
「うちはすでに許可もらってるから平気なんだ」
「――え?」
「あそこで売ってるプチシューって今はラッフィナート商会が引き受けててね?」
「え、そうだったんですか?」
「うん。 ボスハウト家のお抱えの店は個人店が多かったから、作るのが間に合わなくなってきちゃって……お店側の負担が大きいからって子爵様からうちでやってほしいってお話もらったんだよ」
「そんなことが……」
「一気に入場者が増えたらしいからね。 で、その時に花園の中に限り、ラッフィナートが似たような品物をどれだけ売っても文句は言わないって契約を、ボスハウト家お抱えのお菓子屋とは交わしてるんだ」
(……なんだか、ものすごく胡散臭い契約な気がするけど……――まぁ、お抱えの店なんだから母さんやヴァルムさんたちも納得してからの契約なんだろうし、きっと平気なんだろう……)
リアーヌはゼクスの言葉に多少引きつった表情をしながらも、どう転んでもグランツァを使ったお菓子やパンが食べられること確実となったことに気がつき、ささやかな笑顔を浮かべ喜んだ。
(――これでお抱えの店はクリアできたわけだから、あとは契約者にラッフィナート男爵家の名前を加えるか、書き換えるだけだ……――これは俺が取ってきた俺の家の仕事なんだから、無償で親父たちにくれてやる義理はない――ぜってぇ俺がぶんどってやる……!)
リアーヌに微笑み返した笑顔の裏で決意も新たにしたゼクスは、ジッと話し合いの成り行きを見守っていた村人たちに向かって声をかけた。
「大前提として、この話は店の一店舗ずつに対する話じゃない。 村人たちで好きなようにグランツァを使った商品を作り上げ、私が買うに値すると判断した場合、個別で契約を結ぶ――そういう契約になると思ってくれ」
「……商品を作り上げろって……?」
ゼクスの言葉に村人の一人が戸惑いの声を上げた。
その戸惑いの様子が、マナーレッスンを受けている時の『なにを理解出来ていないのかが、そもそもそこが理解出来ていないんです……』と、しょぼくれている自分の様子と重なってしまい、リアーヌは助け舟を出すかのように優しく話し始めた。
「――あのね? 売れるなら乾燥させただけの花でもいいの」
「……そうなのかい?」
リアーヌに話しかけられた男性はポカンと間が抜けた顔つきでリアーヌにたずね返した。
「うん。 本来の仕事の合間に花を乾燥させておいて、それが売れるならそれだけで収入になるの」
「――本当か⁉︎」
「売れれば、だよ? 売れなかったら試行錯誤は必要になる」
「試行錯誤……」
「花だけじゃなくて木の枝を入れみるか……とか、こっちの花と合わせたら良いんじゃないか? とかね⁇」
「――商品を作り上げる……」
リアーヌの説明を経て、この村人はようやくゼクスの言葉を理解したようだった。
「……俺んとこは鍛冶屋なんだか……やっぱり花を乾燥させた方がいいのか?」
「あー……私はグランツァがモチーフになってるアクセサリーが置いてあったらテンション上がると思うけど……――あ、カフェ用にグランツァの花の模様とかモチーフがついたカトラリー作ってみたら? ……ダメですかね?」
「――こちらが納得するだけの品質はクリアしてもらう必要があるけどね?」
リアーヌの伺うような質問を受け、ゼクスは肩をすくめながら鍛冶屋の男性に答えを返す。




