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(ここなんか、もっとずっとご近所さんとの距離が近いでしょ? しかもこの村自体が周り全部山に囲まれてる閉鎖されててさ……――あいつらだけは上手い儲け話にありつけたのに――って⁇ ……そんなの間違いなくトラブルの元になるヤツじゃん……しかもディーターさんがここの代表者とか……――下手したら、これからの村の運営に大きなしこりが残っちゃうヤツだよ……?)
そろそろ話を切り上げ、この場を後にしようとしていたゼクスだったが、リアーヌがウンウンと唸りながら、なにかを考え混んでいることに気がつき、その考えがまとまるまで待つことにしたようだった。
なんとも言えない笑顔を作って護衛たちを見つめ肩をすくめると、村人たちに視線を走らせながら椅子に座り直す。
そして大きく椅子を引いてテーブルと椅子の間に隙間を作ると、足を組んで背もたれに身体を預け、ゆったりとした態度でリアーヌを斜め後ろからその様子を伺い始めた。
集まっていた村人たちの間にも「そろそろか……?」という空気が流れていたのだが、ゼクスがリアーヌを気にして椅子から立ち上がらなかったことを理解すると、困惑しながらもお互いに顔を見合わせ首を傾げ合う。
しかし未だに村人たちの多くは期待のこもった眼差しを持っていて、誰一人として席を立つつもりは無いようだった。
(――でも一店舗一つはなぁ……いくらなんでもそんなにアイデア出てこないよ――いや、むしろまとめて一個とかで良いのでは……? だって村の収入が増えれば良いわけでしょ⁇ 収入が増えたら税金も増えてみんながハッピーって構図になればいいんだよね? ってことはなにか特産になるものがあれば解決するんじゃない? 布だろうが道具だろうが、食べ物だろうが、それと言えばこの村! ってのをなにか一つでも作っちゃえば、それを村のみんなで分担したり共同で作っちゃえばいいんだから――1つで良いなら……なんかないかなぁ? 儲け話、この村の収入につながるなにか――……そういえば果物で作るジャムやジュースって作ってもらうことになったのかな? あ、でも結局作るのは農園かー。 ――もし仮にそれをゼクスが全部お買い上げ、カフェで提供しちゃえば……? どっちもビンに詰めればお土産にだってなっちゃう――ってダメだ。 これで儲かるのゼクスだけだ。 なんなら農園からのも加わる……――違くて、この村のやつ! この村の人たちが作れるなにか――……)
そう大きく息を吸い込むリアーヌ。
その拍子に鼻に届いたのは、開けられた窓から風に乗って届いたグランツァの良い香りだった。
(……やっぱりこの匂い好きだなー。 花とか乾燥させたらポプリみたいになるかな? ――なるんだったら香水がわりに使えるかも⁇ ――いやいっそこの匂いを香水に……――ん? 食べ物? パンに練り込んだりクッキーに……? ――確かにパンからこの匂いがしたならそれだけで特徴的なパンになる――この村の人は買わなそうだけどー……)
リアーヌは気をつけて感じれば、ずっと感じていられるグランツァの香りを大きく吸い込みながら(ここの人はこの匂い当たり前に感じてるだろうからなぁ……)と肩をすくめた。
(でも全体的な収入を増やすつもりなら村の外の金を狙った方が良い――この辺で大きいのはセハの港……いや、でも一番売上が見込めるの王都じゃない? この国で一番人口が多くて一番物価が高い。 それに王都でちょっとでも話題になれば、それこそセハの港ででも有名になれる――……この村の特産品を王都や他の土地で……? それってつまり――)
「アンテナショップ……?」
リアーヌの呟きにゼクスは背もたれから身体を離して、その顔を覗き込むように前屈みになったが、呟いた本人は未だに自分の思考の中に沈んでいて、そのことに気が付いていなかった。
(――男爵家領地、ビセンテ特産品店! ……いや、流行らなそー……だったらグランツァの香りで客引きしてグランツァ使った商品ばっかりのお店のほうが可能性高いでしょ……じゃあ――あれ? 待って⁇ グランツァってこれから花園に置かれるわけじゃん? どんなふうになるのかは分からないけど、例えばグランツァの林とか桜並木的なグランツァ並木を作ったとして、そのど真ん中やすぐ側にグランツァグッズを売ってる店があったら⁉︎ お財布の紐はユルユルなのでは⁉︎ だからつまり――)
「――リアーヌ? 何か思いついた⁇」
眺めていたリアーヌの顔がだんだんと明るく輝き始めたのを見て、ゼクスは伺うようにソッと声かける。
そんなゼクスにリアーヌは満面の笑みを浮かべると、全ての説明をすっ飛ばして結論だけを端的に伝えた。
「おみやげ屋さん‼︎」
「…………うん?」
微妙な笑顔を貼り付けたゼクスに首を傾げられ、リアーヌはようやく全ての説明を怠った事実に気がついた。
「あ……や、あの……違くって……」
気恥ずかしそうに視線を外し、髪などをいじりながらモゴモゴと答えるリアーヌに、ゼクスは苦笑を浮かべながら口を開いた。
「……安心して? 自分でもビックリするほどには慣れてきてる」
「……私、慣れるほどこんな会話してませんもん……」
ゼクスとしては本心を話したつもりだったが、からかわれたのだと感じたリアーヌはぷぅっと頬を膨らませながら抗議した。
「――それでお嬢様はどんな良いアイデアを思いついたのかな?」
「せっかく花園にグランツァを植えるので、グランツァを使ったおみやげ屋さんがあったら売れるかな? って……」
「――そのおみやげっていうのは……?」
ゼクスはリアーヌの考えの全てを得ようと、さりげなさを装いながら探りを入れる。
「なんでも良いと思うんですけど、例えば花を乾燥させても匂いが続くならそれだけでポプリになりますし、毒が無いなら砂糖漬けやジャムにもなると思うんですよ、そしたらそれを使ったお菓子やパンも作れますし……――グランツァの花に「うわぁー、綺麗……!」ってなった後、そんなおみやげ屋さんがあったら記念に買ってもらえるのかなって……」




