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「――フルーツの加工で、なにかいいアイデアはない?」
ゼクスはさりげなさを装いながらも、リアーヌのギフトの発動を促す。
「断然ショートケーキだと!」
「……そこからは一旦離れよう? ――そもそも、あのケーキに乗ってたの生だったし、それはうちが王都で売る、って話になったよね?」
「あ、そうでした……――フルーツの加工品、加工かぁ……」
そう呟いたリアーヌは、うーんと唸りながらフルーツの加工品を羅列していく。
(フルーツ、フルーツ……パフェ――も加工じゃなくて……――でもとっても食べたいからカフェには置いてもらうことにして――加工品でしょ? ……フルーツで加工品って言ったら、ジャムにジュース、缶詰……――この世界缶詰の技術ってある? 私は見たことないけど……――シロップで瓶詰めとかならいける⁇ あとは――)
その時、リアーヌの脳裏にたくさんの村人たちが大量のカットフルーツを台の上に敷き詰め、楽しそうに作業をしながら笑い合っている光景が映し出された。
(……カットされたフルーツを干してた? ――あ、ドライフルーツ⁉︎ 良いじゃん! 保存も効くし、乾燥しやすいように切り分けるからキズも規格外も関係ないし。 それに、あれって乾かしただけなのに味が凝縮されてすっごい甘くなるんだよねー! ここのフルーツって元々すっごく甘いし、それがドライフルーツになったら、めちゃくちゃ甘くて美味しいのが出来そう⁉︎)
「えっと……定番はジャムやジュースだと思うんですけど……」
リアーヌはそこで言葉を切り、定番のものではないんですけどね……? と、伺うような視線をゼクスに向ける。
心の中では(あれ? もしかしたらこの国ドライフルーツあんまりメジャーじゃ無いかも……?)と不安になっていた。
「なんでも言ってよ。 気がついてない? 俺リアーヌの直感、すっごい頼りにしてるんだよ⁇」
ゼクスはリアーヌのギフトを“直感”と言い換えて褒めそやす。
「……やたら聞かれるとは思ってましたけど……」
(そっか……私ってば、頼りにされてたのか……?)
ゼクスの言葉にリアーヌは嬉しそうにニヨニヨと得意げな微笑みを浮かべる。
そしていい気分のまま、自分の直感を信じ、思いつきを口にした。
「ドライフルーツをがいいんじゃないかなって! 保存も効くようになりますし、水分が抜けたら余計に甘くなるから砂糖いらずのお菓子やパンの材料にもなっちゃうかも!」
「……――なるほどぉ?」
リアーヌの意見を聞いたゼクスは、ヘラリ……と笑みを浮かべながら、全力で頭を回転させ、この村のフルーツで作ったドライフルーツの使い道について考え始めた。
(――保存できる期間によっては海外にだって輸出できる……そうすればこの村のフルーツの知名度もさらに高くなって――……うまくいけばフルーツ自体の値を釣り上げても買うやつが出てくるぞ……?)
「……――シロップで瓶詰のほうにします……?」
自分の意見を聞いてから、ヘラヘラと笑ったままなにも言わないゼクスに対して、不安になったリアーヌはソッと小声でたずねた。
「え、なんで? ドライフルーツのほうがいいよ、わざわざ割れ物に入れるのはリスクも跳ね上がるよ⁇」
「あ……いや、なにも言わないから気に入らなかったのかなって……」
「とんでもない! いい意見だと思ったから、全力で少しでも高く売る方法を考えてたんだ!」
ウキウキで答えるゼクスに、リアーヌはようなく安堵の吐息を漏らしたのだった。
「ってわけで、加工品のおすすめはドライフルーツだよ。 ここは日当たりがいい土地だし風通しもいい――俺は、おあつらえ向きだと思うけど……決めるのはあなたたちだ」
「――前向きに検討したいと思います」
深々と頭を下げたディーターを視界の隅に入れながら、ゼクスはリアーヌのほうへ顔を寄せ、小声で尋ねた。
「もしかして作ったことがある?」
だとしたら気をつけるべき点や注意点を教えて欲しい――とゼクスが続ける前に、リアーヌが短く答える。
「え、ありませんけど?」
「……そう、なんだ……?」
「作って見ようかなって思ったことはありますけど……」
「失敗しちゃった?」
「……乾燥なんかする間も無くザームのお腹の中に収まったので……」
「……――なるほどぉ?」
ゼクスは呟くように返すと、ゆっくりと視線を逸らし、気を取り直すかのように二、三回咳払いをして炭屋の男性に視線を向けた。
「――では次は炭ですかね」
炭屋の代表は、ゼクスの視線を受けると、その太い腕をゆっくりと上げながら口を開いた。
「――もう一つ追加で要望がある」
「……納得のいく値段で物納する、以外にということでよろしいですか?」
「そうだ」
「なんでしょうか?」
探るような視線を男性に向けながら、ゼクスは慎重に答える。
最初の言い回しといい、今のタイミングでの追加の要望といい、商人としてのカンがこの男性を侮ってはならないと警鐘を鳴らし続けていた。
「うちにもなにか、儲け話を教えてくれ。 農園ほどは居ねぇが、うちだってそこそこの人数を雇ってんだ。 ――うちが潤ったって、この村が潤うことになる……だろ?」
男性の言い分、ゼクスは大きく息をつきながらリアーヌを見つめた。
(あっ、この流れは……)
「……だそうだよ?」
「やっぱり……」
(当然のように私が考えるんだな……? あれ、これ本当に頼りにされてるヤツ⁇ ーーまさか大損こいた時に、私に全ての責任を押し付けるつもりなんじゃ……?)
リアーヌは不信感たっぷりの疑いの眼差しをゼクスに向け唇を尖らせた。




