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「いいじゃねぇか、もので支払えるんならうちもそっちも随分と楽になる、だろ?」
「……まぁな?」
しかしすぐ隣に座っていた者に肩を叩かれながら諭されるように言われると、諦めたように少し肩を落としながらため息を吐き、小さく頷きながら納得した様子で答える。
「――自分たちさえ良ければそれでいいのかよ⁉︎」
そんな村人たちを睨みつけるように見回しながら大きな声をあげる青年。
村人たちはそんな青年の言葉に、気まずそうに視線を逸らすと、誰が声をかけるべきか無言で牽制し合う。
「……これまでと変わらない。 いや、それで税金は軽くなるというなら――」
ディーターが言いにくそうに、しかししっかりと青年を見つめて話し出す。
しかし、そんなディーターの言葉でさらに頭に血が昇ったのか、怒りで顔を赤く染めながら喚き始めた。
「変わらない⁉︎ 変わらないだって⁉︎ 今までは全員が辛った! 虐げられて奪われてっ! でもこの村に辛くないやつなんかいなかったから、どこも一緒なんだって思ってたから耐えられたんだっ‼︎ なのに今度は俺らだけに我慢させんのかよ⁉︎ アンタらは幸せになるのに俺らだけはずっとツラいままかよっ⁉︎」
リアーヌは目の前で怒りをぶちまけている青年を見つめながら首を傾げた。
(――なんであの人はあんなに怒ってるんだろう……? ……他の人は品物で税金を払えるかもしれないのに自分はお金でしか払えないから……?)
リアーヌの疑問が伝わったのか、ゼクスがそっとリアーヌの耳元に青年の情報を耳打ちする。
「彼はこの村の自警団の代表ってことになってる」
(……自警団とかやってるなら、なおさら労働で税金払ってもいいような……? ――タダ働きっぽくなるのがイヤなのかな……⁇ ん?)
「――ことになってる?」
ゼクスの言葉に引っ掛かりを覚えたリアーヌは、同じように小声でたずね返した。
「あー……彼は自警団の代表なんだけど、フルーツ園で働いてる労働者でもあるんだ」
「……――ボランティア的な?」
ゼクスはそんなリアーヌの答えに苦笑しながら肩をすくめ、少し呆れたように答えた。
「――おそらく自警団としての実績はきっと無いだろうね」
「……はい⁇」
(それは自警団と言えないのでは……?)
リアーヌは未だに反対の姿勢を取り続け、周りを説得しようとする青年と、逆にそんな青年をどうにか説得しようとする村人たちの攻防を眺めながら、再び首を傾げた。
「……つまり彼は労働者の代表ってことなわけだ」
「なるほど? ――だったら最初からそれで良くありません?」
眉をひそめ、心底不可解そうにいうリアーヌに、ゼクスは困ったように肩をすくめながら、笑って答えた。
「今回の話し合いさ、村人全員で来られても困るから、あらかじめ村の各代表者たちとするってことで声をかけちゃったんだよ。 普通そこに労働者代表は入らないだろ? フルーツ農園で働いてるならそこの経営者――ディーターが代表だし、炭にしても他の店にしてもそうなる」
「……でも話し合いには参加したかった……?」
「多分ね。 だから自警団なんて団体を作り上げて彼はあそこに座ってる――まぁ、今は元気に立ち上がってるけどー」
言いながら頬杖をついたゼクスは、大きく息を吐きながら、未だに周りを説得しようと躍起になっている青年を見つめ肩をすくめた。
「――実際のところ、税金を物納って大丈夫なんですか?」
「あー……――まぁ、うちとしては最低限払ってもらえるなら……?」
ゼクスはそう言いながらリアーヌに向かい非難がましい視線を向ける。
その視線は、ゼクスとて物納を本心から望んでいるわけではなかったが『税金全カット』などという暴挙とも言える提案を受け入れるくらいならば、物納でもなんでもいい――と、力強く物語っていた。
(……――なんか税金は取ったほうが良さげ……? ……物納が良かったのかな⁇)
ディーターが税金を払うと言った辺りから、少しではあったが強くなってしまった感じているイヤな感じがフッと薄れたことを、リアーヌはきちんと把握していた。
「――仕事で疲れちゃうから、労働で支払うのはイヤなんですかね?」
「……多分、その期間の給料が減るんじゃ無いかな?」
ゼクスはリアーヌの質問に、言いにくそうに答えた。
こんなことを言えば、リアーヌがまた村人たちに同情して、減税を提案してくるのでは……? と危惧したようだった。
(――あー……日払いとか歩合制の給料なのか……)
リアーヌは青年に気の毒そうな視線を送ったが、再びなにかに引っかかったのか、首を傾げながら口を開いた。
「――でも税金は安くなるんだから、当然期間も前と比べれば短くなりますよね?」
(そりゃ、物納の人と比べたら不公平だって感じるのも分かるけど、今までと比べたら断然ディーターさんの提案のほうがいいと思うんだけど……――やっぱり他の人と比べて不公平な気がするからイヤなのかな?)
そのリアーヌの声は、今までの会話のように小さくひそめられてたものだった。
しかしほんの一瞬、わずなか隙間、村人たちの会話が途切れた瞬間と同時だったため、想像よりもはるかに大きく、その部屋の中に響き渡ってしまった。
言った瞬間、リアーヌは思っていた以上に響いてしまった自分の声に驚き、口を抑え、ゼクスもどこか慌てるように村人たちに視線を走らせた。
そしてその声がハッキリと届いてしまった村人たちの多くはチラリとリアーヌに意識を向ける――