表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
成り上がり令嬢暴走日記!  作者: 笹乃笹世
134/512

134


 ◇


「……へぇ? じゃ、そっちの主張をまとめると、果物を売る量も金額もそちらの都合しだい。 木炭は言い値で買え。 道路工事に割く人員など一人もいない――けれど税金は安くしろ……ってことで合ってるかな?」


 サンドバル村の集会場、村人たちの都合のいい言い分を忍耐強く聞いていたゼクスはハッキリとため息をつき、質素なテーブルに頬杖を付きながら投げやりな態度で確認する。


 ――ちなみにリアーヌとゼクスの前にだけ置かれた色鮮やかなフルーツで彩られたクレープには、まだどちらも手をつけていなかった。


「――我々にも各々の立場がございまして……」


 ディーターが淡々とした声で頭を下げながら答える。

 ーー誰がどう見ても、その態度のどこからも領主への畏怖(いふ)や配慮などは感じられなかった。


「奇遇ですねー? 俺にもあるんですよー⁇ ――立場ぐらい」


 にこやかに話し始めたゼクスだったが、よほど頭に来ていたのか、最後には真顔でドスの効いた声色になっていた。


(……え、こんな空気の中、私にクレープ食べろって言ってる? 無理でしょ。 味なんかするわけないじゃん。 ――マジでよそで話し合って欲しい……――いやむしろ、私をよそにやって欲しい……)


 リアーヌはそう考えながら、ため息を吐きそうになるのを、ゆっくりと息を吐き出すことで堪えていた。

 そしてゼクスも含め、この場に集まっている村人たちの様子を盗み見て行く。


(……本当にこの村の人たち、ゼクスを怒らせるの全く怖くないんだなー……――貴族に搾り取られてた人たちだから、もっと気の毒になるくらいへりくだっちゃうのかと……――いやそうならないほうがいいことなんだけど……やっぱり本当に貴族がいなくても生活していけるって思ってるのかなぁ……⁇)


「……リアーヌどうしよう?」


 はあぁぁぁと、特大のため息をついたゼクスが、目の前の村人たちなどいないかのような態度で話しかけてきた。

 テーブルの上に頬杖をついたまま、足を組み、身体ごとリアーヌに向き合っている。


(――目の前の住民との話し合い、前面拒否の姿勢じゃん……――まぁ、私もこの人たちの態度はちょっと無いとは思うけどー……)


「……どうにか妥協点を見つけるしか」


 そう答えたリアーヌは、ふぅ……と息をつきながら目の前のクレープに手を伸ばた。

 ゼクスの態度も村人たちの態度も決して誉められるようなものではなく、ならば自分だって、少しぐらい模範的なご令嬢の立ち振る舞いから外れてしまっても、問題は無いだろう考えたようだった。


「ムリでしょ。 この人たちの妥協なんかするつもりないじゃん」

「……――私にもそう見えます」

「だろー? ……このままじゃ赤字一直線だよー」


 ため息をつきながら椅子にもたれかかり、天井を見上げるゼクス。

 その様子は大袈裟で芝居がかっていたが、リアーヌにはその嘆きがゼクスの本心のように感じられた。

 ――商人としてのゼクスのがめつさを正し……昨日のはしゃいでいるゼクスを鮮明に覚えていたからなのかもしれない。


「……カフェで働いてくれる人をたくさん雇って、その売上とこの村の税金でどうにかやりくりできませんかね?」

「いやぁ……カフェやるのだって初期費用が必要になるし――そもそも道路工事なんてとんでもない金が必要になるんだよ? あのケーキが大流行して何店舗も増やせて初めて、可能性が出てくるレベルだよ……」

「――流行はすると思うんですけどねー……?」


(でも、すぐには増えないだろうなぁ……? そもそも流行りのスイーツを作りたいんじゃ無くて、借金の帳消しが目的なわけだし……)


「――そもそもこの村で集めるはずの税金を今までの三分の一に下げろって言ってきてるし」

「三分の一⁉︎」


(さすがに吹っかけすぎでは⁉︎ 税金が無くて困るのは、結局住民じゃない……?)


「まぁ、今までの税金が五割負担だから、下げることに反対はしないんだけど……」

「――え、給料の半分税金で持ってかれてたんです……⁉︎」

「今まではね? 俺だってそんなのがいいとは思えないから三割まで下げるって言ってるんだけど……――二割行かないとかはさすがに……それじゃ村の維持だって出来ないよ……」

「……五割⁇」


 あまりの税金の重さに、リアーヌは呆然と同じ言葉を繰り返し口にする。


「――言っておくけど俺は三割で良いですよーって言ってるんだからね? 五割もかけたのは前領主だからね⁇」


 そんなゼクスの声を聞きながらリアーヌは昔の生活を思い出しながら、税金が五割の生活を想像する。

 ――税金がそんなに重かったと知って、今目の前で頑なな態度をとっている村人たちが、貧乏な生活の中、それでも懸命に働いていた父や母と重なって見えてしまっていた。


(うちの場合は王都の端っこってこともあって微妙に物価が高かったことと、父さんの仕事を斡旋してたとこがえらい中抜きを始めちゃったのが貧乏の原因だったわけだけど……――それだって収入減らされてたって意味じゃ一緒なわけで……しかもここの人たちは周りが山のこの村に住んでるんだから、買い物自体がそう簡単じゃ無くて――……待って? 前領主になんか必要なさそうなもの割高で買わされてたって話もありましたよね……⁉︎)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ