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成り上がり令嬢暴走日記!  作者: 笹乃笹世
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 大の読書家であり研究者気質のビアンカ。

 ゆくゆくは研究学部という大学のような学部への進学を希望していた。

 そしてそこで戦争や部族間の争い、自然災害等によって地図から消えてしまった国や集落など、その土地に伝わっていた文化や宗教などを調べ上げたいという願いを抱えていた。

 今は地図に載っていなくても、そこには確かに国や集落があり、どのような人々がどんなふうに日々を過ごしていたのか――そんな人々の歴史や足跡を調べ、その情報を後世へと正しく伝えたいと考えていたのだ。


 しかしながら、そのようなことが書かれているような本は、現王族や国の重鎮たちにとって都合の悪いことが書かれていることも多々あり、体面を考え禁書指定などまでには至っていないものの、見つけ出し次第燃やす、売り買いできぬように圧をかける――といったことは日常的に起こっていた。


 リアーヌはビアンカがそんな本を、一冊でも多く手に入れたいのだと口にしているのをよく聞いていた。

 そしてビアンカから聞いたグチの中に、この学院に置かれているそんな希少本たちは、研究学部の者たちに借りる優先権があり、それに加え高位貴族の横槍なども入る為、いまだに一冊も一文字も読めていないというものがあったこともちゃんと覚えていた。


「――この速さで1ページ……一冊なら三十分――いえ、死ぬ気でやれば二十分でも……」

「ちょっと……?」


 あごに手を当てブツブツと不穏なことを言い始めたビアンカにリアーヌは眉間に皺を寄せる。


「――あなたの可能性の話よ。 今の速度だって本気では無いんでしょう?」


 ふふふっと、にこやかな笑顔で言うビアンカ。

 しかしリアーヌはジットリとした視線をビアンカに向け続ける。


 まだ数週間という短い付き合いではあったが、ビアンカのこの完璧な笑顔が本心を隠すための仮面であることを、リアーヌはきちんと理解していた。


「……うんって答えたら死ぬ気で働かせる気?」

「――ほんの冗談よ」

「いや、絶対本音だったよ」

「……たまに本音を漏らすことくらい許しなさいな――友達でしょ?」


 いたずらっぽくそう言ったビアンカにリアーヌはぐぬぬ……と言葉を詰まらせた。


「――もーっ! その言い方ズルい! しかもビアンカ分かって言ってるよね⁉︎」

「ふふっ それでどうなんですの?」

「……はぁ。 あー……紙をめくってくれたり、本のページをめくってくれる人がいるなら、多分今の二倍は早くコピーできると思う」

「――素晴らしいわっ!」


 リアーヌの言葉にビアンカは瞳を輝かせうっとりとリアーヌを見つめた。


(――過去一で喜んでいらっしゃる……まぁ、喜ばせたくて提案したんだから期待通りの反応なわけだけど……なぜこんなにも釈然としないのか……)


 しかし、やはりどう考えてみてもビアンカにリアーヌの友達であり続けるメリットは見当たらなかった。

 それどころか、入学早々公爵家や侯爵家とトラブルを起こしたともだち(・・・・)など、デメリット以外のなにものでもない――にも関わらず、リアーヌをともだちだといってくれる心優しいビアンカに、リアーヌは改めて少しでも恩を返すことを決意する。


 リアーヌは、自分の時間が許す限り本を写本することを約束し、少し引いてしまうほど上機嫌になったビアンカと共に、教室へと戻って行く。


 ◆


 ――それはリアーヌたちが立ち去ったすぐ後のことだった。

 二人が座っていたベンチのすぐ後ろにある茂みが風も吹いていないのにガサゴソと揺れ始める。

 そして――1人の男子生徒がひょっこりと顔を出した。

 どうやら茂みの中に隠れて昼寝でもしていたらしい。


「……ふぅん? 写本ね……――【コピー】かぁー。 ――【コピー】ねぇ……⁇」


 その声の主はリアーヌたちが立ち去っていったほうを眺めニヤリと笑う。

 その人物はそう呟くと、鼻歌混じりに立ち上がり、芝生のかけらなどが付いた制服をパタパタと払い、足取りも軽く校舎内へと戻って行った――



 すっかり春めいて、初夏の気配すら感じるようになった中庭――

 リアーヌたちはいつもの、程よい日差しが楽しめるベンチに並んで座っていた。

 二人共に重々しい表情を浮かべて――


「――確認なんだけど……あなた本当に試験を受けたのよね……?」

「……はい」

「……――本当に#貴女__・__#が受けたのね?」

「……本当に試験を受けて合格をいただきましたが……――今となっては、なにかの間違いだったのではと……」

「――私も疑っているわ……?」


 リアーヌは大きく肩を落とし、ビアンカはため息とも取れるような、長く大きな息を吐き出す。


 様々な花が咲き誇る美しいこの中庭において、二人が座っているベンチだけがどんよりと曇っているようだった。


 二人がこんな状態になってしまった原因は、直前に行われたマナーの小テストだった。

 今回は数人のグループに分かれてのお茶会形式で、最初の挨拶と席についてからの十分程度の会話、そしてお開きになった際の帰りの挨拶を披露しあい、教師からの評価をもらうという授業だったのだが、リアーヌの受験対策があまりにも付け焼き刃過ぎた、という事実が大勢に周知されたのだった。

 ――ちなみに、この“大勢”の中にはリアーヌ自身すら入っていた……

 マナーが得意では無いという認識は持っていたリアーヌだったが、人間というものは何事も自分を基準にしてしまうもので、リアーヌもまた自分の能力が平均値であると、認識していたのだった……――つい先程までは。


(……私みたいにマナーが得意じゃ無い人は皆、最初と最後の挨拶だけしっかりやって、後は気配を消してやり過ごしているんだとばかり……――そっかぁ……お茶会は全員で席に着くもんなぁ……部屋の隅っこには行けないよね……)


 リアーヌのあまりの出来なさ具合に、リアーヌたちのグループはテストもそこそこに、教師はリアーヌに対する指導をメインにしてしまうほど、リアーヌのマナーは酷かった。

 ――ただし、これには教師側の他の生徒に対する配慮も含まれていた。

 お茶会には必ず主催者――ホストが存在しており、その人物はお客様の全てに気を配り、話を盛り上げるという役割を持っている……そんなところにマナーのなっていない生徒が一人でも紛れ込んでしまっていては、ホスト役の難易度が跳ね上がりすぎてしまい、他の組や他のクラスと比べると、正当な評価とは言えなくなってしまう。 と考え、教師たちはその元凶をどうにかする方向にハンドルを切ったのだ。


(ビアンカもだけど、あのグループの人たちに悪いことしちゃったなぁ……私たちのテーブル見てた先生、一生私の指導してたし……――あれ? 指導⁇ ……確か今日って小テスト……貴族の学校は実技テスト中にご指導まで受けられる……?)

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