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成り上がり令嬢暴走日記!  作者: 笹乃笹世
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 ◇


(えっ真珠パック凄すぎない⁉︎ 私のお肌とぅるっとぅるなんですけど⁉︎ 一回で? 効果速攻で効果てきめん⁇ ――もはや魔法じゃんパールパック……)


 次の日の朝、洗顔で触った自分の肌があり得ないほどなめらかになっていることに気がついたリアーヌは、鏡に映る自分の顔を確認しながら、もちもちと自分の頬を何度も揉み込み、なめらかな手触りと弾力感を楽しんでいた。

 心なしか、いつもより肌に透明感が増してい流ように見え、しかし血色は良くなっているのか、頬と唇は赤みが増しているように見えた。


(――寝起きでこれって……お風呂上がりはどうなってしまうのかと……――テオさんにたくさん貰ったけど、絶対足りない。 だってこれ一生使うでしょ。 メイドさんたちにだって買っていってあげたいし、母さんやビアンカへのお土産も絶対これ!)


 そう考えたのはリアーヌだけではなかったらしく、約束通り朝市へ行く予定だったリアーヌに付き添うはずだったアンナだったが、早々に別行動の時間を取ることを申し出て、リアーヌに速攻でそれに許可を出した。


(アンナさんお願いしますね! 大奥様や屋敷のみんなが一生使えるぐらい買い込んでください!)


 そんなアンナの申し出に、護衛として付いてきたオリバーやラッフィナート商会側の護衛やメイドたちも良い顔はしていなかったが……唯一、蔑ろにされているはずのリアーヌだけが上機嫌で了承しながら、アンナに期待を込めた視線を送り続けていた。




 そして――朝市散策時、アンナが側を離れたことにより、リアーヌにとっては嬉しい誤算が生じることになっていた――




「おっちゃん、そっちのエビも食べたい!」

「あいよー!」


 リアーヌの熱視線に折れたゼクスが、休憩がてら……と選んだのは、持ち込み可能な海鮮焼き屋だった。

 簡素なテントの中、簡素なテーブルと椅子がずらりと並び、テーブルの上には焼けた炭と鉄板が置かれていて、客自身が食材を好きに焼けるようになっていた。

 店の奥には大きなグリルで焼かれたさまざまな海産物が所狭しと並んでいて、パチパチじゅわじゅわと焼けるいい音と香ばしい匂いが道ゆく人たちの食欲をそそっている。

 野菜やチーズ、さらには肉まで売っているあたり、ここの店主もだいぶ商売人のようだった。


「あとねぇー……」


 店の奥の大きなグリルの前に陣取ったリアーヌは祈るように指を組みながらギラギラと瞳を輝かせて食材を選んでいく。


「――リアーヌそのくらいにしたら? 朝ご飯食べられなくなっちゃうよ⁇」


 アンナがいない今、リアーヌを止められる者はゼクスしかいない。

 なぜ自分が……と内心でグチりながらも、アンナがいれば言っていたであろう注意の言葉を口にする。


「……もうここで朝ご飯でよくありません?」

「――よく……は、無いかもよー?」


 ゼクスは援護射撃を求めるようにチラリと後ろに視線を送りつつ答える。

 そこに立っていたのは、アンナが完全に別行動で真珠の粉を買い漁りに行っている現在、たった一人でリアーヌを守っている護衛のオリバーだった。


 ゼクスに見つめられ、驚いたように軽く目を見張ったオリバーだったが、すぐさま困ったように眉を下げると、ヘラリ……と笑うと肩をすくめて見せる。

 それはまるで「自分の言葉じゃどうせ止まりませんって……」と言っているかのようだった。

 そんなオリバーにゼクスは顔をしかめつつも小刻みに数回頷いて返事を返した。

 オリバーとリアーヌの関係性を考え、そりゃそうだよな……と納得してしまったからだ。


 ゼクスは、再びハンターな目つきのままのリアーヌに視線を移すと、これ見よがしに大きなため息をついて見せる。

 気がついて欲しかった張本人には、全く気がついてもらえなかったが……


(――……ま、いいさ。 ここであのメイドに恩を売っておいて損はない……――くっそぉ、ヘタ売ったよなぁ……リアーヌが興味を示したんだから、その時に聞き出すなり口止めなりしときゃ良かったって言うのに……)




 ――朝市に行くため、待ち合わせをしていた宿のフロントに降りてきたリアーヌたち。

 その姿を一目見たゼクスは驚愕に目を見開いた。

 早朝で薄化粧、そしてお忍びに相応しい量産品のワンピースという服装であったにも関わらず、リアーヌのその肌艶は今まで見た中で一番の輝きを放っていたのだ。

 ゼクスは、自分の肌の調子の良さを誇るように胸を張っているリアーヌに向かい、笑顔を浮かべると、恭しく差し伸べた――心の中では盛大に毒づきながら。


(――やられた。 あのメイドに先を越された……)


 ほんの一瞬、リアーヌを初めて視界に入れたその一瞬、目を見開いている自分向かって、アンナが勝ち誇ったような笑みを浮かべたことを、ゼクスは視界の端できちんと把握していた。

 歯軋りでもしてしまいそうになるのを必死に堪えつつ、ゼクスは全力で満面の笑みをリアーヌに向け、その美しさを誉めそやしたのだった――

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