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「――リアーヌはこれ欲しい?」


 リアーヌが売り物だと信じて疑っていないので、売れるのだろうということ自体は疑っていないゼクスだったが、リアーヌ自身がこの真珠にほとんど興味を示していないことが気にかかり、探るように声をかけた。


「え……? ――その、欲しいかと聞かれると……」


 ゼクスからの質問に少し気まずそうに前髪を直しながら答えるリアーヌ。

 興味深そうな顔つきでこちらを見ているテオとも目が合ってしまい、その気まずさから慌てて言葉を付け足す。


「あの、でも大奥様――あ、お婆様に送ったら喜んでいただけたりするのかなー? なんて思ったりしてます……⁇」

「……本当? お婆様に……?」

「え、はい。 以前、孔雀の羽をあしらったドレスや帽子を着ていらっしゃいましたし、黒に差し色が入ったドレスもお好きみたいなんで、そんな時はあの真珠がお似合いになると思います。 ……結構お茶目なかたなので、個人的にはバロック真珠とかのほうがお似合いになると思いますけど……」


 リアーヌは自分の中にあるムズムズした感じに従いながら言葉を紡いでいく。


「……送らないほうがいい?」

「なんとなく……――なんだか相性が悪い? 気がします」


 リアーヌは思いつくままに答えていく。

 実際この直感(・・)は正しく機能しており、バロック真珠に関しては大奥様が気に入ったとしても、周りの使用人たちがそんな不完全な真珠をつけさせることを大いに嫌がるだろうことを、リアーヌの後ろに控えるアンナはヒシヒシと感じていた。

 そして、それと同時にこれから自分が支えるべき(あるじ)の能力の高さに、ほぅ……と、感嘆の息を漏らしていた。


「ドレスの装飾や色に合わせて、か……」


 ゼクスはアゴに手を当てながら納得したように何度も深く頷く。


「……そういうもんなのかよ?」


 自分とは全く関わり合いのない世界の話に、テオは居心地が悪そうにソファーに座り直しながら首を傾げた。

 そんなテオにゼクスは肩をすくめながら声には出さず「まぁね」と答える。


「ドレスやタキシードによって身につける身につける宝石は変わる。 同系色でまとめる者もいれば差し色に使う者もいる――まぁ、どうしたって宝石を身につけたがる者は多いが――目新しさにはなるし……言われてみれば、こういったた落ち着いた色合いで美しさも兼ね備えた宝石はそう多くはないからな、意外に受ける……かも?」

「かもかよ……」


 拍子抜けしたように、肩を落としたテオは不満げに小さく鼻を鳴らす。


「社交界の流行だぞ? 一商会(いちしょうかい)がそう簡単に作れるかよ」

「よく言うぜ」

「――マジだよ。 最近の商売が流行になってんのは、名門ボスハウト子爵家の名前と、子爵様繋がりの人脈があったからこそ、なんだよ」


 ゼクスの言葉に「そういうもんかね……?」と曖昧に頷くテオ。

 その言葉を全て理解したわけではなかったが、そういうものなのだろう……と自分の中で納得しようとしているようだった。


「――となると……これはある程度の落ち着いた色合いを好む世代向け――ということになる……かな?」


 ゼクスはそう呟きながら、頭の中でどういった売り方を展開すべきか、再び頭の中でプランを組み立てていく。


 そんなゼクスを不思議そうに首を傾げながらもリアーヌは一人考えを巡らせる。


(……ご年配向けな気もするっちゃするけど……――黒真珠が最も適してるのって喪服じゃないの……?)


「――なにか考えがあるなら聞かせて?」


 その考えを言うべきか黙るべきか迷い、チラチラとゼクスに視線を投げかける。

 そんなリアーヌに気がついたゼクスは、優しい笑顔を浮かべながら、リアーヌが自由に意見を言えるように促した。

 ――心の中で盛大にガッツポーズを取りながら。


「――喪服とかも良いのかな? って……」


 リアーヌはそう口にしながら(それは……もう思いついてたけど――でもありがとね? とか言われたらどうしよう……)と不安に襲われつつ意見を口にする。


「喪服……」

「確かに黒いが……」


 リアーヌの言葉にゼクスとテオは、表情を渋くすると、顔を見合わせて緩く肩をすくめ合う。


 ――この国の考え方では、葬式の準備など不幸が出てからするのが当たり前のことで、誰も亡くなっていないうちから葬儀の準備――そこに参加する服装などを買ったり準備することは非常に縁起の悪い、ほとんどの者が忌避する行為だった。

 そして喪服の場合、過度な装飾品をつけないことも常識だった。


「……ダメ、ですかね?」


 そんなリアーヌの問いかけに答えたのはテオだった。

 

「ダメというか――縁起が悪いというか……喪服用に似合うアクセサリーなんて店に置いたら他の客まで逃げちまうぞ……⁇」

「なんで⁉︎」

「いや、なんでってこっちがなんでって聞きてぇよ……」


 顔をしかめ合う二人を制するように咳払いをしたゼクスが、確認するようにリアーヌにたずねる。


「――リアーヌは売れると思ったんだね?」

「売れるというか、喪服でアクセサリーつけようと思ったら黒真珠がオニキスかぐらいなのでは……?」


(なんか、この国白い真珠もダメっぽいんだよね。 昔ご近所さんのお葬式行く母さんに「真珠とか付けてかないの?」って聞いたら「あんな目立つの付けていけるわけないでしょ」って言われたことあるし。 ……だったらもう黒真珠にしか希望は無いよ……)

 

 リアーヌは前世の記憶やゲームの知識に邪魔をされ、この世界の常識をなかなか理解できずにいた。

 ――この世界の葬儀では、その列席者たちは黒以外の色を身に纏わないのが常識だ。

 そして黒であっても、あまりにも華美な装飾品を付けることもタブー視されている。


 そしてそれは平民だけではなく、体面を気にする貴族たちも例外ではなく――皆が皆、どこか不満に思いながらも「そういうものだから……」と現状を受け入れているということを、ゼクスはきちんと理解していた。

 ――だからこそ、リアーヌのこの言葉は、予言めいてすらいると感じていた。

 そして、全面的に乗る覚悟を素早く固めていたのだった――

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