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成り上がり令嬢暴走日記!  作者: 笹乃笹世
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「まあ……それはそうだね?」


 リアーヌの態度を不思議そうに見ていたゼクスだったが、リアーヌの言葉自体には同意しか無かったので、同じように身体をよじると部屋の中を見回して、楽しそうに笑う祖父や父、祖母の姿を眺めながら口元を綻ばせる。


(あの人たちが、こんな短時間であんなに打ち解けるとは思ってなかったな……――相性は悪くないとは思ってたけど、ここまでとは……やっぱりリアーヌの力のおかげ……?)


 ゼクスはこっそりとその横顔を盗み見ながら、リアーヌのギフトについて考えを巡らせ始める。


(ボスハウト家で子爵がリアーヌに助言を求めた時から、そうなんじゃないかと疑ってたけど……やっぱりリアーヌは無意識でギフトを使ってる――いや、もしかしたらパッシブ型の可能性……? ――だとすればきっと発動のきっかけは十中八九“問いかけ”だろうな)


 さまざまな能力のある『ギフト』

 実はその能力の発動方法にも、いくつかの種類があった。


 ほとんどの場合は、自分の意思で発動させるもの。

 アクティブ型と呼ばれる発動方法。

 リアーヌの『コピー』やゼクスの『魅了』などがこれに当てはまる。


 そして今回ゼクスが疑っている発動方法がパッシブ型。

 これは自分の考えではなく、他人に促されたり、なにかのきっかけによってギフトが発動するものだ。


 その他に大変数は少ないが、能力者の意思に関係なく常時発動するギフトもある。

 リアーヌの父親サージュの『豪運』がこれに当てはまる。

 ――この発動方法のギフトを持っている能力者は、生まれつきかなりの力を保有していなければならないので、数としてはかなり少数になる。


「なぁ、食べないのか?」

「えっ……?」


 自分の考えに浸っていたゼクスは、急にかけられた声に驚いて顔を上げた。

 しかし声の主と目が合うことはなく――声をかけてきたザームは、ゼクスの前に置かれたケーキを、捕食者のような目つきで見つめ続けていた。


「俺代わりに食ってやろうか?」

「――ザームにおかわり持ってきてあげて?」

「かしこまりました」

「すぐ用意してもらうから、ちょっと待ってね……?」

「……分かった」


 渋々……と言った様子で答えたザームだったが、その視線がゼクスのケーキから外されることはなく、ようやく外れたのは新しいデザートが部屋に運ばれて来た時だった――


(……無礼講だったからここまで打ち解けられたわけだけど……こりゃ今回限りで封印だろうな……)


 このゼクスの心の声は、後日この日の出来事を詳しく知ったツノを生やしたヴァルムの采配によって現実のものとなったのであった――


 ◇


 そんな食事会から少し経ち、季節はすっかり夏となっていた。

 リアーヌたちの夏休暇も始まって数日後のある日の夕暮れ、星がその存在を主張し始め、月がその身に光まとい始めた頃――


 リアーヌは家族と共に馬車を降り、この国で一番高貴な場所、王城へと足を踏み入れていた。

 今日は王城で開かれる、王家主催のダンスパーティに両親と共にご出席だ。


(……私まだ社交界デビューしてないのに、なんで参加してるんだろう……――って、よく考えたら主人公だってデビューしてないのに当然のように参加してたな……? ならそこまで珍しいことでもないのか……?)


 そんなことを考えながら、リアーヌはパーティ会場まで続く廊下に敷かれた赤絨毯の上を、両親の後ろに続いて歩いていく。


 廊下全体は白で統一されているが、至る所に金の細工が施されて、豪華な印象しかない。

 そして高い天井にはキラキラと眩い光を放つ大きなシャンデリアがいくつもぶら下がっていた。

 リアーヌたちの左手にはライトアップされた噴水が、涼しげな音を立てている。

 そちらから吹き込む風の心地よさに、リアーヌは思わず顔を綻ばせると、そちらを見つめながら大きく息を吸い込み――警備のために立っている騎士と目が合いビクリと肩を震わせた。


(――ビビったぁ……――でもそうだよね? 普通、警備の人いますよね……⁇ ――犯罪抑止力のために、もっと目立つところで仰々しく警備したらいいのに……)


 中庭の暗がりに静かに等間隔に並んでいる騎士たちに向かい、チラリと恨めしげな視線を投げつけたリアーヌは、ほんの少しだけ唇を尖らせてその不満を表現した。


 通り過ぎた背後で、目があった兵士が苦情を漏らしたような気配を感じたような気もしたが、リアーヌはそれに(絶対に気のせいだし。 だって被害者は私のほうだし!)と言い聞かせながら両親の後ろを歩き続けた。


 ――通常、このような場所に騎士たちが警備につくのは常識であり、庭に視線を向けたご令嬢がギョッと身を固くすれば、その周辺の騎士たちは周りを警戒して然るべきであり――警護についていた騎士たちとて、まさか王城のパーティーに出席を許されたご令嬢が自分たちの存在を忘れるなんてことがあるとは、夢にも思っていなかったのだ。




 パーティー会場に入り、ゼクスと合流してダンスを一曲。

 両親たちも一曲踊り終えると、ゼクスとはそこで別れ、両親の挨拶回りに同行する。

 父のギフトのおかげなのか、周囲がデビューもしていないリアーヌを気づかった結果なのか、挨拶回りはなんの問題もなく順調に進み、あらかじめ相談して決めていた相手との挨拶が終了すると、父は知り合いに誘われ男性同士の社交へ、母も女性たちが集まる場所へと誘われていった。


 リアーヌも予定されていたダンスを踊り終えればビアンカと合流することになっているので、一人の時間が少々心細くはあったが、この後合流するはずのダンスのお相手を探して会場内をぐるりと見回す。


(――当然だけど、すっごい豪華……廊下のもすごかったけど、このホールのシャンデリア、レベチじゃない……? あんな大きいのなんか見たことないんだけど……この床も大理石ってやつでしょ……? ――この部屋の中にあるもの全部が全部お高そう……――あ、緊張してきたらノド乾いた……――そういえば、ゲーム序盤で出席したパーティーって夏休みで王城だった気が……? ――え? つまり主人公ってば、あそこで一人好き勝手に飲み食いしてたってこと……⁉︎ そりゃ……さぞかし目立ってたでしょうね……? しかもそこに攻略対象者がやってきてダンスのお誘いでしょ? そりゃパーティーの話題独り占めだよねー……――よく考えたら、主人公ってば私でも分かるくらいに貴族的アウトなコトばっかりやらかしてるじゃん……)


 リアーヌは、来年この会場で繰り広げられるであろう、悲劇か喜劇に思いを馳せ、一人顔を引きつらせていた。

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