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成り上がり令嬢暴走日記!  作者: 笹乃笹世
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 リアーヌは内心で大いに首を傾げたが、そのフリシアの言葉にクライスも同意するのを見て、曖昧に微笑むだけに留めた。


 ――今回の会話を噛み砕くならば、ゼクスがリアーヌに対して『商才がある』と褒め『自分が見ている前で解決してみせた』と、その具体例を上げたことになる。

 そしてリアーヌは、ゼクスの意見に対して『思いつきで……』と、解決策を言ったことは認めつつ、言外に『実力などではない』と匂わせたことで“控えめ”。

 そしてゼクスの言葉を否定しないことからきちんと“顔を立てることが出来る”――という判断になったようだった。

 ――しかし当然それらの言葉も、ご機嫌とりの割合が非常に高く、リアーヌが困惑しても不思議ではないくらいには強引な賛美の言葉だった。


 ゼクスだけは全員の思惑がほぼ透けていたので素直に苦笑いを浮かべ、リアーヌに「気にすることはないよ」という意味を込めて肩をすくめたが、その動作の意味すらリアーヌには届かなかった。

 ゼクスはさらに苦い笑顔を浮かべたまま窓の外に視線を移して大きく息をついてしまうのを堪えた。


「きっとご両親の教育が素晴らしいのでしょうなぁ?」


 父クライスが、ゼクスの祖父に当たるグランド・ラッフィナートに、ニッと笑いながら話しかける。


「いやいや、こちらのお嬢様の実力だろうとも」


 グランドそっくりの顔つきで笑い返しながら、同意を求めてリアーヌに視線を投げかける。


(――そのあたりは使用人の教育が素晴らしかったと胸を張れます! ……絶対今じゃないから絶対言わないけどー)


「――うふふー?」


(答えに迷ったら、慌てず騒がず首をかしげて笑って考える! ――歯は見せない、絶対)


「ええ、ええ。 きっとそうに違いないわ! ――これは、より一層強い繋がりを作れるよう、改めてお願い申し上げにいかなくてはいけないわね?」


 ニコニコと上機嫌な様子のフリシアだったが、その瞳はギラギラと獲物を狙うハンターのように輝いている。


「そうですねぇ? リアーヌ嬢はその辺りをどのようにお考えですかな⁇」


 フリシアの言葉に同意を示しながら、クライスもリアーヌにギラついた視線を向けた。


(な・に・がー⁉︎)


「――うふふ……?」


 リアーヌはそう呟きながらゆっくりと視線を伏せ、自分の手元をジッと見つめる。


(意味わかんない質問しといて『どのようにお考えですかな?』とかなんなの⁉︎ ーえ? “強く繋がる”を“お願い”で、どう考える⁇ ……それって良いの? 悪いの⁇ どっち⁉︎)


 顔は伏せたまま、チラチラとフリシアたちに視線を走らせるが、誰も彼もギラついた瞳をリアーヌに向けていた。

 誰のほうを見ても、ギラギラした瞳と目が合ってしまい、リアーヌはその都度小さく肩を震わせた。

 そしてまた深く顔を伏せると、少しでも早く視線をあげられるように、必死に頭を回転させ始め――


(そもそもそも強く繋がるってなに? ……え、結婚? すぐにでも結婚しましょうかって話をしてるんです⁉︎ ムリじゃない……? ――本当にこの人たち、私のマナーの出来見てた? こんなんで社交界に放り出されたら速攻でラッフィナート家の看板泥まみれにしちゃいますけど⁉︎ え、絶対ムリ。 そんな絶望的な新婚生活の幕開けなんなんてイヤ過ぎる)   


 思考を空回りさせた結果たどり着いたその結論にリアーヌは顔色を悪くする。

 そして恐る恐る顔を上げると、探るように言葉を紡ぎ始めた。


「――卒業は……すべきことだと思いますわ?」


 その瞬間隣に座っていたゼクスの口から「ブハッ」と言う破裂音が聞こえ、チラチラと眺めていたゼクスの家族たちがキョトンと目を丸め、そろって首を右に傾ける様子が見えた。


「あっ……」


(これは――たぶん私が見当違いなことを言いましたね……?)


 さすがに気がついたリアーヌだったが、もはやどうすることも出来ず、再び口元に手を当てて首を傾げると「うふふー?」と、やけくそ気分で微笑み続けた。

 そんなリアーヌにゼクスは再び肩を振わせるが、家族からの「おい説明」という視線を受け、咳払いをしながらその笑いを強引に押し込める。

 そして「あー……」と唸りながら、誰に何から説明するべきなのか……と頭を回転させ――ほんの少しの時間のあとリアーヌに顔を向けた。


「あー……この間の話で、花園で鍵を売ることになっただろ?」


 ゼクスはあえて、今まで通りの砕けたた口調で話しかける。

 リアーヌに過度なご令嬢としての立ち振る舞いを求めると、こんな事故が多発すると学んだからなのかもしれない。


「ぁー……らしいですね?」


 いつものように話しかけられたリアーヌは自然と肩の力を抜き、釣られるようにいつも通りのリラックスした態度でゼクスに答えていた。


「あれって、俺――つまりラッフィナート男爵家とボスハウト家の契約なんだ」

「へぇー」


(……あ、でも婚約者が既に男爵なんだったら、すっ飛ばして実家と契約するのもおかしい……のかな? ――どっちにしろ、動くのはラッフィナート商会だと思うけど)


「だから今度は、ボスハウト家とラッフィナート商会の間でも、そういう仕事上の関係が築ければいいですよね? って話だよ」

「――えっ」


(強いつながりってビジネスにおいてってこと⁉︎ ……言い方が遠回しすぎる……)


 リアーヌはヒクリと頬を引きつらせながら「へぇー……」と相槌を打った。


「……で、どう? 強いつながり、持てそう⁇」


 心の声の声を全て顔に出しているリアーヌにクスリと笑ったゼクスは、そのまま椅子の肘置きに頬杖をつきながら、先ほどリアーヌがどんな勘違いをしてあの答えを導き出したのか、それをからかうように言葉を紡いだ。

 その態度からハッキリとからかわれたことを自覚したリアーヌは少し口を尖らせながら面白くなさそうに答える。


「……両親がいいと言えば、大丈夫なんじゃないですかね?」

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