ショート×ショート 返却NGロマンテント
僕には自慢出来る事がある。それはロマンテントだ。
このロマンテントは素晴らしい。なんと想像した通りの部屋が出来る。見た目は3畳程度のテントだが、広い部屋を願えばそれ以上の広さにもなる。
フリマで売っていて100円で手に入れた。こんな素晴らしいものが安く売っていた事に驚い た。しかも売主には「返却NG」と言われた。
こんな良いもの誰が返すのだろう?
おっと、話が逸れたね。このテントには良い点はあるがもちろん悪い点もある。それは僕みたいに想像力がある人間じゃないと使えない事だ。
何度か試したが、細部までこだわらないといけない。例えば水がある部屋が欲しいと適当に想像すると、部屋中が水浸しの部屋が出来た。僕は水道のある部屋が欲しかったんだ。
こうなると一度、テントに出て想像しなおさないといけない。
これが実に面倒だ。テントは一度出ると全てリセットされる。試しに何も想像しないで入ると中はただの狭いテントだ。
僕は効率化しようと写真とメモを用意して同じものを再現する事にした。
それから金儲けには適さない事が分かった。僕は家具を想像して作り、それを外に売れば金儲けが出来ると思った。しかし、家具は張り付いていて外せない。工具を使って無理矢理剥がして外へ運ぶとドロドロに溶けて消えてしまった。
消耗品類も駄目だった。想像しても出てこなかった。
あくまで便利なテントとして機能するだけでそれ以上の事は出来ない事が分かった。
しかし、こんな便利なテントを自慢したくなる。ある時、悪友の友達をこのテントに招待した。
友達は「すげえー!」と大喜びだった。僕はとことん自慢してやった。いつも悪自慢ばかりで偉そうにしており、学校では一目置かれている。そんな友達から僕は尊敬されている。
そこからパーティーをした未成年ながらお酒を飲む。すると、友達はこう言った。
「なあ、想像でなんでも作れるなら女作れねえのか?」
「どうなんだろう?」 僕は首をかしげた。
「試しにやってみねえ? 理想の女を作ろうぜ?」
僕は面白いと思い、友達と外に出た。そして部屋を想像する。
「積極的な女がいいな。むしろ襲ってきてくれる女性がいい。外見はお任せで」
言われた通りに想像していく。そしてテントの中に入る。
すると、金髪のギャルがそこに座っていた。想像通りに出来ていたが、少し違和感を感じる。なんとなく僕達を見る目が冷たかった。まるで人間と見ていないように……
友達は興奮してギャルを押し倒す。
「お前、センスあるな。俺の理想通りだ」
その言葉に僕は鼻を高くする。友達はギャルに口を近づけようとしたとき、悲鳴をあげる。ギャルに鼻を噛まれた。そして押し倒していた友達が逆に押し倒され、首元を噛まれる。
動脈を噛まれた友達は赤い噴水のように血を出して、しばらくもがいた後に動かなくなった。
僕が呆然としているとギャルは機械的な声で、「貴方の理想を叶えます」と言った。
「友達を襲って欲しいと願ってない」と僕は怒鳴るが、ギャルは無反応だ。そのまま、近くにあった包丁を持って襲い掛かってくる。
死にたくない。僕は本能的に慌てて外に出る。すると、ギャルも外に出てきた。
包丁を構えていたが、ギャルの身体はドロドロ溶けだす。綺麗な顔がぐちゃぐちゃに壊れていく。
ギャルは「何故、理想通りに動いたのに? なんで?」と切ない声をあげながら地面に溶け込んでいった。
僕は慌ててテントの中をみる。そこには何もない3畳程度のテントだった。友達は消えていた。
何がいけなかったのだろう。理想通りとは? 僕は彼女の言葉を考えた。そして思い出した。
「むしろ襲ってきてくれる女性がいい」
そうか、このテントは襲うという意味をそのまま捉えてしまったのだ。なんだよこのテントは。
僕は怒りに震えて壊そうとした。しかし、同時にそんな強い力があるテントを壊すと何が起きるか分からないという恐怖に駆られた。
では、使う? きっと今回のようなことがまた起きるだろう。
僕はこのテントをフリマに売る事にした。
もう2度とあんな目に会いたくない。「返却NG」と書いて売り出した。前の売主も似たようなことがあったんだろうと想像した。
語彙力と表現力の訓練です。
感想頂けると幸いです。
お題
星×テント