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トランジション-nu-ill  作者: むとっち
イルベリ 奉仕者編
12/26

ゲンパツ☆すくらんぶる!

 シェルター内部が除染された事が確認され、石棺を覆っていたシェルターは動かされ、炉心を覆っていた石棺のコンクリートが次々と重機で切り出されていっている。朽ちたコンクリートの塊でも、戦時中ならそれなりに利用価値があるらしい。どうやらチョルノービリに拠点を築く上で必要となる、道路上に設置するバリケードとして転用するようだ。

 その様子を遠巻きに眺めながら、揚げ物を挟んだ総菜パンを頬張る。カツサンドを食べたいと言ったら、チキンキエフとかいう鶏肉でハーブバターを包んで揚げたやつを、黒パンで挟んだものが用意された。本音を言うとトンカツが良かったが、これはこれで美味い。ただ出来れば揚げたてのものを食べたかったか。

 それはここでの仕事が終わったらにするか。

 そんなことを考えながら、もう少しで食べ終わるという時だった。

 凄まじい破裂音と同時に、目の前が一瞬真っ白に染まった。それが立て続けに3度。

 その瞬間は何が起きたのか分からなかったが、少しして地面に落下してきた壊れたドローンを見て、スタングレネードが投下されていたことを理解した。解体工事をしている石棺の方に異常はないようだが、兵士たちが武器を手に慌てた様子で走るのが見えた。

 続けて投下された円筒状の弾からは大量の煙が巻き上がった。催涙ガスか、毒ガスか。

 無駄なことを。

 直後無数の銃声が鳴り響く。自身の体に直撃していた弾丸は体に触れた瞬間にひしゃげて地面に落下した。銃声の音が消え、風でガス弾から出た煙が晴れていく。その煙の向こうに、戦車が砲身をこちらに向けているのが見えた。

 轟音とともに発射された砲弾は体に直撃し、変形し崩れると同時に爆発したが、こちらに特に損傷はない。が、発射した戦車は金属片をまき散らしてはじけ飛び、中の兵士はそれに巻き込まれて絶命したようだった。

 無益な攻撃だ。

 この数分の間に、この無駄な攻撃の為に一体どれだけの人が死んだのか。石棺の前で、まるでこの石棺を作った時のように命が簡単に投げ捨てられている。今も昔も命の重さはまるで変っていないのだ。ここが日本とは全く違う常識の場所だという事を痛感する。

 1分ほど待ってみるが、攻撃は飛んでこない。さすがに諦めたのだろうか。

 周囲を確認し、警備を固めている石棺の方へと向かっていく。


 それにしてもなぜ今更ここを攻撃するのか。

 狙いは俺か?

 相手の攻撃は多種多様で、まるで弱点を探しているかのようにも思えた。

 もっともその全てが無駄だったわけだが。

 ただ、その攻撃が今このタイミングである必要があったのだろうか。ここに拠点を作られたくないのなら、俺を始末したいのならもっと早いタイミングで攻撃した方がよかったはずだ。つまり除染が終わるのを待っていたという事になる。

 という事は……ロシア側の目的は除染が終わったこの土地を除染の成功が発表される直前に奪取し、除染の事実をうやむやにすると同時に綺麗になった土地を頂く事だろう。さらに除染の出来る俺を始末、あわよくば捕虜にしようというわけか。

 無駄だ。

 ここには既に拠点を作るために十分な兵が置かれているし、こっちはどんな攻撃も通らないどころか攻撃した側が致命傷を負う。このタイミングで攻撃できるように戦力を用意していたのは見事だと思うが、それだけだ。

 そう思っていた。

 突如、唸るようなサイレンの音が鳴り響いた。

 兵隊たちが、作業員たちが皆、慌てた様子で解体中の石棺の中へと向かっていく。そして一人が慌てた様子でこっちを向いて大きく手招きをしているのが見えた。

 それを見て、石棺へ向けて走る。ああ、そうか、これは空襲警報だ。

 空襲? こんなところを?

 暗い石棺の中で身を寄せ合い、爆撃機が通りすぎる、あるいは都合よく迎撃されるのを待った。

 こんな朽ちたコンクリートの石棺で爆撃を防げるのだろうか?

 崩れて瓦礫に埋もれてしまうのでは?

 不安に思いながら待ち続ける。しかし手招きされて入ったはいいものの、自分がこんなところに居ても何の意味も無いと気づく。外にでて的にでもなった方がまだ良いのでは。だが出ようと思っても既に部屋の入り口は塞がれ、出られる状況ではない。

 そして何もできないまま、その瞬間が訪れた。

 鳴り響く無数の轟音。瓦礫が飛び、ぶつかり合う金属音。そして爆風で入り口を塞いでいた錆びついた金属の扉がバリケードごと吹き飛ばされた。

 その開いた口から見える、赤に染まった灼熱の世界。

 熱風が部屋の中を吹き荒れ、炎が渦を巻いて部屋の中に侵入し、何もかもを焼き尽くした。鳴り響く轟音は悲鳴を圧し潰し、炎は無力な人々を焼き溶かしていく。

 毎日労いの言葉をくれてたやつも、何が食べたいのかしきりに聞いて色々用意してくれたやつも、長い移動の間つまんない話をしてくれてたやつもみんな、皮膚が焼けただれ、地面に転がり、肉塊になっていった。

 真っ赤な炎に染まっていた視界は次第にうっすらと薄暗くなり、手足の力が抜けていく。逃げようと立ち上がろうとするが、崩れるように体が倒れ、体は焼けた肉の上を転がり、動かなくなった。どんどん視界は暗くなっていき、思考もままならない。爆音も遠くなり、手足の感覚も薄れていく。

 そしてやがて全て闇に包まれてしまった。



 ぼんやりと回復してくる視界の中で見えたのは、銀色の防護服を着た数人。

 俺の頭を掴み、ダクトテープを顔に張りつけ、ぐるぐると巻いてくる。

 抵抗し暴れようとするが、思うように力が入らない。目も鼻も口も完全に塞がれ、手足の感覚は完全になくなり、倒れてしまった。

 そうか……呼吸か。

 自分の体に意外、いや、考えてみれば当然の弱点があったことに今更気づいた。

 おそらく爆撃は大量の燃料気化爆弾を使ったんだろう。建物周辺の酸素を根こそぎ消費し、呼吸を出来なくさせて無力化した。当然爆弾を投下した爆撃機もパイロットも使い捨てだろう。無茶苦茶やりやがる。

 彼らも確証はなかったはずだ。それでもなりふり構わず少ない可能性に賭け、多くの犠牲を出し、そして目的を達したんだ。ちょうどここ、石棺のように。



 次に目が覚めた時は、薄暗いむき出しのコンクリートの部屋の中だった。

 体はミノムシどころか雪だるまのように太い鎖でぐるぐるに縛られていた。顔は分厚いゴム状のベルトで硬く固定され、わずかに開いた鼻の穴からほんの少しの呼吸しかできない。視界の中に人はいない。体を動かそうとするが力は十分に入らず、びくともしなかった。

 ここはどこなのか。

 あれからいったいどれだけの時間が過ぎてしまったのか。

 小さな穴からしっかりと呼吸をし、時間をかけて気持ちを整える。落ち着いて少しでも考えないと。

 このままいくとどうなるだろうか。

 ロシアはチョルノービリを完全に占拠し、拠点を構築。ウクライナ側はロシアがが使ったのと同じ方法で奪還しにくるだろうか。いや、それだけの戦力を用意し、犠牲を強いることはおそらくできない。逆に敵側に反射能力があるというリスクから積極的な攻勢に出にくくなるだろう。ロシア側は攻勢を強め、また除染能力を手に入れたことで東側諸国は結束を強める。

 そして泥沼の世界大戦に突入するだろう。

 それだけは絶対に避けなければならない。

 一応、GPS発信機を体の中に隠しているから居場所はある程度は把握できているはずだ。隠し場所はまぁ……女性の体ならではのところ。一緒に爆弾の一つでも仕込んでおけば、こういう時に役に立ったかもしれないがそういうのはない。

 この状況を打開できる何かがあるとすれば。

 おそらく相手はなんらかの形で交渉を持ち掛けてくるだろう。もしそのつもりがないのならずっと目も口も鼻も完全に塞いでおけばいい。わかりやすい買収でもしてくるか。あるいは。


 ガチャリと、扉の開く音。錆びついた金属音。

 部屋に入ってきたのは、緑色のスーツのような軍服を着た男性と、銃で武装した迷彩服を着た兵士が二人。ロシア兵だった。


「こんにちはイルベリ・ベレア君。私の言っていることが理解できるなら目を右に向けたまえ」


 癖のない英語だった。

 その声には少し緊張のようなこわばりを感じた。

 目を右に向けることで、応える。


「よろしい。君は何もしなくても戦闘に参加できる能力を常に有しているため、ジュネーブ条約で保護される対象とはならないものとしてこのように拘束している事を理解しろ。もっとはっきり言うと、人かどうかわからないものに人道的な対応など望めないという事だ。言っていることが理解できるか?」


 目を右に向ける。


「物分かりが良いようで助かる。まず、君が我々に協力的であるなら、身の安全と自由と豊かな生活が約束された十分な厚遇を用意できるが、どうかね? 協力してくれるか?」


 目を左に向けた。

 西とか東とか、政治的な思想にはあまり興味がない。ただ、簡単に他者の命を使い捨てに出来る連中に協力しようという気などさらさらなかった。


「そうか、実に……残念だ」


 男は心底残念そうに呟くと、懐からスマートフォンを取り出した。

 少し操作した後、その画面を見せた。


「先ほどこの二名を拘束した。君とは何かしら関係がある二人なのだろう? 我々はいつでもこの二人を殺傷出来る状態にある。だが君が協力的でありさえすれば、ある程度の自由と安全は保障しよう。さて、どうかね? 協力してくれるか?」


 その画面には、銀林リアと、おそらくはこにいちゃんと思われるショートボブの女性が映っていた。

 俺は、目を閉じ、思案した後、目を右に向けた。

ちょっとでもえっちな展開だとやるきでる

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