創作詩22: 神隠し
本投稿では、創作詩 ”神隠し” を発表します。
遠い昔の子供時代に残した後悔あるいは罪悪感のような念が、大人になってから突如として実生活に立ち現れるなんてことはありませんか?
それなりに頑張って、仕事を持ち、結婚をして、子供ができ、やっと到達した幸せの絶頂期にふと感じる不安と孤独は子供のころの体験に起因していることがあります。
俺たちが小学生だったころ、この海浜公園でよく遊んだものだ。
堤防がすごく綺麗になったね、
でもいろいろあったよね、そういえば、
同級生に英子っていう女の子、いたよな?
ここで遊んでいたときに拐われちゃった子だよ。
憶えてる? ナッツ嬢、神隠しの!
あの子は成績トップで、
飛び切りの美人だったから、
みんなから楊貴妃と呼ばれていたよな、
でも、あいつは誰とも遊ぼうとしなかった。
いつも一人ぼっちだったよね。
家が貿易商の大金持ちでさ、
巾着袋に入ったピーナッツを持って、
この公園にもよく来てたよね、ひとりで、
いつも鉄棒の背後にあるベンチにポツンと座って、
ピーナッツを口いっぱいに頬張っていた。
「ちょっとちょうだい」とお願いしても、
俺たちには決して恵んでくれなかったよね、
なんの禍か、あの子、突如いなくなっちゃった。
その夜、大騒ぎになったよね、警察も来たりして、
でも、見つからなかった。
あれから30年、
なんの因果か、応報か?
うちの娘、あの子と性格がそっくりなんだ。
あの夏の夕暮れ、最後の日、公園からの帰り際、
あの子に声をかけていれば・・・
釣竿の針にイワシを吊るしたまま、キャッキャと少年達が行き過ぎる。
おわり