女子社員のランチ会話は、思ってもみない方向に話が飛ぶ件。
菊池祭り参加作品
今日の俺、社員食堂という名の社員ダイニングで、お弁当を食す昼休み。
最近中学生になった娘が、デコ弁を作ると言い出し、自分のは映え弁当になるまでやらないので、パパのお弁当で練習すると、娘作の弁当を食す日々。
ポカチュウを作ったつもりらしいが、どうみてもエイリアン。
そして量が明らかに足りないので、かみさんが追加のお弁当を作ってくれる。うめぇ。
「イトちゃん、イトちゃん! 相談に乗って欲しい!」
「どうしたの?」
この声は宮原と伊藤。こいつらと席が近くなる時は、なんかしら変な事を聞く時が多い。
ってか、相談はどっかのカフェでした方がよくないか?
宮原は社内に旦那がいるから、わりと筒抜けるぞ。
「旦那に、どうしたら『太ったね』って指摘できるかな?」
あっっっぶねぇ! 飲んでいたらお茶吹くところだった。 水筒の蓋に手をかけたところだったからセーフだ。
「え、ストレートに言えばいいんじゃないの?」
「認めないんだよ……」
「目に見える変化……起きてるのよね?」
「うん。お腹周りが……ね」
宮原、君の旦那である人事部の宮原は、もうそんなお年かつ、そこらへんが少しデリケート問題になる時期だ。
腹と髪は言ってやるな……。
「風呂上がりにパンイチでうろつくから、イヤでも目立つんだけどさ……自分では、まだ前が出てないから、セーフだと思ってるんだ……」
宮原の声がめんどくさそうだ。
「あ、わかった! ぱんつのゴムの上に、サイドのお肉がぽよーん!」
「そ・れ!! 前が出てない上に、顔がほっそりしてるから、まだまだ大丈夫って思ってるのよ!」
え、腹って前から出てこないの? 俺、前がぽこーんと出てきたよ……。娘が小さい頃、たぬきたぬきーって言われて、腹をトランポリンにされて、体の痛さと心の痛さで泣くかと思ったよ……。
あのまま開き直らず、ダイエット頑張ったさ……。
「……まさか、イトちゃんとこの旦那さんも……?」
「サイドぽよーん。言っても、上から見た自分の正面のお腹がスッキリしているのもあって、信じてくれないのよ」
まぁ、信じたくないのはわかるけど……いちばん身近にいる奥さんの言葉は受け止めろよ、どんなにショックでも……と、思ってしまう。
「ぱんつのゴムの上から出てるお肉を、どうしても、わかって欲しいって思って相談したんだけど……」
「ごめんね、うちも同じだわ」
伊藤も同じ悩みのようだな。
娘よ……卵焼きに砂糖入れるのはいいが、どんだけ入れたんだ……あますぎぃぃ……。
「ふははは、その悩み、このワタクシ、菊池がビシッとアドバイスするでありんすよ!」
相変わらずキャラがブレブレなやつ来たよ……。先月はござるキャラだったのに。
しかし、菊池は弊社情報システム部になくてはならないやつだ……。
「お、きくりん。おつかれー」
「お疲れ様」
「お疲れ様です、宮原パイセン、伊藤女史!」
この呼びわけ方も不明だが……まぁ、悩みを解決できるなら、いいことだ。
「解決する方法、ズバリ、歳の近い同性からの指摘を受けることでありんす!!」
たぶん、菊池はビシッと指差ししてドヤ顔してるだろうな……。
「そんなん、うまい具合に指摘できる人なんていないじゃない……」
伊藤、声に落胆の色をドバドバ乗せるなよ……。
「だーよねー」
宮原、期待して損した、みたいな言い方はやめなさい。
「何言ってるでありんすか、お互いの旦那さん同士をぶつけるでありんす!!」
「一緒に飲みに行く事あっても、風呂まではいかないわよ!」
そりゃそうだ。
腹に気づいていないなら、ジムに行くとかしないだろうし、会社関係の人間とはサウナとかいかないもんなぁ。
「そこで、先輩方も一緒に行くんですよ……ありんす!」
「語尾ブレブレ」
伊藤、菊池は頑張ってるんだ、言ってやるな……。
「ほら、女子風呂には岩盤浴コーナーも!」
「なんで、そんなビラ持ち歩いてるのよ……」
「なになに……、スーパー銭湯きくち、リニューアルオープン」
宮原、読み上げありがとう。……ん? スーパー銭湯きくちって、うちの近所のアレか?!
「実家でありんす」
「……なに営業してんのよ」
「リニューアル掛けて、客来なかったら、実家は借金まみれになるでありんす、プチ必死にもなるでありんすよ!」
「プチなんだ……?」
改修工事って金掛かるもんな……。そして、宮原に同意。プチ必死ってなんか薄っぴらいな……。
「ガツガツ営業掛けると、煙たがられるしドン引かれるのくらい、わかっていま……いるでありんす。はい、コレどうぞ」
「なに? この封筒」
「半額券でありんす」
うぉ、それ俺が欲しい!!
菊池ー、我が家分くださいでありんす!!
「「え、いいの?!」」
「もちろんでありんす。先輩がたには、新人の頃お世話になりまくりでしたし、今もお世話になってるでありんす」
菊池ぃ、俺にもおぉぉ……。
「半額券なら、旦那も行くって言いそうよね」
「あ、やっぱイトちゃんとこも、そんな感じ?」
「うん、初めて体験するのに、定価で払ってガッカリした時のダメージあったら嫌だからって、中々チャレンジしないわ」
「うちもー」
スーパー銭湯に馴染みがないと、値段とかもよくわからず、行きづらいだろうしな……。
ってか、伊藤と宮原の旦那、ほんとリンクし過ぎ……。
「そんなわけで、スーパー銭湯きくちが良かったら、つぶやいったーやオンスタでシェアして欲しいでありんす! お風呂場や更衣室は撮影禁止ですけど、食堂やプチゲーセンはオッケーでありんすから!」
「旦那が行くって言うかはわかんないけど、言ってみるね。半額券ありがたく頂戴するわ」
「うちも聞いてみるー。ありがとね、きくりん」
くぅ……半額券……羨ましい。
しかし、これで伊藤と宮原の悩み……? が、解決するといいな。
――半月後。
今日の俺、ようやく娘のデコ弁から解放されて、カミさんの手作り弁当をフルで食べられる。
うめぇ!! やっぱり愛妻弁当が1番だ、午後の仕事もコレで頑張れる!
伊藤の旦那である取引先の伊藤さんから、LINNEメッセージが入る。
『今月の飲み会なんですけど、ちょっと腹がアレしてきていて、飲みの代わりにジムでひと汗とかどうです? その後、軽いメシって感じで。宮ちーも同じジム行ってて、筋トレ仲間してるんですよ』
あの会話聞いてなければ、いきなりどうした。って思うけど、ジムにまで行くとは思わなかった……。
お年頃と開き直って、ぽよオジコースには行かなかったようだな。
とりあえずカミさんからオッケーもらったら、と返信だ。久々に運動したいし。
「今週末、旦那たちジムからの夕飯コースだから、うちらは岩盤浴行っちゃう?」
「いいね、いいね!」
伊藤と宮原の声も明るいな。
成功してよかったな。
「先輩、岩盤浴なら、湯の里きくちがオススメでありんす!!」
「わっ、また情報システム部からの営業きたよ!」
「湯の里きくちって、どこにあんのよ……」
え、菊池一族は銭湯特化してんの?! ほんと伊藤に同意。どこだよ、それ。
「京玉線の竹塚駅でありんす!」
「週末のプチお出かけになら、許容範囲だわ……」
「隣の駅から、イトちゃんとあたし、逆方向ながらスムーズに帰れるとこだね」
「そうね、ここ候補に入れましょ!」
「え、候補じゃなく決定してほしいでありんすぅぅ!」
俺には逆方向だけど、会社の最寄駅から、乗り換えなしの1本で行けるじゃねぇか……!
ま、何はともあれ楽しそうで良かった。
菊池のありんすキャラは、いつまで続くんだろう……。