座学に実技に
「別に舐めてたわけじゃないけど、ハイスペックすぎる」
午前中の座学を終えて思わず机に突っ伏す。
シア様の高難易度な教育に頭がパンクしそうだったのだ。
あんな超上級者向けの座学になるとは思わず、途中からなにを言われているのか全くわからなくなっていた。
魔法に関する知識は普通の人並みだったし、学校での成績も中の上くらいで、最低限の知識と魔法を扱える程度だった。
これは間違いなく復習と予習が必要だ。
このような状態でテスト受けても五点も取れるかどうか。もちろん百点中のだ。
「まだ全然序の口だよ。これからもっと細かい内容になっていくから、復習しっかりね」
「はい……」
「昼食もちゃんと食べなよ。午後の実技持たないよ」
午後の実技もこんな感じなのだろうか。地獄の一年という未来しか見えない。
不安しかない気持ちでトボトボと食堂へと向かったのだった。
「よ、よろしくお願いします!」
午後。指定された魔法用の特別施設に向かうと既にフラナ様がいらっしゃった。
慌てて中に入り、お辞儀をすると頭上から優しい笑い声が聞こえた。
「ふふっ。そんなに堅苦しくしなくて大丈夫だよ。シアの奴暴走してなかった?」
「暴走というか、超上級者向けのお話で不安になる未来しか思い描けなくなってました」
「やっぱりね。魔法に関することとなると、なにを言っているのかわからなくなるから」
魔法全般の知識、実力、経験がある一定の数値に達しかつ、国王に認められた者しかなることのできない王宮魔術師。
シア様の王宮魔術師の名は伊達じゃないということだろう。
「大丈夫。渡された本をしっかりと読んでいれば段々と意味がわかるようになってくるはずだから」
わからないことは遠慮なく聞いてねと付け足し、同じ色の瞳がニコリと微笑む。
奇跡の子の先輩というだけで、不思議と安堵した。
「じゃあまずは魔力コントロールから入っていくね」
そういうと懐から蝋燭を取り出し、五メートル先の台に設置し始める。
一体なにをするんだろうと思って見ていると蝋燭に火をつけ、私の元へと戻ってきた。
「これから君にはあの蝋燭の火を消してもらいます。ただ消してもらうんじゃない。フッと息を吹きかけるように静かに消してもらいます」
「……わかりました」
「じゃあまずは試しに一度やってみようか」
息を吹きかけるかのように静かに。それを意識して風魔法を発動させる。
『風よ、灯火を静寂に導け』
人差し指をそっと蝋燭に向けたその瞬間。
後方から激しく髪を揺らす風が吹き抜けると、火は消えたものの蝋燭台自体も倒れてしまった。
思っていた以上に力が出てしまい、慌てて倒れた蝋燭台に近づこうとした。
「倒れたら僕が直そう。君は風魔法のコントロールだけを意識して」
「は、はい」
それから二、三度繰り返しやってみたものの、どれも似たような結果となった。
「思っていたより難しいです」
「すぐには発動する魔力量を把握しきれないだろうからね。これから時間をかけて身につけていこう。いざという時に周りや自分自身を破壊することがないようにね」
魔法は扱いを間違えれば力が暴走し、周りの人間や自分自身を破壊することがある。そのいい例がまさに地面を抉り取ったあの出来事だ。
「属性は違うけど、見本を見せるよ」
そう言うとフラナ様は蝋燭の火を消し、私の隣に並んだ。
『炎よ、灯火を宿せ』
同じように人差し指を蝋燭に向けたその瞬間、まるでそこに導かれたかのように一直線に魔法は向かい、静かに蝋燭に火を灯した。
繊細かつ緻密な魔法に思わず感嘆の息が漏れた。
それから距離を短くして風魔法のコントロールに励んだ。
根気強くフラナ様が教えてくださったが、その日は良い成果を得られなかった。