役割
「まず奇跡の子の役割というのは、このヴィーレを守るというものだ」
カイン様は真剣な面立ちで少しずつ奇跡の子の役割を話してくれた。
三つの国と隣接するヴィーレというこの国は、比較的他国とも仲良くやっている方で、小さなトラブルはあるものの数百年平和が維持されていた。
だが十八年前、北の領地で他国とのトラブルがあった。
危うく戦争へと発展しかけたところを、奇跡の子として少しずつ力を付けていたフラナ様と魔術師のシア様の活躍によってその場を収めた。
当時まだ五つだったフラナ様。それでも奇跡の子の力を発揮し国を守った。
その後、国の存続、発展のために王宮特区へ居住地を移し、魔法や国に関する教育を受けてきたようだ。
元々奇跡の子は国のためにその膨大な魔力を使う使命があるようだが、平和が維持されていたここ数百年はそれも特に発揮されることがなかった。
十八年前の出来事が教訓となり、こうしてフラナ様は国の外側を守る役割を担っている。
「殿下は私にも同じような役割を求める、ということでしょうか」
国を守るだなんて本当にすごい。それも当時五歳で。
それが奇跡の子の役割というのであれば、私もフラナ様と同じように国を守る役割を担う必要がある。
まだ自分が奇跡の子という実感がないし、使った魔法も散々だったため、すぐには役割を全うしますと言い切れないのだが。
それでももし求められるようであれば、アイールの人間としてこれほど光栄なことはない。
「父上や兄上はなんというかわからないが、国としては守りをより磐石なものにしたい」
それであれば私の求められる役割はただ一つ。
フラナ様と同じように教育を受け、力の使い方、国の知識を学び、守ることだ。
「でも私個人としては君にそれを求めるつもりはない」
キッパリとそう言ったカイン様はチラリとフラナ様を見る。
フラナ様がなにも言わずに一度ゆっくりと頷くと、彼の意思を汲み取ったのか再び私の方に向き合い、言葉を続ける。
「後天的に金の瞳になる事例は今回が初めてだ。君には他の役割があるのではないかと私は考える」
「他の役割……」
「とはいえ、魔力測定で奇跡の子と判断された以上、君には王宮で教育を受けてもらう必要がある」
一国の軍事力にも匹敵すると言われる力があるのだ。
私自身、どんな形でも力をうまく使いこなせるようにはしたいと思っている。
「国のためにその力で守れと私は言わない。君の役割はなにか。なにが最善か選び、行動してくれればそれでいい」
そして、以上。と言わんばかりにカイン様は満面の笑みを見せた。
「えっと。その力を国王や我々に捧げてくれ、とか」
「言わないよ」
「王宮特区を守ることに力を尽くしてくれ、とか……」
「王宮特区だけ守っても仕方ないしね」
「悪事は絶対に許さない、とか……!」
「犯罪でなければ私は止めないよ」
力を捧げるわけでもなく、王宮特区を守るわけでもなく、悪事を禁止するわけでもなく。
他の役割とは一体なんのことを言っているのだろうか。
なにか意図があって私にお言葉をくれたのだろうけど、今のカイン様の言葉だけでは全くわからなかった。
「殿下~これ、僕への牽制だよね?」
「それもあるかな?」
「はぁ……ちゃんと教育するって。王族があーだこーだ言っても王宮魔術師はあくまで中立位置だからね?」
「ふふっ。それは良かった」
「そんなに心配なら定期的に見に来たらいいよ。ほーんとその笑顔で有無を言わせない圧を与えるのやめてくれる?」
目の前で繰り広げられる会話についていけていないが、どうやらカイン様は私に話をしながらシア様を牽制していたようだ。
何を牽制していたのかは私の理解の範囲外なのだろうが、やっぱりシア様の立ち位置がよくわからない。
ひとまずは自分で考えて行動し私だけの役割を見つけ出せと言うことなのだと解釈し、心の中に留めておいた。
複雑な表情でフラナ様が私を見ているとは知らずに。