謁見
王座の間の入口の扉にはこれでもかというくらいのゴテゴテに凝った作りとなっていた。
光属性のためか、やたらと金の装飾が多い。
そして扉の中央にはゾネリヒ家の家紋の彫られており、ここが特別な部屋だということを瞬時に理解する。
カイン様にお会いした時もこんな感じだったなと思い、あの時以上に緊張しているのを自分自身の震える手で察する。
「失礼致します。ウォールです」
「入りたまえ」
私はウォール様に続いて、その特別な部屋へと足を踏み入れる。
ただ部屋に入るだけなのに特別な部屋だということを意識すると足がすくむ思いだった。
部屋の中は天井が高く、ステンドグラスから入る日の光が行く道を導いているかのようだった。
玉座までは赤い絨毯が敷かれており、そしてその先に数段上豪奢な作りの椅子。
財という財を尽くしたその作りは素晴らしいの一言に尽きる。
そこに座っている王様を確認する前に先頭を歩いていたウォール様が膝をついて頭を垂れる。隣にいるシア様も同じ動作をしたので、私もそれに習えで片膝を床につけ頭を下げた。
すると暫くして頭上から威厳のある低い声が響いた。
「全員、面を上げよ」
恐る恐る顔を上げると、堂々たる態度や出で立ちで玉座に腰掛ける現国王ルイ・ゾネリヒの姿があった。王子殿下たちより年数を重ねた金色の髪にまさに国王の威厳があった。
「奇跡の子。名は」
「……はい。四代公爵家、風属性、ラーラ・アイールと申します」
「アイールの子か」
じっと上から見つめてくる王様と目を合わせると視線を逸らしてはいけない気がしてそのままじっと見つめ返す。
「そなたに告げることは一つ。我が光が統治するこの国を守れ。それが責務だ」
異論は認めないと深海のような青い瞳が鋭く光る。
私は「はい」以外の言葉を発することが出来なかった。
――
――――
それからシア様が私の教育に関して報告を行った。
概ね順調で、近々いくつか任務をさせる予定であると、そう聞こえた気がした。
気がした、と曖昧なのは、シア様が報告している間、国王の鋭い眼光に目をそらすことが出来ず、私はひたすら彼を見ることしかできなかった。
おかげでシア様やウォール様の報告はほとんど耳に入ってきていない。
国王は私をじっと見つめ、何かよからぬ行動をすればすぐさま打って出るぞ、と言われているようで動けなかった。
そうしてあっという間に謁見は終わった。
「うぁ……っ」
玉座の間を出て扉が閉まった瞬間、緊張の糸が切れたかのように私はその場にへたりこんでしまった。
「大丈夫ですか?」
「す、すみません……なんか、すごく、力が抜けて」
一緒にいたウォール様がすかさずそばに駆け寄ってきた。
鋭い眼光、出で立ちや言動。
どれもとってもこの国の王である威厳に私は圧倒されていた。
「まああのおっちゃんの目はやたらと冷たいからね〜」
「不敬ですよそれ」
やたら冷たい所では無い。
蛇に睨まれた蛙の如く、私は動けなかったのだ。
ウォール様に支えられてどうにか屋敷を出る。
馬車へ乗り込む前に「あ、そうだ」とシア様が声を発する。
「明日公務で僕とエミルはいないからお休みね」
「……今言いますか」
「ごめんごめん。さっき思い出して」
ペロッと舌を出して謝りながら同じ馬車に乗り込んでくるシア様。そんな彼を見ていると不思議と肩の力が抜けていったのだった。