不安と緊張のお茶会 その⑤
ウォール様が部屋入ってくると、あからさまにナイン様の顔から表情が消えた。一瞬にしてなにものも寄せつけないオーラを放ち、冷ややかで鋭い目つきでウォール様を睨みつける。その姿に思わずゴクリと息を飲んだ。
「なに用だ、ウォール」
ワントーン下がった低い声が部屋に響く。
今や先ほどまでの柔らかい口調のナイン様はどこにもいない。性格が正反対の双子だと言われても納得できそうなほどの変わりようだった。
そんな様子を他のみんなは落ち着いた様子で見ており、ナイン様の態度が変わって戸惑っているのは私だけのようだった。
そんなナイン様を前にしても堂々と振る舞うウォール様は、やがて私の姿をとらえるとジッとこちらを見つめてくる。
「ラーラ・アイール様。国王より言伝を預かっております。ただちに玉座の間へ、と」
「…………え?」
思わず乾いた声が漏れ出た。私に言伝があること自体に驚きだが、聞き間違えでなければウォール様は今『玉座の間』と言ったはずだ。しかもただちに。
張り詰める空気の中、ナイン様は額に手を当て、はあと深いため息をついた。
「唐突だな。些か急すぎるのでは?」
「国王はご多忙な身。急な謁見となることをご容赦ください」
「……では私も行こう」
「いいえ、同行はシア様のみ許可されております」
「……っ。一人しか同行を認めないとは父上は心が狭いのだな」
親子とはいえ、国王に対する不敬とも取られかねない言葉に汗が背中を伝う。
ナイン様もウォール様も互いを睨みつけ、一触即発の状態となっていた。
「僕が行けばいいの? いいよ、行こうか」
唯一同行を認められたシア様は、そんな空気を壊すかのように軽い調子で席を立った。
「ラーラ嬢もボサっとしてないでいくよ」
「あ、は、はい!」
シア様のおかげで張り詰めていた空気が少しだけ和らぐ。そして私は急いで席を立ち、彼に着いていこうとして立ち止まる。
くるりと殿下たちの方に向き直って深く深くお辞儀をした。
「今日はお茶会にお招きいただき誠にありがとうございました」
多忙の中、私の為に時間を作ってくれたのだ。国王の命令とはいえ途中で抜けてしまうことに申し訳ない気持ちがあった。
でもそれと同時に誘ってもらえたことの嬉しさ、お話できた喜びがあった。
私がお礼を言うとミーシェは立ち上がり、そばまで駆け寄ってくる。
その華奢な両手で私の手を握りしめると花が綻ぶように笑った。
「ラーラ、またご一緒しましょう」
じんわりと染みていくように心が温かくなった。
他の殿下たちも「こちらこそありがとう」「また誘わせて」「楽しかった」と各々口にしてくれて、更に心が温かくなった。
そんな中。
「さあ、いっておいで」
そう言って柔らかな微笑みを向けながらフラナ様が送り出してくれる。
「はい、いってきます」
私もそれに応えるかのようにそう言って部屋を出たのだった。