不安と緊張のお茶会 その②
「ラーラ嬢? 大丈夫かい?」
「……はっ!」
意識をどこかに飛ばしていた私はカイン様の呼びかけで、かろうじて戻ってくることができた。
恐るべし『才の貴公子』
もういっそのこと、美の貴公子も名乗ってもいいと思う。
ナイン様を拝みたい気持ちをグッと堪えて心を落ち着かせる。
「私はすでに挨拶を済ませているけれど、改めて名乗らせていただこうかな」
中央に立っていたカイン様はニコリと微笑むと、パチンと指を鳴らした。
その瞬間、一頭の光で出来た七色の蝶が私の周りをがキラキラと飛び回り始めた。
「わあ……」
幻想的なその光景に目を奪われる。なんとなく触れてみたくて手を伸ばせば、七色の蝶は導かれるかのように指先に止まる。だが再度カイン様が指を鳴らせばスッと消えてしまった。
「カイン・ゾネリヒ。よろしくね、ラーラ嬢」
その姿やまさに『光の貴公子』
今や王族しか受け継がれていないと言われている光魔法。
蝶を型取り私を喜ばせると同時に、難なく操るレベルの高さ。
それをナチュラルにやってのけるものだからすごい。それも挨拶のついでのように。
「なんてキザな」
「ふふっ。お気に召して頂けたかな」
「こんなの印象に残るじゃん。僕もラーラ嬢への挨拶に魔法でも使うんだったなー」
カインだけずるいよ! と口を尖らせながら文句を言うシア様が少し可愛い。
大丈夫ですよ、シア様。あなたもバッチリと印象に残る出会いでしたから。
「時間をとらせてしまったね。レイン。次は君の番だよ」
そう言われた一番左の彼は、カイン様の言葉にこくりと頷き一歩前へと出る。
透き通るような柔らかなライトブラウンの髪、瞳の色はカイン様と同じマリンブルー。
そしてなによりも印象的なのは服の上からでもわかる程よく引き締まったその体つき。
才の貴公子と名高いナイン様に、光の貴公子と輝くカイン様。
そしてレイン様は寡黙な『剣の貴公子』として有名だった。
剣で戦うその姿はまるで舞っているかのように美しく滑らかで、そして隙がない、と。
聞いた話ではあるが一度見てみたい。
「レインだ。よろしく」
シンプルかつ簡素的な挨拶というのに、背筋がピンと伸び堂々としたその佇まいは、王子というよりは騎士のようなオーラを感じる。美しい。
王宮特区に来るまでどなたも間近でお姿を拝見することは無かったが、こうしてみると三者三様の殿下たち。そろそろ目が爆発しそうだ。
「その気持ち、わかりますわよ。ラーラ」
「……え?」
「そうなんです。お兄様たちは最っ高に美しいのです! ぜひこのあたりのお話も後ほどさせていただけるかしら?」
「わ、わかりました?」
私の手を取り目を輝かせるミーシェだが、いやあなたもそっち側の人間だからね? と心の中でツッコミを入れる。
ドレスにちりばめられた宝石のせいで少しぼやけて見えるが、三人の王子に負けず劣らずミーシェも美しい。
お人形のように目がクリっとしており、その碧眼が宝石のように愛らしいし、鈴を転がしたかのような声はとても可愛らしく、同性である私でさえドキリとさせてしまうほど。罪な女性だ。
「さて、そろそろいいかな?」
見かねたナイン様が手を叩くと興奮気味だったミーシェは口を閉ざす。
「紅茶にケーキに色々用意させてもらいましたし、そろそろお茶会を始めましょう」
そして殿下たちとの異例のお茶会が本格的に始まった。