不安と緊張のお茶会 その①
「ラーラとお呼びしても? 私のことはどうぞミーシェと」
「は、はい。ミーシェ様」
「ミーシェ!」
「ミ、ミーシェ……」
あとで不敬だとか言って空から大量の槍とか降ってこないよね。
手足縛られて牢に閉じ込められたりしないよね。
そんな不安と緊張のお茶会が始まる。
思えば二日前、私の元に届いた一通の手紙が全ての始まりだった。
◇◇◇
「二日後のお茶会にぜひ参加していただきたく……」
上から下まで何度読み返してもお茶会へのお誘いだった。
しかも目を疑ったのは三行目のとある文章。
「お兄様方もご一緒されたいと……おっしゃって、みんなで楽しみに、待っており、ます」
両手で顔を覆ってテーブルに突っ伏した。
ゴンっと勢いよくおでこが当たったが痛いとか考えていられ……いや、結構痛かった。
ちょうどテーブルには食後の紅茶しか置いておらず、スペースは充分にあった。
食べ物や飲み物を無駄にすることがなかったからよしとしよう。
いや、全然よしじゃない。
もう何度も読み返したが、もう一度見よう。
そこには確かにお兄様方、みんなで楽しみにと書いてあった。
みんなとはそういうことだろう。
第一王子ナイン様、第二王子カイン様、第三王子レイン様、そして第一王女ミーシェ様。
そこに飛び込む私。頭を抱えたい。
ミーシェ様からの直々のお誘いを断れるわけもなく、手紙を持ってきてくれた婦人にその場で了承の返事をした。
◇◇◇
「さあ、こちらですわ」
あっという間に当日となり、着いて早々ミーシェ様がお出迎えをしてくださった。
そして挨拶もそこそこに名前呼びを半強制され、先ほどから冷や汗が止まらない。
でも唯一の救いはーー。
「ミーシェ。今日のケーキはなに?」
「うふふ、シアの大好きなシフォンケーキですわ」
「最高。ありがとう。ワンホールは僕のものなので」
この場にシア様がいることだ。
王宮特区に来てから毎日顔を合わせている彼がいるのは心強い。
それにーー。
「シアは少し遠慮というものを勉強してきた方がいいと思う」
「好きなものは惜しみなく楽しむ。これ、僕のモットーだから」
「はあ。せめてラーラの分は残しておいて」
「仕方ないな。一欠片だけだぞ?」
「それならもう全部食ってくれ」
今回のお茶会にはフラナ様も参加されるため、さらに心強かった。
元々は私だけのお誘いだったが手紙を見た瞬間、緊張で吐きそう……と呟いたことで、うまく手配してくれたようだ。
フラナ様の優しさに盛大な拍手と感謝状を送りたい。
殿下たちや国王へのご挨拶は中々タイミングが合わないということで先延ばしにされていた。
王族ともなれば毎日忙しないのだろう。
そんな中、初日に来てくれたカイン様には本当に感謝だ。
一人だけでもすでに挨拶を済ませているのと、全員が初対面とでは心の持ちようが大きく変わる。
そういう意味でカイン様にも感謝状を送りたい。
それにしても、見れば見るほどドレスが重そう。
ミーシェさ……ミーシェが宝石いっぱいの派手派手ドレスで出迎えてくれた時は自分の目を疑った。世界が違う。来る場所を間違えたかもしれないと。
これから会う人たちは全員、宝石を身に纏う派手派手民族なのかもしれない。
たとえば宝石の指輪を全部の指にしているとか。
そうなったらどこに目を向けていいのかわからない。
「歩く宝石はミーシェだけだから」
察したシア様そう言ってくれなければ王族はそういうものだと思ったかもしれない。
いや、よく考えればカイン様は全然そんなことなかった。
緊張でうまく思考が回っていない。
そんなミーシェに案内されながら豪華な廊下を突き進み、豪華な扉の前へと辿り着く。
使用人たちが扉を開けば、美しく輝く高貴な人達がそこにはいた。
ラーラ・アイールだと名乗ってお辞儀をすれば、私から向かって一番右側の長身の殿下が一歩前に出て、丁寧にお辞儀をする。
その所作はとても美しく、思わず目を奪われてしまうほどだった。
金の長髪をなびかせ、どこまでも続く空のように透き通ったスカイブルーの瞳が私をとらえる。
「ナイン・ゾネリヒです。やっとお会い出来ましたね、アイールのお嬢さん」
ナイン様は目を細め、唇に孤を描く。
窓から差し込む陽の光がナインという名の美しい神を照らしているかのようだ。
そんな神々しいナイン様を前に、私の頭は完全に真っ白になった。