苦手なものも
午前中シア様に教えてもらったのだが、この施設は王宮特区内の魔法学校の離れの一部を使っているらしい。
基本的には魔術師と騎士、そして奇跡の子専用で座学をできるような執務室もあれば、魔法を扱える対魔法施設、それに騎士が訓練できるような屋外施設があるようだ。
もちろん食事もできる食堂もあり、こうして来ているのだが。
なんというか、注目されている気がする。
昼食の時は人の多さに少し入りづらくて利用しなかったが、夕食は少し早い時間だったためパラパラと少ない。
でもその少ない人達がヒソヒソと話しながらこっちを見ている。
「あれが二人目?」
「どうやらアイール家のご令嬢らしいよ」
ここに来るまでもすれ違う人々にじっと見られることが多々あった。最初はフラナ様を見ているものだと思っていたが、どうやら注目の的は私らしい。
新参者の私が珍しいのだろうが、本当にそんなに見ないでほしい。
ここに来て日が浅すぎるのと、人に注目されるという慣れない状況に、目の前に出された前菜への手が止まってばかりだった。
「ラーラは苦手な食べ物はある?」
そして前菜にスープにと食し終えた後、メインディシュを待つ間フラナ様に尋ねられた。
「え? 苦手なものですか?」
「うん、前菜とスープを食べるペースがゆっくりだったから、もしかして苦手なものが入っていたのかなと思ってね」
「いいえ! どれもすごく美味しかったです」
単に緊張とか諸々のせいで、ペースダウンしてただけなんですと心の中で言い訳をした。
前菜もスープも本当にとても美味しかった。
おしゃれに盛り付けられたシンプルなトマトにチーズ。メインディッシュへの助走として意外とさっぱりな味わいに、とても食べやすく花丸満点な前菜だった。
スープもこれまたシンプルなポタージュ。舌触りが滑らかで程よい塩加減がたまらなかった。
「その……ここに来てまだ二日目なので、恥ずかしながら色々といっぱいでして」
「そうだよね。無理はせず、苦手なものがあったらすぐ言って」
その言葉に私は首を横に振る。
「もし仮に苦手なものがあったとしても、料理として出されたらいただきます。作ってくれるだけ感謝ですし、食べ続けていたら好きになるかもしれないので」
私の回答に一瞬きょとんとした顔をすると、すぐに破顔した。
「ははっ。君は優しいんだね」
「そんなことは」
「そっか、食べ続けていたら好きにね」
「もしかしてフラナ様は何か苦手な食べ物があったとか?」
私がそう尋ねると、周りをチラリと確認してこそっと教えてくれた。
「実はトマトが苦手でね」
「トマト……あれ? でも普通に食べてましたよね? 全然わからなかったです」
「最初は残していたし、別のものに取り替えてくれるようお願いしたこともある。でも、ある人に言われて練習するようにしたんだ」
「苦手なものを食べる練習ですか?」
「うん。結局まだ好きになれてはいないんだけどね」
すごく意外だった。トマトが苦手というのもそうだけど、こうしてお茶目な一面も見せてくれるのが嬉しかった。あと、ちょっと可愛い。
そんな会話をしているとメインディッシュが運ばれてきた。話を中断し料理を見ると、美味しそうな肉汁がキラキラ輝いているお肉料理だった。
付け合せの野菜も色とりどりでお肉とのバランスを取っている。そこで私は気がついた。
「フラナ様、フラナ様」
「ん?」
「私、苦手なものありました。ブロッコリー得意じゃないんです」
「モサっとしてるもんね」
「でも……」
そう言って添えられていたブロッコリーをフォークで刺して口へと運ぶ。
モグモグと数回噛んで飲み込み、ちゃんと食べたとアピールすれば。
「苦手なものを食べる練習だね」
「未だに好きになれていませんが」
そうやって顔を見合せて二人で笑っていると、なんだか少しずつ食欲が湧いて、ペースが上がってきた。
変に緊張していた肩の力が抜けてきたのかもしれない。
私はお肉を口に運び、味わいながらメインディッシュを完食したのだった。
「お話中失礼致します」
その後もフラナ様と会話をしながらデザートまで食べきると、タイミングを見計らったかように婦人が入ってきた。
何事かと思えばどうやら私に用事があるようで、お届け物と言って手渡されたのはシンプルな封筒だった。
「こちら第一王女のミーシェ様より、アイール様へのお手紙です」
「え? ミーシェ様……?」
封筒を裏返せば、可愛らしい字でミーシェ・ゾネリヒ書かれており、王家象徴の光の剣の封蝋で閉じられているそれは、間違いなく第一王女からの手紙。
急いで封を切り、中身を確認すると二日後のお茶会へのお誘いだった。