ビジネスマンとしょうが焼き
毎日のように通学で電車に乗ると、乗車口や、座る席、混んでる時の立ち位置など決まってくる。朝の通学、通勤ラッシュの時間はとくにそうだ。乗り降りだけで精一杯で、なんとなく決まった位置にいる方が、私だけではなく、周りも楽みたいだ。
私と同じ駅で降りるビジネスマン風のスーツ姿のお兄さんは、席を取り合うライバルだった。そちらも毎日仕事で大変でしょうが、こちらも学校が大変なんです。
若いんだから譲れと、いえ貴方も充分若いですよ。
そうあれは夏休みに入っての事だった。学校に用があり、せっかくだからとランチを食べに喫茶店に行ってみようと思ったのだ。
お昼時の喫茶店は魔境だ。近所のお店や事務所で働く方々や作業員の方々など、美味くてボリュームある昼食を求めて一斉にやって来るのだ。
私は早めに入れたので、老紳士が帰ったばかりの一番奥の席に座れた。お昼は混むと聞いていたので、なるべく広い席は空けておきたかった。
今日のおすすめは、しょうが焼きだ。しょうが焼きに、お味噌汁に、ご飯。おすすめなので、ご飯は大盛り無料になる。
この店の喫茶店メニューの中でも、しょうが焼き、肉野菜炒めは一番高いメニューになる。なんと言ったって肉だからね。
お昼代は貰っていたので、私はおすすめを迷わず選ぶ。うん、大奮発だよ、母に感謝だよ。ドリンクセットにしてホットコーヒーではなく、アイスコーヒーをつける。
お昼時の戦争のような中で、優雅にコーヒーを飲んでくつろぐ勇気はないから。それに外は暑いし、こういう時だからこそ、お昼の様子を知りたかったのだし、違うものも頼みたくなったわけだ。
この喫茶店のしょうが焼きは、自家製のタレだ。生にんにく生しょうがの皮を剥きスライスして適度に刻む。それをミキサーに入れて、しょうゆ、みりん、酒、砂糖を投入し混ぜる。
肉は豚肉の小間切れ肉。いわゆる細切れ肉は形が整ってない肉で、色んな部位が混ざる可能性がある。だいたい炒め用だから安い。
その豚小間を油を引いたフライパンに投入。座っている席まで肉の焼けるジュ~ッて音が届かないのが残念だ。玉ねぎスライスが入り、炒まったあたりでタレが入る。
お皿にはスライスされたキャベツが山盛り。お味噌汁は豆腐、ワカメ、刻み油揚げとネギ。私の好きな具だ。
ご飯はライス皿に大盛りにしてもらう。山盛りナポリタンに比べれば可愛いものだ。アイスコーヒーが揃い、さっそくいただく。
しょうが焼きは、お店によってはマヨネーズが付く。まさにカロリー爆弾だよね。この店は頼めばもらえる。
しょうが焼きについても、肉も一枚一枚大きく薄くスライスされたものや、厚めのロース肉を洋風にソテーしたポークジンジャーなどある。私はこのメシを食わせる感じの「ザ・しょうが焼き」が好きだ。
暑さで汗をかいたためか、しょうが焼きの塩分がありがたい。夏休みなので少しくらいニンニクが入っていようと気にせずにいただける。
まずはお味噌汁をいただく。濃いしょうが焼きは、ご飯とキャベツを食わせるためにあると私は食べてみて感じた。肉と玉ねぎをうまく摘んでパクリと口へ運ぶ。
甘しょっぱさと肉の旨味を堪能し余韻のあるうちに、ご飯を口へ追加投入。キャベツはタレの絡んだ所が最高に旨い。これでもご飯が進むので、大盛りライスでも配分が必要になる。
やめられない、とまらない、某スナックのCMのように、しょうが焼きが私の中に染みてゆく。気づいた時にはお皿は空だった。
食後のアイスコーヒーは格別だ。ここのアイスコーヒーは勿論アイス用の豆でホットとは別に作る。ガムシロップとミルクが小さなピッチャーに入っていて可愛らしい。
ほんの少し堪能している間に店内にはお客さんで埋まって来ていた。その中のグループの一人に、私の知るビジネスマン風の方がいた。私に気づいたようで食後のお皿から、何を食べたのか気づいたようでニヤッと笑った気がした。
私と違い、彼はお昼時の常連客なのだろう。仲間たちより注文に慣れていて、全員おすすめのしょうが焼きと、アイスコーヒーを頼む。もちろんライスは大盛りだ。だが、運ばれて来たしょうが焼きは同じはずなのだが、ライスの量が、大盛りの倍くらいの特盛だった。
あの不敵な笑みはコレか。店側が彼の食べる量を把握していて、多目に盛るうちに特盛になったそうだ。さすが働き盛りのビジネスマンだ。
私は負けた気分になって悔しかったけれど、今回のしょうが焼きに関しては、もっとご飯が食べられそうなので、彼の量は正解だと思った。
あれだけパワフルな昼食を食べるくらい元気なのだ。今後も彼とのライバル関係は続くと思われた。ただスーツを着たビジネスマン、サラリーマン風なのに、みんなしてニンニクの匂いをさせて大丈夫なのかだけが気になった。
今回は喫茶店のお話しなのですが、町中やサービスエリアなどの食堂の定食の、しょうが焼きや肉野菜炒めも好きです。マンガ飯のような白飯を、一心不乱にかっ込む姿には憧れます。