表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/10

アメリカンおじさんとホットドック

 夕方の来店が増えたとは言えども、モーニングも食べたい時がある。私が足繁く通う喫茶店は、パンを使ったメニューが豊富だと思っている。

 パンも厚切りトーストのパンと、ホットサンド用の食パンは違うメーカーのパンで、他にもホットドック用のパンがある。


 厚切りトースト以外は市販のパンなんだけど、ホットサンドは専用のパン焼き器で焼くので妙に美味しいし、モーニング以外では、厚切りトーストを使って、ピザトーやツナトーや小倉ホイップなどが参戦してくる。


 就職して稼げるようになったら全メニュー制覇してやる、なんて思いながらモーニングを頼む。


 さて今朝は何にしようかと迷っていたら、ジャムおじさんがやって来た。ジャムおじさんはいつも通り、Aセットだから参考にならない。そう思っていたのは間違いだった。


「Cセットでアメリカンで頼むよ」


 Why? 思わず私もかぶれでみたよ。そういやおじさん、今日は野球帽はヤンキースキャップに、ジーンズで固めてる。何気にお洒落に気を使っているんだよね。


 私の視線に気付いたのかニッコリ微笑むジャムおじさんならぬ、アメリカンおじさん。


 Cセットはモーニングのパンのセットのなかでも一番お値段が上なのだ。


 ドックロールとか、ロールパンとか、コッペパンとか呼び方は未だによくわからないのだけど、ホットドック用のパンの上部を切って間にからしバターが塗られている。そこに微塵切りの玉葱とレタスとソーセージが挟まれて、ケチャップとマスタードを自分のお好みでかける。


 パンに挟まれたソーセージは、実際はロングウインナーで当時はスーパーであまり見かけない品だった気がする。まあ、学生でスーパーに頻繁に行かないのでそう思いこんでいただけかもしれないですが。


 アメリカンおじさんは、美味しそうにホットドックに齧りつく。ケチャップは控えめ、マスタードはたっぷりのようだ。


「アメリカンはね、お湯を半分にしてくれるかい」


 アメリカンおじさんの「こだわり」 でた、と思った。この喫茶店のアメリカンは普通のブレンドコーヒーをお湯で薄めただけのもの。

 

 手間をかけず苦いコーヒーを飲みやすくする工夫だったり、コストの為だったり諸説あるけれど、本来ならアメリカンコーヒーとは、「浅煎りで焙煎したコーヒー豆でいれたコーヒー」 なのだそうだ。


「浅煎り豆を、多めのお湯でいれたコーヒー」 や、抽出したコーヒーを「お湯で薄めたコーヒー」 のことを指す 場合も「アメリカンコーヒー」 を指すようで、日本での独自進化や解釈なのも否めない。コーヒーの苦味が抑えられ、軽くゴクゴクと飲めるのが良いらしいので、助かる人も多いみたいだ。


 アメリカンおじさんも、苦いコーヒーは苦手なのかもしれないと思う。だってジャムおじさんだし。


 私はアメリカンおじさんに釣られてCセットを注文した。コーヒーはもちろんホットコーヒーだ。旨そうにかぶりつく姿には負けたけれど、時折無性にチープなホットドックを食べたくなるのは、この思い出の記憶のせいかもしれない。


 私はホットドックについて少し調べてみた。ホットドッグの発祥はアメリカへやって来たドイツの移民が、ドイツ・フランクフルトで食べられていたソーセージ「フランクフルター」を持ち込んだことが始まりと言われている。


 当初は手掴みで食べられていた。当然、素手だと熱い。そこでパンに挟んで提供するようになる。ホットドックの原形は、ソーセージを食べやすくする工夫だったわけだ。

 

 ホットドックの原形は19世紀後半、アメリカ・ニューヨーク州で野球観戦のお供として広く知られるようになる。

 なんで熱いソーセージを素手で食べたかったのか、それがここで繋がった。野球場にホットドックの原点、なんて今更かな。


 当時の「フランクフルター」がダックスフントに似ている事から、ダックスフントソーセージと呼ばれていたそうだ。

 一説には漫画家がそれをネタに漫画を書こうとしたものの、スペルが分からずに「ホットドックはいかが?」と言う漫画のタイトルにしたものが広まり、ホットドックという名前が定着したとか。


 ······名前の由来はいいのだ。ただ、ずっともやもやしていたのは、ホットドックにはビールかコーラじゃないか? と思ったのだ。

 アメリカンおじさんに記憶と共に、ずっと何か引っかかていたのはそれだった。


 この喫茶店には瓶のビールもあるし、瓶のコーラもあった。缶でもペットボトルでもなく瓶のコーラは何故か旨い。


 ヤンキースってニューヨークでしょう。そこに合わせるのなら、ビールはともかく単品ホットドックと瓶のコーラをいきましょうよ、そう思った。


■□■□■□■□■□■□■□■□■




 ジャムおじさん、二度目の登場でした。当時はわかりませんでしたが、ロシアンティーといい、ホットドックとニューヨークといい、何か関わりがあっての事だと後で知りました。


 ホットドックにコーヒーは間違いなく合います。アメリカンおじさんには、ビールは無理でも、コーラでホットドックを食べてほしかった。この私のわがままな気持ちが生んだもやもや感は、社会人となって自分で昇華出来ました。

 公式企画、秋の歴史2023短編連作五話目になります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ