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 再び、先ほどの部屋へ戻された祈。

 今度は、獏間と共に刑事……笹ヶ峰に詰め寄られていた。


「おい、どういうことだ。坊主、お前、獏間の依頼人じゃなかったのか?」

「は? いや、依頼したことはないっす」

「じゃあ、なんでこいつの名刺を持ってる!」


 ――そんなことを言われても、だ。


「もらったから……」

「あぁ?」


 祈は正直に答えたのに、ドスの効いた声で凄まれる。

 これでは、完全にドラマで見る取り調べだが、聞かれている内容は変だし、隣に涼しい顔の獏間がいるのもおかしい。


(なんだ、こりゃ……)


 よくわからない状況に陥り祈は困惑した。横の獏間は、足を組んで余裕たっぷりに座っている。


「それは僕が説明するから、座って落ち着くといいよ笹ヶ峰刑事」

「……なんで、てめーが仕切ってんだよ、この悪食野郎……!」

「これまた人聞きが悪いな」

「人聞きだぁ? そんなもん、気にもしねーくせに」


 獏間をにらみつけると、笹ヶ峰はドカッと向かい側の椅子に腰掛ける。

 ふんぞり返るように座り「で?」と偉そうな態度で先を促した。


「簡単な話さ。ここにいる勤労青年は、先日バイトをクビになったばかり。そして、僕は彼を見込んで助手にしたいと思った。だから連絡先を渡した――それだけの話さ」


 笹ヶ峰は、口をあんぐりとあけて、祈と獏間を見比べた。


「じょ、助手? お前、本気か? ――おい、坊主、コイツの下で働くつもりなのか?」

「え? いや、俺は……」


 その気はないと伝えようとしたが、笹ヶ峰は頭を抱えて混乱している。


「では、笹ヶ峰刑事。謎が解けたのなら、僕たちはここで失礼する――行こう」


 刑事の混乱など意に介さず、マイペースに挨拶をして席を立つ獏間。

 自分はどうするべきか、祈は迷った。

 だが、薄く微笑んだ獏間から「捕まると話が長いよ」と言われ、席を立つ。


 これ以上獏間について聞かれても、答えられることなどなかったからだ。



+++ +++ +++



「あの、俺が名刺を落としたりしたから、連絡行ったみたいで。なんか、迷惑をかけて、すみません」


 背中を追いかけて謝罪すると、獏間は笑顔のまま首を横に振った。


「構わないよ。それより、なんだか大変な状況のようだね。……叔母さんが行方不明なんて」

「……? ……そう、すね。俺も、さっき聞いたばっかりで、なにがなんだか」


 僅かな違和感。

 けれども、気にとめるほどでもないと流し、祈は当たり障りない答えを口にしたのだが。


「まあきみのせいだけど」

「――は?」


 祈は、思いのほか剣呑な声を出してしまったと思ったが、獏間はなにも気にしていない。

 変わらず、薄く微笑みを浮かべたままだ。


「悪いことが起こるのは、全部きみのせいだ」

「……なに、言って……」


 思わず足を止め、言葉に詰まる祈。

 肩に、ポンと獏間の手が置かれる。


「――きみ、呪われているよ。そういうモノを惹き付ける体質だ」


 そう言って自分を追い越して歩き去る男の背中を、祈はなにも言えず見ていた。

 悠然と警察署の正面玄関を出て行く、後ろ姿を。


 獏間の姿が見えなくなると、ハッと息を吐き出す。

 一瞬、呼吸すら忘れたように、息が詰まった。


(なに言ってんだ)


 普通なら、相手にするべき類の人間ではない。

 ああいうのは、困った人間をカモにする、新手の霊感商法かなにかだろう。


 そう、相手にする必要はない。それなのに……冷静な思考とは裏腹に、祈の足は、獏間の後を追うように走り出していた。


「――待って下さい、獏間さん!」


 もうすぐ敷地を出ようとしていた探偵は、祈の呼びかけに足を止めると、振り返った。


「ああ、来たね」


 まるで、分かっていたかのように悠然と、自信満々に。

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