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 祈の母である美琴は、実家と縁を切り東京に行く予定だった。

 少なくとも、当時暮らしていたアパートの大家親子、そして美琴と付き合いが続いていた友人の情報だと、そういうことになっていた。


(それが、なんで心中……)


 隣の市から戻るために高速を走行する車内で、獏間が芝居がかった口調で言う。


「これは、本丸に攻め込むしかないね」

「本丸って……?」

「当時のことをよく知る人間は、まだいるだろう。少なくともあと二人」


 祈は、ぐっと眉間にしわを寄せる。


「祖父母っすね。……でも、あの人たち、俺の話なんて聞くかどうか……」


 嫌われているのは百も承知だ。

 話をしたいといっても、乗ってくるか分からない。

 だが、獏間は自信たっぷりだった。


「呼び出すんだ」

「え、今?」

「そう、今。あぁ、笹ヶ峰刑事、戻ったらご老人でも楽に来られるような飲食店へ連れて行ってくれ。甘い物が充実していてドリンクバーもある、ファミレスがいい」

「うるせぇ!」


 獏間は笹ヶ峰に注文を付け、さっそく怒鳴られているが……。


(来るか? あの人たちが)


 今までなら、どうせ無駄と行動を起こすことすらしなかった。

 だが、変わりたいと願ったのは自分だ。

 スマホを握り、祈は獏間に向かって頷いた。


「やってみます」


 指先ひとつで、祖父母の家電に繋がる。

 無機質なコール音を聞きながら、祈はゆっくりと深呼吸した。

 そして。


『――はい、錫蒔です』

 

 電話に出た声は、女のものだった。

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