『波柴理惠』
アタシは可愛い。
誰よりも可愛い。
生まれた時からずっと可愛くて綺麗で、常に最上位にいた。
ずっと一番で、みんなが好きな人は例外なくアタシのことが好きだった。
アタシが誰より一番なのに、その異物は入ってきた。
ひとりでいたソイツは、別に見れない外見でもなかったし、取り巻きとしてちょうどいい見栄えだったから――優しいアタシを演出するための道具として、声をかけてあげた。
でも、だんだんと……おかしくなっていったのよ。
グループに入れてやった取り巻きたちは、アタシを褒める言葉を口に出す機会より、なにが好きだのこれが可愛いだの、あなたにはそっちが似合うだのと、くだらない話題で盛り上がるようになった。
おかしいでしょ?
アタシが中心の、アタシのためのグループよ?
どいつもこいつも、アタシのことを見て、アタシの変化に気付いて、アタシのご機嫌を取って、羨ましがって、アタシがどんなにすごいかで盛り上がるべきでしょ?
おまえらみたいな、アタシの引き立て役でしかない奴らに、なにが似合うかなんてどうでもいいんだよ!
――原因は、あの異物。
本来アタシが中心で動くべきことが、全部おかしくなっていく。
取り巻き共は、いつの間にかアイツと楽しそうにアタシ以外の話題で盛り上がっている。
いいなと思っていた男の子は、アタシが声をかけてあげたのに、あの異物を選んだ。
――中心であるべきアタシを蔑ろにして、アタシが受けるべき告白も横取りして、なんなのアイツは?
アタシの世界に入ってきた、異物。
アタシのモノに、色目を使って奪っていく、最低な生き物。
嫌い、大嫌い!
だから、目の前から消してやったのに、なんでアイツは堂々としていられるの?
許せない。
惨めったらしく泣いてればいいのに。
痛くもかゆくもありません、みたいな顔をして。
今度は冴えない三軍女をシンユウなんて呼んで、馬鹿みたいにはしゃいでる!
なによ! 世界の中心は自分です、みたいな顔をして!
本当に嫌。
大嫌い。
気に入らない。
気に食わない。
あの明るい声も、笑顔も、全部、全部、全部!
――あの異物が、絶望する世界が見たい。
そう強く思った時、心の底で、なにかがぞわりと蠢いた。
それが、アタシの明るい世界の始まりだった。




