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弁当戦争☆

作者: 花明かり

思い付きでパパっと書いちゃいました。

読んで頂けたら幸いです。

よろしくお願い致します。

「今日は3色サンドイッチよ」

 そう言って可愛いランチボックスを9歳の息子に渡した。

 

 こっちは日本と違って給食もあるし、それが嫌なら家からお弁当を持って行く事もOKなのだが、以前、おむすびを入れたお弁当を持たせたら、「アジア的だぁ」と学校の友達に馬鹿にされた息子に「もう、給食しか食べない!」と帰るなり言い渡されてしまった。


 日本の給食と違ってカフェテリアで複数のメニューから好きな物が食べれるのだが、栄養素なんて考慮していないチーズと安いお肉満載のメニューが主で、野菜は生か塩ゆでしたもののみ、数日なら美味しく感じるかもしれないが、1週間も通うとマンネリなメニューに息子の方が早々に音を上げた。


 そこで私がやった事はパンやパスタ中心のお弁当を作って持たせる事だ。


 それでも、「母さん!ナポリタンはダメなんだよ」と息子が帰るなり訴えて来た事もあった。

 ナポリタンは日本にしかないパスタらしい。ケチャップで味付けたパスタってのがダメで、ちゃんとトマトソースでないとってことがポイントだとか。ナポリタンって『ナポリの~』って意味じゃないの?と思いながら、パスタがメインのお弁当の時はナポリタンを作らない様にした。

 でも、ナポリタン好きなのにねぇ。態々、日本製のケチャップを使って作ってあげたのに。友達に揶揄われたくないという気持ちの方が強いのだろう。たった9歳だけど、ちゃんと自分の意見を持っているなら、母さんはその意見を尊重してあげるよ。もちろん、対応できる範囲でだけだどね。

 でも、出来たら、日本ではこんな美味しい物も食べれるんだぞ!いいだろう?くらい反論して欲しいと思うのは息子に対して望みすぎだろうか?


 家の王子様は小さいながらも口が肥えてるので、生半可な物は作れない。

 日本料理も中華料理もフランス料理もイタリアン料理も、アメリカのジャンク料理もどれも好きで、家にいる時は作った物は問題なく食べてくれる。しかし、学校の友達たちが全員白人で息子が唯一の有色人種ということもあり、息子の行動基準は如何に友達と同じ事ができるかということだ。だが、それは息子よ、あなたが持つアジア人というアイデンティティを否定しているってことに、何時気づいてくれるんだろう?


 友達のマイクのランチボックスの中には、ピーナッツバターを塗っただけのサンドイッチや、りんご丸々1個、細いニンジン丸々が数本、プレッツェルなんかが入っているらしい。

 サンドイッチがメインなのに、何故プレッツェル?

 私にとっては謎だ。

 更には砂糖たっぷ~りのカラフルなゼリーが入っているらしい。この前は派手な水色だったらしい・・・。そんなの食欲がなくなりそうな気がするけど、こっちの子はカラフルな色のお菓子やケーキに慣れているからへっちゃらなのだろう。

 グミなんかは色もすごいが、形までリアルな虫とか・・・日本人の感性には全く合わないと思う。


 息子に頼まれてマイクと全く同じメニューのランチボックスを作って持たせてやったこともあった。ただ、それだと調理されたモノが入っていないので、カボチャサラダを添えた。

 冬だったので腐る心配はないとは思ったけど、日本にいる母に百均で買って送ってもらっていた抗菌シートやキャラクターが描かれた小さな保冷剤を使ってランチボックスの隅っこに入れておいた。


 二日間はそのランチボックスで喜んでいた様だが、三日目には飽きが来た様だ。

 だよね。だって、こっちの子たちのランチボックスの中に煮炊きした物は入っていないのがデフォなんだもん。そんなパンと素材だけのランチって、日本で育った私ではあまり愛情を感じる事は出来ないよ。


 私が高校生だった時、母が作ってくれたお弁当には必ず焼き魚が入ってて、友達の前でお弁当箱を開くのが恥ずかしかった。

 焼き魚は色も地味だし、匂いも魚が入ってますって主張してたし、友達のカラフルなお弁当箱の中身に憧れたけど、じゃあ自分で作れと父に言われた時、お弁当を作ってもらえるのがどんなにありがたい事なのか悟った。

 焼き魚は父からのリクエストなので、私の要望より父の方を優先する母というのも嫌じゃなかった。


 あの頃、毎日作ってくれてたお弁当が生の野菜や買って来たパンや、お菓子しか入ってなかったら、恥ずかしいというより寂しいと思ったと思う。

 だって周りは手の込んだお弁当を持って来ているんだもの。

 日本だとコンビニ弁当を持って来るという選択肢もあるだろうが、朝バタバタと学校へ行く支度をしている横でジュワ~と卵焼きを作ってくれている母の背中が台所にあるのは実に安心感があった。


 だから私も家の王子様にはちゃんと調理したお弁当を持たせてやりたいのだ。

 自然、サンドイッチの具は凝りに凝ったものになったし、サラダもいろんな種類を作った。時には2種類のサラダをランチボックスに入れたりもした。

 おやつは出来るだけ手作りしたケーキやゼリーだったので、カラフルな色のものは一切ない。でも、味は美味しいはずだ。


 パン主体のお弁当作りに限界を感じた時、同じ町に住む日本人女性にを相談したけど、「キャラ弁なんてどう?」というコメントが返って来た。でも、キャラ弁は、こっちの感覚では食べ物で遊んでいる印象を持たれやすい。

 作る方も知恵を絞って可愛かったり、面白かったりする弁当を作るのは楽しいと思うけど、キャラ弁でお茶を濁すのは、何か負けた気がするから嫌だ。


 それからも私と息子の弁当戦争は、パンやパスタメインのランチボックスを用意する事で決着を見ずに終わった。



 今日、とうとう息子が卒業した。

 義務教育が終わったのだ。

 今度は大学が始まるのだが、仲良し5人組の内、大学へ行くのは3人だけ。しかも、それぞれが別々の大学へ行く事になった。


 今日は家に仲良し5人組が息子の部屋に集まっている。これから、それぞれの未来が分かれるから、最後にみんなでワイワイやるそうだ。

 そろそろ、おやつでも持って行ってやろうかしらねぇ。


 彼らがいつも食べるスナック菓子や、チーズやナッツ類、ソーセージやハム類を綺麗に並べたトレイを持って行った。

「お!母さん、ありがとう」

「「おお!おいしそう」」

 そう言って彼らが見たのは、トレイの端に遠慮がちに乗せておいた手作りのかぼちゃサラダだった。

「俺、トールのランチボックスがずっと羨ましかったんだ」とマイクが言った。


 え?私が作る料理はアジアンだからダメだって言ってたのはあなたたちでは?と、私は一瞬固まった。

 それは家の王子様も同じだったらしく「え?何で?いつもアジアンだって揶揄ってたじゃん!」

「そりゃ、1人だけ美味しそうな弁当持ってくるんだから、嫌味の一つも言いたくなるだろう?」

「そうそう」

「一口くれって言ったら、たまぁ~に本当の一口分だけくれることはあったけど、基本交換もしてくれなかったしな」

「うんうん。俺なんて一口分のなんだっけ?豚肉を揚げてパンで挟んだやつ・・・」

「ああ、トンカツね。あれはカツサンドって言うんだ」

「名前はどうでもいいけど、俺が美味しい美味しい、交換してくれって言っても、あれから一度もくれなかったしな」

「あはははは」家の王子が渇いた笑いをあげる。


「トールのお母さん、僕等ずっと食事の時間は指を咥えて眺めさせられたんですよ。本当に羨ましかった」

「そうそう」


「何でみんなと分け合わなかったの?」と息子に聞くと、サイモンが代わりに応えてくれた。「最初にこいつがトールのランチボックスを見て、アジアンだって揶揄ったのを根に持ってるんですよ」と、横に座るトムの頭をつつく。

「そうそう。あれからトールが美味しそうなランチボックスを持って来る度に、俺はみんなからめっちゃ責められたんですよぉ。俺のせいで交換すらしてもらえないって」と、トムがボヤク。


 結局、みんなからのリクエストに応えて、その夜はカツサンドだの、手作りカレーパンだの、いろんなサラダを作って出した。

 今回はお弁当ではないので、大きなカップに具沢山のクリームシチューも大盤振る舞いした。


「何?これ、うめぇぇ」って誰かが叫んでいた。

 それねぇ、ふふふふ。そのクリームシチューは隠し味に白味噌が入ってるから、隠れアジアンなんだよと、1人『江戸の敵を長崎で討つ』プレイをして悦に入っていたのは内緒だ。


 そんな時、家の王子様が言った。

「家の母さんの料理は美味しいから誰にもやらんかった」とニヤリと悪い笑みを浮かべて、残りの4人にどつかれていた。


 なんだぁ、結局お弁当美味しく食べてくれてたんじゃん。

 息子は来週、大学のある町へ引っ越す。

 もうお弁当も作ってやれない。

 でも、最後に新しい街への移動中に食べられる様に、お弁当でも作ってやるかぁ。

 愚息よ、母さんが作るお弁当を心して食せよ!にやり。


タイトルの☆にはちゃんと意味があったのだよ。ほほほほ。

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