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第8章


 ラッシュフォードのせいでレディアは、入学後まもなく学園で孤立する状態に陥った。このことにフリシアは酷く腹を立てた。恩を仇で返すとは何事だと。

 フリシアはダムリンにこの状況をどうにかして欲しいと頼んだ。このままではレディアには親しい友人もできない。それはあんまりだと。

 学園の中でラッシュフォードに意見が言えるのは、唯一王太子である彼だけなのだから。

 

 ダムリンも従兄弟のラッシュフォードの言動には疑念を抱いていたので、前々から何度となく注意をしていた。感情を乱さないようにオブラートに包むように言葉を選んで。

 しかしそんな回りくどい表現ではラッシュフォードには通じなかった。このままではまずい。多少そのせいで副作用が出ても仕方ないとダムリンは覚悟を決めた。

 

 ある日ダムリンはラッシュフォードを神殿に呼び付けた。神殿の中には基本聖職者と王族でないと入れない。

 そこなら一般生徒を巻き込むことはないだろうとダムリンは考えたのだ。そして彼は今回ははっきりと単刀直入に、現在のレディアの状態を説明した。

 

 

 

 

 

 レディアが悪者になって、生徒達から酷いことを言われている。それでもいいのかと。

 そのことに気付いていなかったラッシュフォードは酷く驚いた。突如稲妻と共に大きな雷鳴が響いたくらいだから、彼はかなりショックを受けたらしい。

 従兄弟にどうするつもりなのだと解決策を尋ねても、彼がパニックを起こすだけだとわかっていたダムリンは、現状を伝えただけでその日はその場を去った。

 しかしその後彼は従兄弟の出した結論に頭を抱えたのだ。

 

 自分のコミュニケーション能力ではレディアに悪意を持っている奴らを説得できないと判断したラッシュフォードは、ますますレディアに引っ付いて、彼女の側から離れなくなったのだ。

 

 しかしそれは一番の悪手だった。なぜなら、絶えずくっついている二人を見た者達は、レディアが自分を守らせるために無理矢理にラッシュフォードを侍らせていると捉えたからだ。

 

 

 レディアは何も好き好んでこのヒートリア王国に来たわけではない。この国の罪なき人々を魔王から守って欲しいと懇願されたから仕方なくやって来たのだ。

 それなのに何故悪女だの、公爵家の嫡男を手玉に取る魔女だのと言われなければならないのか……

 本当のことを皆に話してしまいたいが、そんなことをしたらこの国はパニックに陥るだろう。

 そして、脅威の対象になったラッシュフォードが、周りからどんな目に遭わされるかわからない。せっかく二人でここまで頑張ってきたのに。そう思うと自分が我慢すればいいのだと諦めたレディアだった。

 それに心の中でラッシュフォードが謝罪し続けていることもわかっていたし。

 

『レディア、僕のせいで辛い思いをさせてごめんね。僕がもっと上手く立ち回れれば良かったんだけど。

 これからはもっと君の側にいて守るからね』

 と。

 

「貴女を虐げる物達なんて、私が魔法で懲らしめてやるわ」

 

 フリシアにはこう言われたが、レディアは頭を振った。そんなことをすればフリシアが魔法を使えるのだと知られてしまう。そしてこの国を乗っ取りに来たと思われて、彼女まで敵視されてしまう。

 ただでさえフリシアは、国王夫妻や高位貴族達からは冷遇されているのだから。

 

 レディア達がこの国に最初にやった来た時、彼女達と顔を合わせた高位貴族達は、自分達の名誉のため、そして何よりこの国のためにと誰もがあの日のことを口にはしなかった。

 しかしまだ学生の彼らでは、彼女達が魔術師だということを知れば、たとえ脅しをきかせたとしても、きっとそれを黙ってはいられないだろう。彼らは国の事情を知らないのだから。

 

 レディアは一人で耐えることに決めた。彼女は人の心を読めるが、その反対に他人の心の声や実際の声(音)を遮断する能力も備わっているのだ。一人でいる時は心と耳は遮断しよう、そう彼女は決心した。

 しかしそうはいっても視野まで遮断するわけにはいかなかったので、嫌悪感を表す相手を絶えず目にしなければならない状況は正直心を抉る。次第にレディアの精神は削られていった。

 そして最終学年の三学年に進級後、ある日とうとうレディアの心の糸がプツンと切れてしまった。

 それは隣国ホールディンマン王国からやって来た留学生が起因していたのだった。

 

 その留学生はブリッジス侯爵令嬢エメライン。ふんわりとしたピンク色の髪に大きな水色の瞳をした、まるでお人形のように愛らしい少女で、王太子の婚約者フリシアに匹敵するほど華麗だった。

 しかも小柄な割に豊かな胸にキュッとしまったスタイルをしていて、男子生徒とどころか男性教師の目まで釘付けにした。

 

 彼女の周りにはすぐに男子生徒が群がるようになった。そして彼らは口々にこの国について教えてあげるよと囁いた。

 そしていつもその群れの中心にいたのは、この国の第二王子のトリスタンだった。

 そう。女好きな彼が彼女に目をつけないはずがなかったのだ。

 読んで下さってありがとうございました!

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