第6章
ラッシュフォードはレディアの指導協力のもとで、少しずつ人とコミュニケーションがとれるようになっていった。
また、周りの者達も彼女の助言によって、ラッシュフォードに意見や感想をすぐに求めることをやめた。
そうすれば翌日にはラッシュフォードから理路整然とした完璧な解答が得られるとわかったからだ。しかも、ラッシュフォードの機嫌を損ねることなくだ。
ラッシュフォードは自分の興味のあること以外ほとんど関心を持たない子供だった。しかし彼はレディアのことが大好きだったので、レディアが関心のあること、好きなものについては彼もまた同じように興味を持つようになった。
アソート公爵家の広い屋敷の中にはレディアが造った花壇や、木々に据え付けた巣箱、飼育を始めた犬や兎やハムスター用の小屋がある。
最初のうちラッシュフォードはレディアがその花や鳥や動物達の世話をするのをただ眺めていた。
しかし、彼女の関心がそれらに向かうと自分との会話が減る。それを嫌がり、いつしか彼も彼女の隣で一緒に世話をするようになった。
そうすれば彼女との会話も増えることに気付いたからだ。
レディアが教育係になってから、ラッシュフォードが癇癪を起こして泣き叫ぶようなことはなくなった。
そのためにあれ程頻繁だった自然災害もほとんど発生することがなくなっていた。
そのことでレディアはアソート公爵家の者やこの国の重鎮達から大変感謝された。
そしてレディアによって厳選された様々なタイプの子供達と頻繁に交流を重ねた結果、ラッシュフォードのコミュニケーション力が徐々にアップし、次第に友人と呼ばれる存在が増えていったのだった。
しかし友人ができると、ラッシュフォードは彼らの前でレディアを貶すようになった。それは好きな子は虐めたくなるという少年期特有のものだった。
レディアが好きで好きで仕方ないが、恥ずかしくてその感情を上手くコントロールできなかったのだ。
「女の子にそんな酷い物言いをしてはいけません。嫌われてしまいますよ」
そう母親に注意されてラッシュフォードは真っ青になった。レディアに嫌われたらどうしようと。彼は恐怖に襲われて久し振りに感情を爆発させかけた。
するとレディアがラッシュフォードの手を握ってこう言った。
「私はラッシュフォード様を嫌ったりしませんよ。貴方が私を思って下さっている間は。
たとえ貴方が私の悪口を言ったとしても、貴方の本当の気持ちは私にはわかりますから心配しないで下さい」
と。それを聞いてラッシュフォードはホッと安堵した。自分はこれからもレディアに嫌われることはないのだと。
ひねくれた口は時折酷い言葉を発してしまうこともあるが、いつだって心の中は違う。レディアへの愛で溢れている。だから自分が彼女に嫌われることは決してないのだと。
レディアには心を読む力がある。そのことに甘えてしまい、ラッシュフォードは己の欠点を顧みる努力を怠ってしまった。
彼女はいつどんなことがあっても自分を好きでいてくれる、そう慢心してしまったのだ。
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ラッシュフォードは十五歳になると王立学園へ入学した。
当初はアソート公爵家だけではなく王家も酷く心配したが、それは杞憂に終わった。
なんと幼い頃はあんなにきかん坊で癇癪持ちで手に負えなかった公子が、学園ではすぐさま人気者になったからだ。
拘りが強くて面倒なラッシュフォードの性格を知らない生徒達が、表面上見目麗しい公子様に憧れを抱いたのは当然だったろう。
その上彼は、文武両道全てのジャンルで飛び抜けた才能を示したので、生徒達からすぐに称えられる存在となった。
それ故に却って取り巻き以外、むやみに近づく者がいなかったので、ラッシュフォードの本性がばれずに済んだのだった。
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